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Storm Linux誕生

1999年08月03日 00時00分更新

文● 池田篤司

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 ハーバーセンターの20階、2040号室は今、Stormix Technologies Inc.のオフィスである。そのオフィスの海に面した窓からは、豪華客船を模して作られた「カナダ プレイス」に大きな客船が停泊しているのが見える。その隣のウォーターフロント駅からは、対岸のランズデール キーに向かうフェリーが行き来きし、その遥か上の真っ青な空をカモメが滑べるように滑空している。対岸の山々は山頂付近にまだ残雪が残る1000m級の山である。この絶景、まるで映画の1シーンなのだ。ちなみに、バンクーバーはフィルム産業が盛んなのである。ちょっと前の「X-Files」はバンクーバーで撮影されていたのだ。最近では、シルベスタ スタローンがここで何やら新しい映画を撮影しているらしい。さて話をに戻そう。

 この素晴らしい景色が見える窓際に移動してきたのは、つい最近のことなのである。それまでは、このオフィスの奥にある6畳ほどの窓のない陰気な部屋に、3台の電話に3つの机と4台のコンピュータそしてケビン、ガースと僕で、黙々とStorm Linuxの開発をしていたのだ。

 1998年10月26日、NetNation Communications Inc.に初出社したこの日、はじめてガースと顔合わせをした。彼がもう一人のStorm Linuxの開発者なのだ。ガースとケビンのどちらが欠けてもStorm Linuxは実現しなかっただろう。僕もSAT ver.1.0のインプリメントやデバッキングでは多大な貢献をしていると自分では思っている、いや思いたいなー。以前、ケビンに「どうして僕を採用したの? 」と聞いたら「ほかに面接するのがいなかったんだ。」とあっさりと言われて、危うく本当に「ガチョーン! 」と口に出て来そうになってしまったことがある。でも今では、プログラミングとデバッキングでは認めてくれているみたいなので、ちょっと安心はしているのだ。

 Storm Linuxを知ったのは、ある日、その狭い部屋に3人寄り添って初めて打合わせをしたときである。ガースがSASについて説明しはじめ、ケビンと僕がそれを聞いていた。SASの話が進んでくるにつれてケビンは「それカッコイイよ!!」を連発してた。僕等はカルト教団の教祖の説教でも聞いているかのようであった。

 ここで、Storm Linuxの特徴を簡単に説明させてもらうと、「SAS(Storm Administration System)」とDebian GNU/Linuxをベースにしている2点だ。

 SASについては、日刊アスキーの緊急インタビューの中でも説明したStorm Linuxの目玉機能である。知らない読者のために説明すると、

  • 『モジュール』MIDによって実行、停止させられるサーバ側のプロセス。実際にコンフィグレーション作業をするプログラムでユーザーから情報を得るためにSimple Interface Languageをクライアント側に送る。
  • 『MID』モジュールを実行したり停止させたりするモジュール制御サーバ。
  • 『SAT』モジュールが送信してくるSimple Interface Languageを解析し、モニタ上にウィンドウやボタンやリストなどのユーザーインターフェイスを表示させ、ユーザーからの情報をモジュールに渡す。

以上のモジュール、MID、SATをまとめて「Storm Administration System」と呼んでいるのだ。

 Debian GNU/Linuxとは、Debianという団体が開発している配布パッケージである。配布パッケージは大きく分けて、Slackware方式、RPM(Red Hat Package Manager)方式とDPKG方式とがある。

 RPM方式は、RedHatが開発し、たくさんの配布パッケージによってサポートされた。たとえば、TurboLinux、Caldera、SuSe、Mandrakeなどは、RPM方式を採用している。そのためRPM方式を使っているユーザーがたくさんいる。rpmコマンドは、RPM方式のプログラムをインストールするとき、そのプログラムのライブラリに対する依存関係をチェックし、通知してくれる。しかし、ユーザーは必要なライブラリを手動でインストールしなければならない。

 DPKG方式は、Debianが開発したが、ほとんどの配布パッケージメーカーは採用していない。知っている限りでは、僕等と、Corel(Linux用のワードパーフェクトを作っている)ぐらいだろう。そのCorelはまだ開発段階でリリースはしていない。dselectコマンドを使用して、DPKG方式のプログラムをインストールすれば、すべて依存関係のあるライブラリも自動的にインストールしてくれる。ただし、このdselectコマンドが難解なのだ。ほとんどのユーザーが、dselectコマンドに拒絶反応を示す。つまり、dselectコマンドとは、テキストベースのインストールファイル管理プログラムなのだが、1画面にいろいろな情報を詰めすぎているので、初めて見るものにとって、理解に苦しむのだ。このdselectコマンドの欠点を修正すべく、次期Storm Linuxのバージョンではもっとグラフィカルで理解しやすいものに改善しようと計画している。

 さて、Slackware方式はというと、インストールプログラムを管理するための特別なシステムは何もない。RPMやDPKGと対比するために、Slackware方式と僕が勝手に名付けたのだ。Slackwareは、RPMやDPKGよりも前に存在していた配布パッケージの老舗である。僕も最初は、Slackwareを使っていたが、アップグレードがたいへんだった。Debianならば必要なプログラムを選択してあとはインストールが完了するのをコーヒーでも飲みながら待ってればいい。しかし、反対にSlackwareは自由度があるシステムだから、いまだに一部パワーユーザーに好まれて使われている。

 それぞれのパッケージで長所、短所があるなか、Storm LinuxがDebian GNU/Linuxをベースにした理由は「Debianシステムは安定している。」そして「システムのアップグレードが簡単」という理由からだった。

 ミーティングの最後の場面で、ガースが「この配布パッケージの名前は、“Storm Linux”だ」と言ったとき、ケビンと僕は、チューチューとStormに吸われて巻き込まれてしまった。このときから、ケビン、ガースと僕の3人の、Storm Linuxの開発が始まった。

 その後、小型Stormの勢力は徐々に大きくなっていくのである。

 ところで、Stormix Technologiesは、8月9日から、San JoseではじまるLinuxWorldに参加します。当日は2000枚のStorm Linux β版のCD-ROM無料配布、StormixボールペンとStorm Tシャツを用意してますので、San Joseに来られる方は、ぜひ、僕等のブースにお立ちよりください。ケビンとガースとともにお待ちしております。残念ながらカッコイイStorm Tシャツは高かったので無料じゃないです。(^^;

池田篤司(いけだあつし)

プロフィール

池田氏の写真

 工学院大学情報工学コース卒業後、1990年(株)PFUに入社し初めてUNIXを知る。SystemV系リアルタイムOSのカーネルの開発、保守に携わる。1994年、不況の中強気で会社を辞め渡加。
 1997年にLinuxを使い始める。1998年、Netnation Communicationsに入社し、1999年にStormix Technologiesが設立され移籍する。

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