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「Open Source Software Convention」レポート

1999年09月05日 00時00分更新

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 8月21日から24日にかけて、米国カリフォルニア州のモントレーで、O'Reillyの主催による「Open Source Software Convention」が開かれた。同イベントは、以前からO'reillyの主催で行なわれていたPerl Conferenceを中心にApache、Linux、Python、Tcl/Tk、Sendmail、Open Source Businessといったテーマを加え、「Open Source Convention」というひとつの大きなイベントとしたものだ。

 前半2日間はチュートリアルで、それぞれのテーマに対して、スピーカーが解説をする。そして、後半2日間がカンファレンスとなる。後半に関しては、午前の最初に必ずすべてのテーマに共通のキーノートセッションがある。これは1日目はGuy Kawasaki(garage.com)、2日目はBill Joy(Sun Microsystems)が行なった。これがすべてのトラックに共通のキーノートで、その後それぞれのテーマに関してのキーノートが行なわれる。Larry Wall(Perl開発者)、Miguel de Icaza(GNOME開発者)、そしてEric Raymond(「伽藍とバザール」著者)らがスピーカーとして招かれていた。

Eric Raymond講演
講演するEric Raymond

 今回、アスキーNTの渡邉副編集長が参加したので、話を聞いてみた。

[日刊アスキー] まず、イベントの概要についてお聞きしたいのですが。
[渡邉] 基本的には展示会、キーノート、セッションがあってと、そろっている要素としてはCOMDEXなどと同じですが、性格は全然違います。むしろ、コンピュータ系の学会に近いでしょう。セッションがメインで、まあ展示会はおまけと言った感じでしょうか。
[日刊アスキー] トレードショーみたいなものではないということですか。
[渡邉] ビジネスをしに来ているのではなく、もっと学術研究的な意味合いで、それぞれのプロジェクトの進捗状況や、今問題になっているのは何かを確認する、といった感じですね。進行の仕方も、スピーカーの話を聞くといったのもあるし、いわゆるトークセッションみたいな感じで、参加者と一緒に会議をやっているようなものもあります。
[日刊アスキー] そうすると、展示会のほうはどんな感じなんですか。
[渡邉] 展示会はブースが全部で15~16くらいでした。もう極めて小規模です。VA Linux SystemsのようなLinux関係のハードウェア屋さんや、Sun MicrosystemsやHewlett-Packardなどのブースもありましたが、特定のテーマにしぼって見せるという感じでした。たとえばSunも展示はしていましたが、普通のトレードショーとは違って、JSP(Java Server Page)の部隊しか来ませんでした。これもBOF(Birds of a feather)(※1)でのテーマだったから、それとのからみでそれだけを見せに来ていたという感じですね。はっきり言ってしまうと、もう展示会はほとんど見るに値しないんですね。
 まあ、変わったところではREIというアウトドアグッズのショップが出展していました。ちょっと場違いだったけど、Webで店を作るのにこんな技術を使っていますよという意味で展示をしていたみたいです。
 FSF(Free Software Foundation)も出展していましたね。いつものとおり、マニュアルとCD-ROMを売っていました。
[日刊アスキー] ちなみに、日本人は何人程度参加していましたか。
[渡邉] 見掛けたのは8人くらいです。なにか新しいものが発表されるという感じではなくて、本当にコミュニティの集まりで、研究発表をやっているという感じだから、それほど集まらないのでしょう。
[日刊アスキー] では、セッションについておうかがいしたいと思います。どんな内容のものだったんでしょうか。
[渡邉] 僕は、Linuxのセッションを中心に出たんです。ただ、Linusが来なかった。それがこのイベントの内容を表していると思います。つまり、そこにはLinux自体のことは何もないという感じですね。まあLinuxのセッションの中にGNOMEとかKDEとかも入っているから、話題自体はけっこう豊富なんですが。
 ユーザーの研究発表みたいなのはたくさんありました。Georgia工科大学でウェアラブルコンピュータの研究をしているんだけれど、その中身をLinuxで作っているといったものですね。
[日刊アスキー] で、それは実際に機械を使ってセッションをしたんですか。
[渡邉] そう、目の前で眼鏡みたいな機械をつけたまま、うろうろしながらセッションをやっていました。
Thad Starner氏講演
ウェアラブルコンピュータを実際に身につけて話すThad Starner氏

 まあ、昔からそういった実験用のOSというのは、UNIXを使ってやっていたんです。それが今は、Linuxになってきたということです。やはり、ソースを見ることができるというのが大きいのでしょう。
[日刊アスキー] ひとつのセッションに何名ほど集まるんですか。
[渡邉] ものによって違いますが、僕が見た中ではウェアラブルコンピュータが一番多くて、100人を越えていたようです。少ないほうだと、GNOMEでMiguelが話をしたときで、50人くらいでしたね。
[日刊アスキー] 「Linusが来なかったというのが、このイベントの内容を表している」という話を、もう少し詳しくお聞きしたいのですが。
[渡邉] Linuxをやっている人々が、Linuxの問題を話し合ったりする場ではないということですね。Linuxはこのイベントではone of themなんです。特に今のLinuxの現状はというと、そろそろ安定版のカーネルがFIXするとかで、大きく動いている時期ではありません。その上にどういう環境を載せるとか、実際にどう使うなど、そういう話が多かったですね。先ほどのウェアラブルコンピュータや、クラスタリングシステムを作ったという話が一番目立ちました。Linux自体のコードを書いているような人々は来ていないみたいでしたね。
 逆にPerl、Python、Sendmailのように開発者が来ていたセッションのほうは、それ自体の開発の話で盛り上がっていましたね。「今動いているプロジェクトがどうなっているのか」といった話もありました。
 あと、Linuxに関係するといえば、Open Source Businessというトラックがありました。
 Mozillaの開発者が来ていましたね。Raymondなどを加えてトークセッションみたいなことをやったり、単独での講演もしました。かなり人が集まったけれども、粉糾もしました。それらのセッションを見る限りでは、既存の商業ベースでソフトウェアを開発していた企業が、オープンソースに移行するのは相当難しいな、と感じました。
[日刊アスキー] 粉糾というとどんな風にでしょう。
[渡邉] まず、Mozillaは成功か失敗かで、2つに評価が分かれます。さらにNetscapeが悪かったのか、オープンソースというスタイルの適用方法が悪かったのか、といった形でも評価が分かれましたね。
 Netscapeの側としては、あれは失敗だったという認識でいるみたいです。彼らは、「オープンソースで、ソースを公開するのは誰でもできる。ただ、開発のプロセス自体をオープンにするのはとてつもなく難しい」と言っていました。それはたぶん、Raymondが言っているバザールモデルと対立する考え方だと思いますが、開発プロセスをオープンにしてしまったため、Netscapeとしてはコントロールできなくなってしまった。それが、Mozillaの失敗の原因だったということでした。けれども、それは、オープンソースコミュニティの考え方とは違うんですね。
 オープンソースといえば、Linuxのセッションのなかで、SGIのバイスプレジデントが話をしたんですよ。ミネラルウォーターのペットボトルをもって来て、演台の上のコップの水と比べて、「こっちは売り物、こっちはただ。でも中身はいっしょ。この違いはなんでしょう」と聞くんです。「これはパッケージングされていて、ラベルがついている。ユーザーがお金を出すのは中身の水じゃなくてこのラベルだ」というのが、彼らの答えでしたね。
 つまり、ブランドをどう確立するかが、オープンソースをベースに企業が商売できるかどうかということですね。
 余談ですが、Red Hatが今度日本法人を作ることになったのも、「ブランドを確立するために努力している彼らが、自分たちでそのブランドを使って商売をしたいと考えた」ということで当然の成行きといえるかもしれませんね。
[日刊アスキー] ブランドをどうやって確立するかという話はなかったんですか。
[渡邉] それはありませんでした。マーケティングの問題だから、あそこで話す問題ではないんでしょう。背広を着ている人間も少なかった。LinuxWorldなどはマーケティングの人間と思われる参加者も多かったのですが。
 そういえば、台湾からの参加者が来ていて、彼と「ローカルな言語の入力はどうする」という話になりました。そこで「TurboLinuxが日本ではATOKをつけて大成功している」と言う話をすると、「ATOKとうのはオープンなシステムか」と聞いて来たんですよ。まず、それが気になるみたいですね。
[日刊アスキー] オープンソースのライセンスモデルに関する話は出ましたか。
[渡邉] Sunのライセンス(Sun Community Source License)がものすごく叩かれていましたね。
 「フォークを禁止している」というのが理由でした。フォークというのはUNIXの用語でもあるのですが、要するに食器のフォークのように、いくつかのものに分岐していくことを示すんです。
 JavaはいわゆるAPIのインターフェイスを固定していて、それを必ず守らなければならない。同じものがどこでも動くためにはそれは必要なんですが、「固定されるのはいやだ。そういう形のライセンスはオープンソースとは認めない」ということでしたね。
[日刊アスキー] ただ、Sunの「方向性をコントロールする」ライセンス形態でも、ユーザーにとってのメリットは十分にあるし、Sunがそんなに非難されるというのは、良く分からないんですが。
[渡邉] それに関しては、実はSunの人間がRaymondに対して抗議していました。Raymondが「認められない」と言ったときに、Sunの人間が「仕様は変えちゃいけないけれど、実装方法については何通りできてもよい。実装方法についてはフォークは認められているじゃないか」と言ったんですが、それに関してはRaymondは返事をしませんでした。「そんなことは、言い訳にも何にもならないよ」と思っているのか、「でも、俺はSunのライセンスは嫌いなんだよ」と思っているのかはわかりません。そこはけっこう大きい問題だと思うんですが。
 ユーザーにとってのメリットというよりも、コミュニティのポリシーとして、受け入れられない、ということのような気がしないこともないですね。
[日刊アスキー] 感情的な問題があるんですかね。
[渡邉] そうですね。良く言われる「オープンソースの開発者にとっては名誉が重要だ」という点も関係あるのではないでしょうか。やはり、新しいものを作るほうが、人の作ったものを手直ししたりするよりは、魅力があるということでしょう。
 ひとことで言えば、「オープンソースコミュニティの思うオープンソースと、企業がやりたいオープンソースとは違う」ということでしょうか。
 Raymondのセッションのときに、Q&Aとして出ていた質問なのですが「オープンソースにすれば成功するのか。そうだとしても、どこの会社もオープンソースにしたときに、それをサポートするだけの開発者がいるのか」というのがありましたね。Raymond曰く、「そこで問題になるのは、プロジェクトの魅力だろう。あなたはCEOなの?そうか、だったらあとでそれについて話をしよう。」という感じの話をしていましたね。でも、現実には極めてシビアな問題でしょう。企業が必要とするプロジェクトが、必ずしも開発者にとって魅力あるプロジェクトとは限りませんから。

 最初に渡邉副編集長は「商売しに来てるんじゃなくて、もっと学術研究的な意味合いで」と言っていたが、そのような場でもビジネスというキーワードは無視できないものになって来ている。これから、ますます両者の関係は深くなっていくだろう。そのとき、お互いにどのように折り合いをつけていくか、検討し準備しておく時期が来ているといえるだろう。

 なお、「Open Source Software Convention」の詳しい模様はアスキーNTの11月号(9月24発売)に掲載される。

※1 Birds of a feather もとは「類は友を呼ぶ」という意味で、似た者同士が集まったんだから気軽にざっくばらんに話し合おう、というコンセプトの会議。

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