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【メディアの足し算、記号の引き算シンポジウム Vol.1】複合現実感(Mixed Reality=MR)とは? その可能性を探る

1999年06月29日 00時00分更新

文● 平野晶子

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西新宿・東京オペラシティタワー4階のNTTインターコミュニケーションセンター(ICC)において、国内外のメディアアーティストや研究者を招き、7月20日まで特別展“メディアの足し算、記号の引き算”展が開催されている。会期中は、作品の展示はもとより、コンサート、シンポジウム、ワークショップが目白押しで開催されている。このなかで特にシンポジウムに的を絞り、その模様を数回に分けてお伝えする。

VRより一歩進んだMRとは何か?

バーチャルリアリティー(人工現実感=VR)から一歩進んで、よりインタラクテビィティーに優れた複合現実感(Mixed Reality=MR)の研究が進んでいる。このMRについて、国とキヤノンの共同出資による国内MR研究の拠点、(株)エム・アール・システム研究所(以下MR研)から、取締役研究開発ディレクターの田村秀行氏、主任研究員の大島登志一氏が招聘され、その世界をビデオ映像と共に解説した。また、VRをいち早く国内に紹介したことでも知られる、朝日新聞社『ぱそ』編集長、服部桂氏をモデレーターとする3者のディスカッションが行なわれた。

まず、田村氏がVRとMRの違いを解説。VRではコンピューター内に仮想世界を作り、何らかのアクションを起した結果、すなわち音や映像が、人間の通常感覚の許容範囲内で、リアルタイムに返ってくるようにしなくてはならない。しかし、これまでのVRでは映画などのように、仮想空間を制作した側が見せたいものを一方的に見せるだけだった。そうではなく、現実から仮想世界への働き掛けを可能にするもの、それがMRである。もともとはトロント大学のポール・ミルグラム氏の発案だという。

MR研開発ディレクターの田村氏
MR研開発ディレクターの田村氏



MR研主任研究員の大島氏
MR研主任研究員の大島氏



MR研が目指す“現実世界と仮想世界を継ぎ目なく融合する”MR技術

現実世界(リアルワールド)と仮想空間(サイバースペース)のうち、現実世界を基本として、これを電子データで補強することをAugmented Reality(AR)という。逆に仮想空間を基礎として、実世界のデータで補強するという考え方をAugmented Virtuality(AV)という。この両方を加えたものが、MR研が目指す“現実世界と仮想世界を継ぎ目なく融合する”MR技術なのである。

言葉の定義だけではまだ半信半疑の聴衆のために、MR研が2年前に制作したというイメージビデオを上映した。これは2010年、近未来の建築会社でMRが活用されている様子をドラマ仕立てで見せるものだ。

商用で建設会社を訪れた企画会社のビジネスマンが受付で渡されるのは、名刺大のデータカードとサングラス型のヘッドマウンティドディスプレー(HMD)。これを装着し、腕時計型の小型コンピューター上にカードをスライドさせると、社内案内がディスプレーに表示される。訪問目的の人物がどこにいるかも画面表示で一目瞭然。初対面でも間違える心配はない。受け取る名刺もデータカードであり、即座に相手のプロフィールから趣味まで知ることができる。設計中の大型ビルも図面ではなく、立体映像による詳細なミニチュアで確認できる。

HMDを装着した姿がどことなく“ターミネーター”を思わせるSFノリで、MRが実用化された世界をわかりやすく紹介していた。

こうしたMR技術の開発で最も困難なのが、現実情報と仮想情報を重ねる際に生じるさまざまなズレの修正である。ここからは大島氏にバトンタッチし、昨年のSIGGRAPHでも展示されたというMRを応用したゲーム、『AR2 Hockey』(Augmented Reality aiR Hockey)などを例に技術解説を行なった。特製のHMDやバレットなどを装着して、CGによる仮想パックを打ち合うものだが、特に問題となるのは位置合わせ。そのため、バレットに赤外線発光装置を組み込み、これを天井に取り付けたCCDカメラで追跡して位置情報を取得している。

HMDにも頭の位置を検出できるよう、高精度の磁気センサーを取り付けている。さらにテーブル上にもマーカーを取り付け、位置補正を行なうという複雑なシステムで、処理マシンにはSGIのO2が使用されている。SIGGRAPH98の期間中6日間で1000組がプレイした、世界で最も多くの人が参加したAR応用ゲームだという。

これをさらに発展させた、『RV-Border Guards』というシューティングゲームもビデオで披露。テーブルを囲んで複数のプレイヤーが、3D CGのサメやイカに似たエイリアンを攻撃するというもので、ゲームタイトルの意味は“現実(Real)と仮想(Virtual)の境界線を守る”ということ。また、MR Living Roomという、仮想の屋内のシミュレーションも紹介された。

MRを応用したゲーム『AR2 Hockey』。SIGGRAPHでも展示された
MRを応用したゲーム『AR2 Hockey』。SIGGRAPHでも展示された



期待されるMRの応用分野とその課題

再び田村氏が壇上に登場、今後期待されるMRの応用分野として、手術補助などの医療分野、下水道・ガスなどの配線確認、街や建物などの誘導案内、都市計画の際のシミュレーションなどを挙げた。ユニークなアイデアとしては、消防士のヘルメットに、目的の建物の構造などを表示させるというものがあるとしながら、「現実にはマーカーをどこに貼るか、貼れたとしても煙の中でそれが認識できるのか」という問題があり、実用化にはさらなる研究の余地があることを指摘した。

最後に服部氏が加わってのディスカッションとなった。視覚、聴覚以外の感覚を取り込む研究はどの程度進んでいるのかとの会場からの質問に対しては、田村氏が「残念ながら非常に困難であり、触覚に関しては指にサックをつけるフォースディスプレーなどわずかに進歩が見られるが、その他に関しては現段階ではまだ時期尚早」との見解を示した。服部氏も「人間の感覚は常にすべての情報を完璧に認知しているわけではなく、その時々に応じて比重が異なる。そうしたバランス感覚を人工的にコントロールすることは難しい」と語った。服部氏はさらに続けて「MRはアートと科学を融合させ、新しいアートを生み出す大きな可能性を秘めている」と今後の研究に期待を寄せていた。

パネルディスカッションの様子。服部氏も加わる
パネルディスカッションの様子。服部氏も加わる



なお、この特別展は7月20日まで開催されている。

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