前回、テクニカル市場、組込市場、ビジネス市場の3つのビジネスモデルのうち、前二者について考察した。今回はビジネス市場について考察する。
ビジネス市場はテクニカル市場と比較すると大規模なマーケットであり、ここで成功することはLinux関連企業にとっても大きな意味を持つ。ビジネス市場では、エンド・ユーザー企業側では安定性、信頼性、可用性を重視している。また、大企業をシステム構築に指名して安心する傾向が強い。この市場において、従来のビジネス・モデルでは、エンド・ユーザーに実際に接するのは一次や二次の代理店であるとしても、バックエンドには大手のIT(Information Technology)企業が控えており、代理店は大手IT企業との強い結びつきを売り込むことも多い。
さらにオープンシステムの普及によって、大手IT企業自体がシステム・インテグレ一ション(SI)の比重を高め、他社製品を活用したSIビジネスを推進するようになっている。この結果、大手IT企業のバックエンドに基盤技術を提供している企業が存在することになる。たとえば、サン(Java)やマイクロソフト(Windows)やオラクル(Oracle DB)である。この市場で成功するためには、技術力に加えて、さらにブランドとビジネスサポート力が要求されるというのがテクニカル市場とは大きく異なる(図1)。
図1 |
それでは、Linuxのビジネス市場に関しては同様のビジネスモデルは成立するのであろうか。実は、これを成立させるためにビジネス的に注目されている一つが、商用ディストリビューションベンダーであると言える(図2)。ここに、インテルやIBMなどがRed Hatに出資する理由があり、Red Hatが350人のサポート体制の発表を行なったのも同じ理由である、と考えられよう。Red HatのCEOであるBob Youngが、自社のブランドやサポートに関する発言を何度も行なっているのも、いわゆるビジネス市場を意識してのことに違いない。また、LinuxCareなどのサポートビジネス専業企業も出現している。LinuxCareでは、あらゆるLinuxディストリビューションのサポートを提供するので、非商用ディストリビューションのビジネス市場への導入に道を開くことにもなるかもしれない。
図2 |
このようなアメリカの状況と比較して、日本でのLinuxビジネス展開を考えると、まず、同様にRed HatやTurboLinuxのような商用ディストリビューションベンダを強化する必要があろう。パシフィック・ハイテックからターボリナックス ジャパンへの改名も、Turbo Linuxに注力するためのCIであり、この流れをふまえた動きと考えてよいだろう。また、他の既存の小さいが技術力のあるLinuxビジネス企業をも支援してLinuxビジネスの規模を拡大していく必要がある。Linux Business Initiativeの今後の活動なども、その動きの一つとして見ていく必要があろう。
(樋口貴章)