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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第20回

「働きアリ」の残業はもう報われない

2008年06月10日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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10年は泥のように働け


 同じ5月28日には、IPA(情報処理推進機構)の学生と経営者との討論会が行なわれ、IPA理事長の西垣浩司氏(元NEC社長)が、「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」と発言し、司会者が学生に「10年は泥のように働けるという人は」と挙手を求めたところ、1人も手を挙げなかったとう。

 ここにも、企業は永遠で終身雇用というシステムを前提にして「20年計画」で人事を考える経営者と、「丁稚奉公はごめんだ」という学生の意識のギャップが見られる。仮に20年、会社のために奉仕したとして、そのあと「使い捨て」されないという保証は、今はない。現に西垣氏は、NEC社長時代に1万5000人の人員整理を行なった。



会社も役所も永遠ではない


 もちろん人員整理は悪とは限らない。企業が生き残れなければ、すべての社員の雇用が保障できなくなるのだから、リストラは必要なことがある。しかし少なくとも変化の激しいIT産業では、新卒で入社した会社に定年まで勤めるという人生設計は成り立たない。

 役所も同じだ。かつては役所が強大な許認可権限を持っていたから、役所が押し付けなくても、民間企業が天下りを受け入れたが、今はそういう権限は大幅に減った。天下りが批判されるのは、その需要がないからなのだ。さらに役所も、郵政公社や社会保険庁のように民営化され、人員整理が行なわれるケースが今後も増えるだろう。

 つまり働きアリが夏場に残業の嵐で組織に奉仕した見返りが、冬になったら取り返せるという保証はもうないのだ。それなら若いとき労働に見合った高い給与をもらい、自由に転職できる外資系企業のほうが有利だ。例えば、東大経済学部の就職人気トップは、かつては大蔵省だったが、今はゴールドマン・サックスである。

 今は就職活動シーズンだが、人生は1回しかない。報われる保証のない丁稚奉公をするより、自分の能力や専門知識を最大に行かせる職場を探したほうがいい。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。


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