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「Rioを3台並べて叩き壊すくらいのインパクトを」--メディア・アーティスト協会 松武秀樹氏に聞く

1999年04月20日 00時00分更新

文● 聞き手:千葉英寿/文:編集部 伊藤咲子

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今年2月、音楽家の坂本龍一氏をはじめとするアーティストが発起人となり、「メディア・アーティスト協会(Media Artists Association:MAA)」が発足した。インターネットをはじめとするデジタルメディアにおける著作権のあり方などについてアーティスト自身の意見を集約・発表することを目的とした団体である。26日に開催される同会の'99年度第1回例会を前に、関係者の松武秀樹氏に、MAAの活動内容や音楽のデジタル配信などについて伺った。松武氏は、MAA発起人の1人であり、MAA事務局長を務めている。

MAA事務局長を務める松武秀樹氏
MAA事務局長を務める松武秀樹氏



松武秀樹氏は'51年生まれ。20歳の時より富田勲氏に師事。Synthプログラマー・ミキシングから、編曲、プロデュースまで手がける。'78年~'82年はYMO(Yellow Magic Orchestra)にサウンドプログラマーとして参加し、その後も、自己ユニットのLogic System、井上陽水、吉田拓郎、CHAGE & ASKAといったアーティストのアルバム制作に関わっている。日本シンセサイザー・プログラマー協会の副会長を務めている。

海外のインディーズからの問い合わせ多数

--現在、MAAの会員数はどのようになっていますか?

「正会員(アーティスト)が40名、ソニー(株)や(株)電通といった企業会員が5、6社といったところです。アップルやマイクロソフトなどは、企業として加入するかどうか検討中のようです」

「正会員は、写真家やグラフィックデザイナーをはじめ、小説家、建築家まで多岐の分野にわたっています。さらに海外のアーティストからも、特にインディーズのディレクターからの問い合わせが多く寄せられています。もちろんこうした海外の方にも会員になっていただき、世界的に盛り上げていきたいと考えています。次回の例会(4月26日)までには、賛助会員(※)も含め100名は超えることになるでしょう」

MAA会員は、以下の2種に分かれる
・芸術作品を公表した実績のある個人(要、会員推薦)
・MAAの目的に賛同する個人または法人

--MAA会員外へは、どのようにアプローチするのでしょうか?

「今月末、坂本(龍一氏)らが中心となり、MAAのホームページを立ち上げる予定です。ちょうど例会の前にはお目にかけることができそうです。そこから声を掛けていきたいと考えています。マイナーレベルでがんばっている若い人たちも勧誘したいですね」

音楽以外の分科会も

--今までのMAAの例会を見ていますと、話題が音楽に集中している感が否めないのですが。

「MP3など技術的な問題や著作権問題が先行してしまっているので、どうしても話が音楽に集中していてしまっています。今後は、それぞれ分野別に分科会を作り、均等に取り組む予定でいます。また、そうでなければならないと考えています」

--MAA全体としての主張としては、どのようなことを訴えていこうとお考えですか?

「一番言いたいことは、安心して自分の作品をデジタルで配信したい、ということです。こうしたルール作りを業界の力関係ではなく、皆で話し合って策定すべきだと考えます。アーティストの意見という意味において、MAAが諮問機関になれればと思います」

「これは、MAAでデジタル課金徴収をやろうという、考えではありません。インターネットブラウザーを使ってコンテンツを発表するという点ではどの分野も同じです。分科会の代表者を集めMAAとして意見を集約し、最終的には通産省なり文化庁なりに訴えていきたいと思います」

デジタルの出現による新たなルール作り

--前回の会合では、会員全体に通底するものとして、デジタル化に前向き、という印象を持ったのですが。

「MP3(『Rio PMP300』などのハードウェア)に関しては、音質を考えても良いマシンだと思います。しかし、デジタル配信に関してルールがなく、さらにSDMI(Secure Digital Music Initiative)など業界主導の規格が策定されようとしています。“決めちゃいました。ハイこれで行きましょう”--これでは困るんです」

「もちろん、SDMIで仕様が策定された場合、MAAはそれを尊重します。6月までに、携帯型製品のための技術ガイドラインを策定するとのことですが、特に複製や透かし、管理に関して、MAAはアーティスト側の要望を提案する予定です」

--現在の日本の状況についてどう思いますか?

「デジタル化の著作権問題に関しては、(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)など、しかるべき団体が指導しなければならなかったということ、また作り手側も興味を持たなかったということが、混乱の原因だと考えています」

「しかし、JASRAC、(社)日本レコード協会、(社)日本芸能実演家団体協議会の3団体で著作権を全部扱っているとしても、アーティストの意見をまとめず自分たちの意見のみで進行させるのは時代遅れではないでしょうか。インターネット上にミュージシャンの権利をより守ってくれる外国の機構があったら、皆、そちらに移ってしまうかもしれないですよね(笑)」

デジタル化配信にはすべて課金か

--3月の例会で、J-scat(日本作詞作曲家協会)と激しい議論がありましたが、その後、話し合いなどはされていますか?

「J-scatは、JASRACの中でも改革派で、使途不明金や現在のデータの集計方法をなんとかしなければと取り組んでいるようです。もちろん、あの後も彼らと話し合いも設けているし、逆に“ぬるま湯”だったのが、意見を戦わせて良かったと思っています」

--デジタル配信への課金に関しては、どのようにお考えですか?

「すべて課金の方がいいだろうと思います。ただし、意識しない程度の金額が望ましいでしょう。CDには“個人的に楽しむなどのほかは、著作権法上、無断複製は禁じられています”とありますが、この“個人的”の意味するところが、親兄弟まで?、いとこは?、と明確ではありません。また、パッケージはパッケージでほしいという需要もあるだろうと思います」

(株)デジタルガレージの代表取締役社長を務める伊藤穣一の好意で、MAAのオフィスは現在、インフォシーク事業本部内の一角に間借り
(株)デジタルガレージの代表取締役社長を務める伊藤穣一の好意で、MAAのオフィスは現在、インフォシーク事業本部内の一角に間借り



著作権に関する社会的な意識改革を

--クリエーターの卵がいる教育機関へのアプローチは行なっていますか?

「私自身が、日本工学院や尚美学園といったさまざまな教育機関でセミナーを行なっています。こうした機会に、MIDIなどの技術やMAAの活動を紹介しています。中には、その日のうちに生徒から“新鮮な授業でした”とメールが来たりしました」

--コンテンツ自体が、高価だったり、絶版であったりすることを理由にコピーはやむを得ないのではないか、という意見がありますが、これに対してはどのようにお考えですか?

「やむを得ない、というかもしれません。しかし、コピーは製作者にとって大変失礼なことであるし、損失を招いています。CDを盗ったら万引きになるのと、まったく同じことだと思います」

--MAAの例会のように、議論の場を一般に公開することは考えていらっしゃいますか?

「7月に東京国際フォーラムで、一般の人も参加できる著作権生誕100年のシンポジウムがあります。そこで、坂本をはじめアーティストがデジタル化配信に関してどう思っているか、身近に感じてもらえばと思います」

著作権問題に関して松武氏は、広報活動と教育の重要さを繰り返し強調した。松武氏は、「前回の例会のミーティングで、Rio(MP3プレイヤー『Rio PMP300』)を3台くらい壊そうかという提案が坂本から挙がったくらい」と語る。家庭用ビデオやMDによるコピーが日常的な行為となってしまった今、そのくらいでなければインパクトを与えることができないのかもしれない。

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