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【メディアの足し算、記号の引き算Vol.3】国内外で活躍するアーティストが一堂に会したメディアアート展

1999年07月07日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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国内外で活躍するアーティストが一堂に会したメディアアート展

“マルチメディア”、“メディアアート”といった言葉から目新しさが消え、むしろ日常的なものになりつつある昨今。東京、新宿のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で7月20日まで意欲的な特別展が開催されている。現実空間の一部を切り取ること=引き算、既存の表現にテクノロジーを駆使した彩りを加える=足し算。そうしたメディアアートの手法を国内外で活躍するアーティストの作品を通してあらためて提示する催しとなっている。

出品作家はカーネギー・メロン大学の石崎豪氏、メディア・アーティストの岩井俊雄氏、スコット・ソーナ・スニッブ氏、作曲家のカール・ストーン氏、そして'97年以来、世界各地に設置されたマイクを通してリアルタイムな“音”を聞くウェブを制作し続けてきたセンソリウムなど。

ICCの常設展示で人気の高い前林明次氏の“視覚化された『間』”、三上晴子氏の無響室を素材とする作品も本展に参加している。

スコット・ソーナ・スニッブ氏の作品。作品空間に複数の観客が入ると、頭上から投写される線が人物同士の空間をどんどん分割していく。数学のダイナミックな表現とも言うべき話題作
スコット・ソーナ・スニッブ氏の作品。作品空間に複数の観客が入ると、頭上から投写される線が人物同士の空間をどんどん分割していく。数学のダイナミックな表現とも言うべき話題作



岩井俊雄氏の“テーブル上の音楽”。ふだん人間が手で物を触って操作するのと同じ感覚で映像や音が操作できる
岩井俊雄氏の“テーブル上の音楽”。ふだん人間が手で物を触って操作するのと同じ感覚で映像や音が操作できる



石崎豪氏の“Kinetic Typography”。書き言葉としての文字を時間的に表現。デジタルメディアにおいて、固定した形態から解き放たれた文字(text)あり方を提示する
石崎豪氏の“Kinetic Typography”。書き言葉としての文字を時間的に表現。デジタルメディアにおいて、固定した形態から解き放たれた文字(text)あり方を提示する



センソリウムの“BeWare02: Satellite”。極軌道衛星が800kmの上空から捉えた現在の地球の様子を投影する生きたオブジェ
センソリウムの“BeWare02: Satellite”。極軌道衛星が800kmの上空から捉えた現在の地球の様子を投影する生きたオブジェ



素材に新しい視線を投じ続けてきたストーン氏のコンサート

シンポジウムやワークショップ、ギャラリーツアーなどの関連イベントも多彩だが、すでに予約でいっぱいの盛況ぶり。私は6月25日に行なわれたカール・ストーン氏のコンサートを見る機会を得たが、MAX/MSPで組まれたプログラムによって1台のG3 PowerBookから噴出する膨大な音響が圧巻であった。

コンサートの中盤、会場の壁面に等身大の女性の影が写し出された。女性はその後、呪縛を解かれたように動き出すのだが、しばらくすると、それはただ韓国語カラオケ(レーザーディスク)LDを壁に投影していたのだということがわかる(ハングル語の歌詞が流れる!)。巷に溢れ、誰も注意を払わないような音や映像、皆に飽きられたヒットソングの断片。そうした素材に新しい視線を投じて新鮮な作品を発表し続けてきたストーン氏らしい演出であった。

スペシャルイベントとしてコンサートを行なったカール・ストーン氏。会場全体を覆う音響とレーザーディスクの映像は迫力とともに独特の茶目っ気で観客を魅了
スペシャルイベントとしてコンサートを行なったカール・ストーン氏。会場全体を覆う音響とレーザーディスクの映像は迫力とともに独特の茶目っ気で観客を魅了



カール・ストーン氏の幻のLD『L.A. Journal』も公開中

やはりストーン氏が音楽を担当した、LD『L.A.Journal』が会場内のシアターで上映されている。レーザーディスクといえば、もはやメディアとしては過去のものと思われがちだが、本作品はLDというメディア特性を十二分に生かしたものであり、'90年代初頭マルチメディア黎明期の息吹を伝えるものだ。

現ボイジャー社長の萩野氏がパイオニアLDC在籍時代に米国ボイジャー社と共同で制作したもの。平たく言えば、ロサンゼルスの街の紹介のような作品なのだが、ただの観光映像ではない。風変わりなフォトジャーナリズムともでも言うべきか。16万もの静止画が超高速で動くパラパラアニメのようにスピードと熱気に溢れたLAの姿を写し出していく。そこに歴史を語る何千枚もの記録写真が加わり、高密度のドキュメンタリーになっているのだ。

このLDは日本では発売されず、またアメリカ本国でも絶版になっているため、今回の上映は大変貴重な鑑賞の機会ということになるだろう。

幻のLD『L.A. Journal』はICC内のシアターにて会期中1時20分と5時に上映(金曜日のみ6時、7時、8時の回もあり)
幻のLD『L.A. Journal』はICC内のシアターにて会期中1時20分と5時に上映(金曜日のみ6時、7時、8時の回もあり)



技術の新しさよりも、表現の新しさによって人を立ち止まらせ感じ考えさせる

どの作品も我々の身の回りに当然のごとく存在するもの(文字、人工衛星、他人との距離感などなど)に“引き算、足し算”を施すことによって新たな視点と驚きを与えている。センソリウムの作品はWeb版を楽しんだことのある人も多いだろうが、今回の作品ではWWWやインターネットのインターフェースが、コンピューター端末に限定される必要はない、ということを明確に表わしている。

エントランスに展示されたインスタレーションにおいては、小型スピーカーからとある駅の雑踏、南の島の虫や蛙たちの鳴き声がリアルタイムに流れ出し、空間全体を何ともいえない響きで満たしている。

時速100キロで走っていても止っているように感じる――現代社会はまるで高速道路のように技術革新のスピードに慣れ切っている。技術の新しさよりも、表現の新しさによって人を立ち止まらせ、感じ考えさせる作品がそろった展覧会だといえるだろう。

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