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【秋葉原TV 2 Vol.4】光を素材にしたまったく異なる2つの表現――テーブルトーク“powwow 21”より(後編)

2000年03月24日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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16日よりスタートした世界最大の電気街・秋葉原を舞台としたビデオインスタレーション“秋葉原TV 2”。会期中はアーティストによるパフォーマンスや作家によるトークセッショッンといったさまざまなスペシャルイベントも行なわれている。20日には参加作家を招いて、出品作品や秋葉原などさまざまな話題について自由に語ってもらう、テーブルトーク“powwow 21”が開催された。

テーブルトークは、中村政人氏を司会に、八谷和彦氏、パルコキノシタ氏、√Rからは鈴木真吾氏、戸澤徹氏ら日本の作家に加え、エリッヒ・バイス氏(BELGUIM)、アレスデール・ダンカン氏(UK)、マニュエル・サイス氏(SPAIN)、ジョセップ・マリア・マルティン氏(SPAIN)といった作家、さらにバルセロナ在住の浅岡あかね氏、日本在住のピーター・ベラーズ氏(UK)、フィリップ・シャトラン氏(FRANCE)が出席した。

本稿では作家のコメントの中から、特に“秋葉原”に関してテーマにしているものをピックアップし、その後編の模様とアーティストの作品を紹介する。

秋葉原の街を疾走するメタリック犬

昨年の秋葉原TVで話題になった√R(ルートR)のメタリックな犬(豚?)“ジャック”は、新作“reflect”で再登場した。
 
√Rは、企画とコンセプトを担当する鈴木真吾氏、キャラクターデザインとモデル製作を担当する櫻井たかあき氏、CG制作を行なう戸澤徹氏という'65年生まれの3人のアートユニットだ。Macintoshなどのコンピューターを操り、サイバー空間でアートを表現する。

ジャックのように、アートとして分かりやすいキャラクターで表現している√Rだが、√Rの活動について鈴木氏は、「アナログとデジタルの時代の狭間に生まれた世代の僕たちにつくれるものがあるんじゃないか、ということで活動しています。難解なものに後から言葉を足していくのではなく、一種のエンタテインメント的な作品をつくっていこう、と考えています」と説明している。

√Rの“reflect”。右より左に進行する。最後になってメタリックな犬“ジャック”であることが分かる
√Rの“reflect”。右より左に進行する。最後になってメタリックな犬“ジャック”であることが分かる



今回の彼らの作品は、前述のとおりジャックが主役。ところがこのジャックはなかなか登場せず、作品の最後にその存在が確認できる仕掛けになっている。
 
全編を通して、ノイジーな、またメロディアスなサウンドのモザイクとともに暗闇の中にまばゆいばかりの数多くの電飾の輝きがうねる。うねりはいつしか1つの形を帯びはじめ、終盤でその全体像が見える。最後には、秋葉原の電気店のネオンサインを映し込んだ鏡の鎧(よろい)を着たジャックだと分かる、というものだ。

鈴木氏はこの作品を制作する上でのキーワードについて、「できるだけ秋葉原の街の要素だけでつくろうということで、石丸電気やサトームセンといった電気店などの“お店”をキーワードとした。それに加え、“携帯のメロディ”、“スローモーション”、“ディテール”、“ハイクオリティー“の5つをキーワードとして制作を進めました」と語った。

サウンドは、お店から流れているテーマソングをサンプリングして加工

ビジュアルについて戸澤氏は、「秋葉原の街を写真で撮って、そのまま細工せずに3Dソフト上で筒状の中に取り込み、その筒の中で体をミラー状にしたジャックが疾走している状況を作り出しました。こうしたやり方でしたので、結果が出るまで敗退的なものになるのか、サイバーな感じが出るのか予測できないものでしたが、結果としてとても美しいものになりました」と制作プロセスに関して語った。

作品の最後にメロディアスな歌が流れるところでは、実はジャックが数十匹走っていることを暗示させているという。戸澤氏によれば「60億のジャックがいる、というイメージのエンディング」ということだ。「短足でずんぐりむっくりのジャックに自分たちを投影しています。このジャックが秋葉原を疾走する姿をちょっとカッコイイ、と思ってもらえれば意図したとおりです」と語ってくれた。

参加者の「石丸電気のテーマが多いのはなぜ?」との質問というより突っ込みに対して、戸澤氏は、「石丸が(結果的に)贔屓(ひいき)になってしまっているのは、あくまで偶然です」と苦笑いの回答となった。

ネットでつながるバルセロナと東京

秋葉原の街を作品に取り込む√Rの作品と同様に、光を素材にしながら√Rとはまったく異なる光を提示したのが浅岡あかね氏の作品“エスケープ”。浅岡氏の本作品は、暖かな光のイメージに、JAZZYなサウンドが絡むというメランコリックでノスタルジーなもので、光に対する親密さが表現されている。  

やわらかく暖かなイメージの光が美しい浅岡あかね氏の“エスケープ”(左)。石丸電気の店内で撮影したというフィリップ・シャトラン氏の“息を止める”(右)
やわらかく暖かなイメージの光が美しい浅岡あかね氏の“エスケープ”(左)。石丸電気の店内で撮影したというフィリップ・シャトラン氏の“息を止める”(右)



この光はクルマのフロントグラスに映った映像で、フランスからスペインへ行く途中に1時間ほど撮影していたもの。入っている歌は偶然に録音されていたものをそのまま使ったという。

浅岡氏は、今回の制作のために(これを理由に)PowerMac G4を購入し、Adobe Premiereを使って制作にあたった。ところが、「相性がよくないのかトラブルが何度かあった」という。浅岡氏は、現在、スペインのバルセロナに在住しているが、「そのたびに中村(政人)さんに助けてもらいました。ネットで東京につながっているのを感じ、ノスタルジックな気持ちになりました」と浅岡氏は回想した。

作品に多かれ少なかれ影響を与えていた秋葉原

このほか、秋葉原がテーマに関係している作品としては、テレビの反対側にいて、何をするわけでもなくテレビの前にいる人を捉え、“退屈”を表現したエリッヒ・バイス氏の“She shaves her...”、秋葉原の電気店のテレビ売場でキスするカップルたちの映像を描き、ドラマと現実、メディアと個人といったさまざまな関係を浮かび上がらせたフィリップ・シャトラン氏の“息を止める”が紹介された。
 
また、整列したLEGOブロックがフライパンの上で増殖を繰り返す作品“iレゴ”についてマニュエル・サイス氏は、「レゴは機械テクノロジーの象徴みたいなもの。きれいに並べることでデジタル情報の意味合いを持たせました。そのレゴのピースを秋葉原の部品みたいに考えることができます」とし、秩序と混沌の象徴としてレゴを捉えていると語った。

左よりエリッヒ・バイス氏の“She shaves her...”、ジョセップ・M・マルティン氏の“ラ・マスコッタ・デ・ミルタウン”、マニュエル・サイス氏の“iレゴ”
左よりエリッヒ・バイス氏の“She shaves her...”、ジョセップ・M・マルティン氏の“ラ・マスコッタ・デ・ミルタウン”、マニュエル・サイス氏の“iレゴ”



さらに“キンアカ・サークル”(=日の丸)を出品したパルコキノシタ氏は、秋葉原という町を現代の“出島”と評した。

これらのほかに、“ミルタウン”(意味は特にない)を中心に動くプロジェクトのマスコット犬を使ってつくられたジョセップ・M・マルティン氏の“ラ・マスコッタ・デ・ミルタウン”、氾濫するCMアイドルのイメージをテーマとしたピーター・ベラーズ氏“クロース・トゥ・ミー”なども紹介された。

左よりピーター・ベラーズ氏の“クロース・トゥ・ミー”、中村政人氏の“7%”、パルコキノシタ氏の“キンアカサークル”
左よりピーター・ベラーズ氏の“クロース・トゥ・ミー”、中村政人氏の“7%”、パルコキノシタ氏の“キンアカサークル”



プロジェクトのリーダーを務めつつ、“7%”を出品した中村政人氏は、「自分がどういうものなのかについて、他人の中に見い出すことが多い」と語り、秋葉原TVをつくっていく過程で、28人の人に拍手をおくってもらい、その映像を収録して作品とした。

アキバハウス前のベンチで談笑する八谷和彦氏、中村政人氏、パルコキノシタ氏
アキバハウス前のベンチで談笑する八谷和彦氏、中村政人氏、パルコキノシタ氏

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