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【レビュー】キヤノンの200万画素デジタルカメラ『IXY DIGITAL』――気軽に持ち運べるサイズとデザインに魅力

2000年05月26日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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キヤノン(株)はコンパクトタイプのデジタルカメラ『IXY DIGITAL(イクシ デジタル)』を26日に発売した。211万画素と必要十分な画素数のCCDと沈胴式の光学2倍ズームを、“世界最小・最軽量"という質感の高いステンレス製ボディーに搭載した魅力的な製品だ。このIXY DIGITALをキヤノン販売(株)のご好意で入手し、さっそく撮影してみた。今年夏のデジタルカメラ商戦の“台風の目"になるのは間違いなさそうなIXY DIGITAL。気になる撮影画像のクオリティーや使用感をお伝えしよう。

『IXY DIGITAL』。キヤノンらしい優美なデザインだ(以下、記事中の写真はすべて記者撮影)
『IXY DIGITAL』。キヤノンらしい優美なデザインだ(以下、記事中の写真はすべて記者撮影)



あのIXYがデジカメに! 質感の高い外観はIXYならでは

『IXY』シリーズはもともと、銀塩フィルムのフォーマットのひとつであるAPS(Advanced Photo System)フィルム用のコンパクトカメラだ。APSが発表された'97年、各社の対応カメラがみな35mmコンパクトの延長でしかない従来通りのデザインだったのに対し、初代IXYは超小型で斬新なデザインの金属ボディーを採用してさっそうと登場。誕生当時から危ぶまれていたAPSカメラ市場の立ち上げに大きく貢献した。

IXY DIGITALは、IXYシリーズのスクウェアなボディーとところどころに円形をあしらったデザインを継承し、さらに小型化した上でデジタル化も果たした。実機を手にするとまずその“世界最小・最軽量(200万画素クラスの光学ズーム機)”ぶりが実感できる。公称サイズは幅87×高さ57×奥行き×26.9mmとクレジットカード大のサイズ。より正確には、縦横のサイズがたばこのボックスとほとんど変わらない(厚さはIXY DIGITALが5mm程度上回る)。だからたばこの箱を手にとっていただければ、このカメラの小ささが分かるはずだ。重さは本体のみで約190g。電池とコンパクトフラッシュ込みでも300gを切るため、ネックストラップで首からぶら下げていてもその存在を忘れてしまう。

『Marlboroメンソール』の箱と比べてみた
『Marlboroメンソール』の箱と比べてみた



ボディー外装にはステンレス合金(SUS316)を採用し、手にした時のひんやりとした感じが心地いい。ボディーがあまりに小さいためホールド性が不安だったが、右手でボディー右側を持って左手で支えると、左手の手のひらにすっぽり収まってしまうため、下手な大きさのカメラよりしっかり構えられる。「カメラメーカーの意地」(同社)としてレンズがボディー中央に配置されている点もホールド性向上に大きく貢献している。光学ファインダー接眼部が適度な位置にあるため、横位置の際に右目でのぞくとぴったりとはまる。

IXY DIGITALの背面。円形のファインダーアイピースが色っぽい
IXY DIGITALの背面。円形のファインダーアイピースが色っぽい



シャッターボタンは大型で押しやすい。ズーム操作はシャッターボタンの外周ダイヤルで行なうため、シャッターボタンから指を離さないと操作できない。電源スイッチはシャッターボタン左にあるが、若干小さくて最初は押しにくかった。電源ボタンを1秒程度押し続けると電源オンになり、沈胴レンズが小さな機械音とともにせり上がってくる。背面には液晶ディスプレーの下に撮影モード切替えや再生時の操作用としてボタンが5個並んでいる。それぞれ小さいが、慣れれば問題はない。ボタンの数が少なく、操作系がすっきりしているのはありがたい。

くせのない色再現、開放から安心して使える超小型2倍ズームレンズ

ではさっそく撮影してみよう。撮影モードはすべてカメラまかせの“オート"と、設定をカスタマイズできる“マニュアル"の2モードある。取り扱い説明書によると、マニュアルモードは「露出やホワイトバランスを自分で設定できる」とあるが、基本的には絞り値とシャッタースピードは完全にカメラが行ない、可能なのは露出補正とホワイトバランスの設定、画質の切替えなどだ。

オートモードでは画質が“Fine/Large(1600×1200ドット)"に固定されてしまい、最高画質の“SuperFine/Large"が選択できないなど制約が多い。マニュアルモードではオートモードと撮影面で実質的な違いがない上、最長シャッター速度である1秒が有効になり、露出補正も可能になるなど有利な点が多い。少しでも撮影知識がある人はマニュアルモードでの撮影をおすすめする。モード切替は背面のボタンで簡単に可能な上、電源をオフにしても内蔵電池により設定が保持され、バッテリーを入れ替えても前回の設定のまま撮影を続行できる点は非常に便利だ。

ワイド端、絞り開放での撮影。画面四隅で解像度や周辺光量の低下は見られない。タングステン光をバックにデーライトがガラスに反射する難しい条件だが露出は正確だった(1/125、F2.8。撮影情報はExifによる。以下、画像はすべてSuperFine/Large)
ワイド端、絞り開放での撮影。画面四隅で解像度や周辺光量の低下は見られない。タングステン光をバックにデーライトがガラスに反射する難しい条件だが露出は正確だった(1/125、F2.8。撮影情報はExifによる。以下、画像はすべてSuperFine/Large)



金色の鮮やかさに欠けるが、光沢の描写はなめらかだ(ズーム中域、1/250、F3.5)
金色の鮮やかさに欠けるが、光沢の描写はなめらかだ(ズーム中域、1/250、F3.5)



小さなCCDにも関わらず、撮影画像は良好な結果が得られた。補色フィルターのため鮮やかさにやや欠けるが(補色から演算を行なってRGBを再現するため)、くせのない色再現は好感が持てる。記者愛用の『COOLPIX 700(1/2インチ211万画素補色CCD)』で同じ場面をいくつか撮影したが、COOLPIX 700でノイズが出た暗部でも、IXY DIGITALでは特に確認できなかった(ただし画素ピッチの小ささからノイズは多いはずとはいえる)。

沈胴式の2倍ズームレンズは焦点距離5.4~10.8mm(35mmカメラ換算で35~70mm)、開放絞り値はワイド端でF2.8、テレ端でF4.0。絞り開放でも画面四隅で解像力の低下や画像の流れはほとんど確認できない。ガラスモールド製の5群7枚(非球面3枚)ながら、沈胴時には前玉から後玉までの長さが19.3mmという“一円玉サイズ"(撮影時は31.7mm)。超小型化の影響が描写力に現われていないか気になるところだったが、撮影画像を見る限り文句はなく、開放から安心して使える優秀なレンズだ。

新宿西口名物の“キーボードおばあさん”が警備員とトラブルになっていた。CCDのISO相当感度は100のみで、高感度設定を行なうことはできない。シャッタースピードも表示されないので、手ぶれには注意したい(ワイド端、1/4、F2.8) 新宿西口名物の“キーボードおばあさん”が警備員とトラブルになっていた。CCDのISO相当感度は100のみで、高感度設定を行なうことはできない。シャッタースピードも表示されないので、手ぶれには注意したい(ワイド端、1/4、F2.8)



空の明るさを考え、+1の露出補正を行なった。露出補正の操作は良好だ。点光源も問題なく写った(ワイド端、1/125、F3.5) 空の明るさを考え、+1の露出補正を行なった。露出補正の操作は良好だ。点光源も問題なく写った(ワイド端、1/125、F3.5)



絞りに絞り羽根を使わず、各絞り値に対応した円形の絞り穴をスライドさせて切り替える真円形絞りを採用している。ボケ味が向上しているとのことだが、今回の撮影ではあまり効果ははっきりしなかった。キヤノンによれば、真円形絞りを採用した背景には技術的な問題をクリアーする目的もあったという。

採用したCCDは1/2.7インチの211万画素。これは各社採用の200万画素CCDサイズが1/2インチだったのと比べ小型。そのため1画素当たりのサイズは約3μmと現在の1/1.7インチ300万画素CCDと比べても小さくなっている。そのため絞り羽根を使用すると光の回折の影響をもろに受けてしまい、解像度が低下するのは避けられない。そのため真円形絞りを採用して回折の影響を避け、加えてボケ味の向上も図ったというのが真相のようだ。

画質は“SuperFine/Large"“Fine/Large"と、ウェブやメールでの使用に便利な640×480ドットの“Fine/Small"の3種類で、JPEG形式で保存される。取り扱い説明書によると、各モードのファイルサイズはそれぞれ1458KB、580KB、153KBとなっている。8MBのコンパクトフラッシュが同梱されているのはありがたいが、高画素の描写を楽しむには大容量タイプが必要になるだろう。記者は手持ちの48MBタイプを利用したが、SuperFine/Largeで31枚の撮影が可能だった。

テンポのいい軽快な撮影が可能

撮影はとても軽快に行なえる。キヤノン販売の販促用パンフレットによると、シャッターボタン半押しによる測距・測光の開始から終了まで約0.8秒、露光開始までのレリーズタイムラグが0.05秒。画像を記録メディアに書き込み、次の撮影が可能になるまでが0.85秒。撮影間隔は合計約1.7秒という。実際、ストレスなく次々と撮影が可能なので撮影枚数もつい多くなってしまう。

ただ、シャッターボタンはEOSシリーズなどと比べて半押しのストロークが深く、そこからさらに押し込んで露光開始となるため、レリーズによる手ブレには注意する必要があるだろう。また画像記録時に液晶ディスプレーがブラックアウトしてしまうのは残念。シャッターボタンを押し続ければ撮影画像を表示し続けるのだが、あまりなじみのない動作だ。

測光は中央部重点方式のみ。さまざまな条件で試してみたが、おおむね良好な結果が得られた。露出補正はマニュアルモード時のみ有効(0.3EVステップ、+/-2EVまで)で、“メニュー"ボタンを2回押せば補正用ゲージが液晶ディスプレーに表示される。単なる数値表示ではないので補正がしやすい(EOSの表示と同じ)上、他の操作をしない限りはゲージがずっと表示されたままなので、撮影中にいつでも補正ができて非常に使いやすい。電源をオフにしても補正値が保持されるのもいい。オートフォーカスはTTLによる3点測距。合焦時にはEOSでおなじみの“ピピッ”という音が鳴る(オフにできる)。測距点は表示されないが、撮影した限りでは“中抜け”などはなく、安心して使えるアルゴリズムになっているようだ。

各種設定画面。右上から時計回りに、画質など全般の設定画面、ホワイトバランス切り替え、露出補正、撮影モード切り替え
各種設定画面。右上から時計回りに、画質など全般の設定画面、ホワイトバランス切り替え、露出補正、撮影モード切り替え



ディスプレー表示はやや情報不足か

1.5型のTFT低温ポリシリコン液晶ディスプレーは昼間でも視認性は良好。だがCOOLPIX 700と比べると鮮明さに欠ける上、室内で暗部を見たらノイズが非常に多かった。ファインダーの視野率は82%と非常に悪いのでフレーミングは難しく(それでも装備している点はカメラメーカーらしい)、100%の視野率を持つ液晶ディスプレーをメインに使用せざるを得ない。残り撮影可能枚数や現在の設定モードなどは、電源オン時に5秒間表示されただけで消えてしまう。またシャッタースピードなどは一切表示されないため、暗い場所では低速なシャッタースピードに気づかず、思わぬ手ブレを招いてしまう。低速シャッター時にはファインダー横のLEDが赤く点滅して警告するので、これを頼りにするしかない。

シャッタースピード、絞りとも自分でコントロールはできないので、露出補正を駆使するしかない(テレ端、1/6、F4)
シャッタースピード、絞りとも自分でコントロールはできないので、露出補正を駆使するしかない(テレ端、1/6、F4)



ストロボは高効率かつコンパクトという『ライトガイドストロボ』を採用。スローシンクロも可能だ。色は自然だが、この画像ではハイライトでピンク色のにじみが出てしまった(ワイド端、1/30、F2.8)
ストロボは高効率かつコンパクトという『ライトガイドストロボ』を採用。スローシンクロも可能だ。色は自然だが、この画像ではハイライトでピンク色のにじみが出てしまった(ワイド端、1/30、F2.8)



電源は同梱の専用リチウムイオン充電池を使用する。記録画像数は、液晶ディスプレーオン時で約85枚、オフ時で約270枚という(Fine/Large)。実際の使用では、約2時間歩き回って25枚撮影(SuperFine/Large)したところでバッテリー切れとなった。“節電機能”として撮影時には3分間で電源が自動的にオフとなるのだが、電池寿命を考えるとこまめな電源オン/オフが必要なようだ。小型化のため専用バッテリーを採用したので、バッテリーが切れるとにっちもさっちもいかなくなるためだ。心配ならば予備バッテリーを用意すればよいが、しかし1個4500円と高価な点がつらい。フル充電には2時間かかるため、予備バッテリー用の充電器も欲しいところだが、これも1台5000円。今のところ、IXY DIGITALの弱点はこの電源周辺にあるように感じる。 。

マクロ撮影時はワイド端で10cmまで、テレ端で27cmまで寄れる。切り替えはボタンを1回押すだけ。もう1回押すと無限遠モードに切り替わる(マクロモード、ズーム中域、1/125、F7.1) マクロ撮影時はワイド端で10cmまで、テレ端で27cmまで寄れる。切り替えはボタンを1回押すだけ。もう1回押すと無限遠モードに切り替わる(マクロモード、ズーム中域、1/125、F7.1)



ボディーにはUSBポートが装備されており、オプションのパソコン接続キット(1万円)に同梱の専用USBケーブルでパソコンに接続できる。キットにはレタッチソフトとしてアドビシステムズ(株)の『Adobe PhotoDeluxe』やキヤノン製のアルバムソフトなどが付属する。またIXY DIGITALに搭載されている“スティッチアシスト”機能を利用し、2枚の画像をつなぎ合わせてパノラマ写真を合成するソフト『PhotoStich3.1』も同梱される。

300万画素機もライバルか

211万画素CCD、光学2倍ズームといえば、現行ではニコンの『COOLPIX 800』(1/2インチ211万画素、光学2倍ズーム、8万9800円)やソニー(株)の『DCS-S50』(1/2.7インチ211万画素、光学3倍ズーム、8万8000円)当たりが競合製品になりそう。だが価格面では両製品と約1万5000円のアドバンテージがあるのが強みになる。

さらにその個性的なデザインから、富士写真フイルム(株)の『FinePix 4700Z』(実画素240万画素、光学3倍ズーム、12万8000円)や、カシオ計算機の『XV-3』(1/1.8インチ334万画素、単焦点、8万8000円、6月発売予定)などスタイリッシュなデザインの高画素モデルとも十分に競い合えそうだ。またキヤノンの『PowerShot S20』(1/1.8インチ334万画素、光学2倍ズーム、9万9800円)に対してもライバルになってしまうかもしれない。

基本はしっかり、それでいて楽しい

IXY DIGITALはレンズ性能や光学ファインダーの装備など、カメラメーカーらしくカメラの基本はきちんと押さえながら、ユニークな外観などデジタルカメラとしての楽しさを忘れない優れたカメラだ。ハイエンドモデルは300万画素が主流だが、大判プリントを前提としなければ高画素にあまり意味はない。小さくて軽快なIXY DIGITALをポケットにいつもしのばせて、露出や絞りなんか気にしないで思いつくまま写真を撮るのも、デジタルカメラの楽しみとしては正解だろう。手頃なカメラを探している初心者の最初に1台に、またベテランの散歩用カメラとして、IXY DIGITALは誰にでもおすすめできる。

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