周波数オークションで競争の促進を
また、5社以上の申請が出たら、どうするのだろうか。建て前としては「比較審査」を実施して、どの業者が合格かを役所が認定することになっている。このような比較審査を美人コンテストと呼ぶ。書類さえ美しければ、技術や資金が不十分でも合格してしまうからだ。日本でも、2GHz帯で合格したアイピーモバイルは、経営が破綻して免許を返上した。
このように不透明な美人コンテストには、批判が強い。欧米では、電波の割り当ては周波数オークションで参入企業を選ぶのが常識だ。昨年も、米国で700MHz帯のオークションが実施され、合計約200億ドルで落札された。G7諸国の中でオークションをまったくしていないのは日本だけで、経済学者はたびたび「日本も周波数オークションを実施せよ」という提言した。しかし総務省は「巨額の免許料がかかると通信料金に上乗せされる」という理由で、オークションを拒んできた。
これは初歩的な間違いである。オークションはサービスを行なうための「土地代」のようなもので、それがサービスの料金に転嫁されることはありえない。例えば東京の都心に土地を10億円で買ったイタリアン・レストランが建ったとする。このレストランが「地価が高いので料理の価格に転嫁する」といって、1皿1万円のスパゲティを売ったら、スパゲティは売れず、このレストランは潰れるだろう。
免許料も、営業開始の前に現金で全額払い込むサンクコストなので、料金には影響しない。問題は、むしろ通信料金に転嫁できないために携帯業者の経営が破綻することなのだ。しかしこれは業者の自己責任だ。国有地を「高値で落札した業者の経営が苦しくなる」といって安値で売却したら、担当者は国家公務員法違反に問われるだろう。価格が高すぎると思ったら、業者が落札しなければよい。
オークションのメリットは国庫収入が増えることではなく、競争を導入することだ。欧米では、旧電話会社と関係のない独立系のベンチャーがオークションで落札し、新しいサービスや低料金を打ち出して競争を促進した。携帯電話の料金が下がっている最大の原因は、こうした価格競争であり、むしろオークションを実施した国のほうが料金は下がっている。不況の今こそ、目先の「景気対策」ではなく、競争の促進によって企業の国際競争力を高める制度改革が必要である。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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