月刊アスキー 2007年10月号掲載記事
たった一枚の顔写真から、笑う、泣くなどの動きを付けるという、チャットやゲームなどに応用できそうな新技術が登場。7月3日に設立されたモーションポートレートは、人物の正面写真から3Dモデルを自動生成する「MotionPortrait」技術を発表した。
同技術を用いれば、生成されたデータを利用してリアルタイムで視線移動や目を閉る、口を開く(歯も自動で生成される)など顔の各所の制御ができるようになる。また、それらの動きの組み合わせで、モデルを笑わせながら視線移動させたり、変なものを食べさせて(口をもごもご動かしながら)不味そうな表情をさせたり、といった表情の表現を、簡単にアプリケーションに取り入れられる。
この技術は、もともとソニー木原研究所でゲームソフト向けに開発していたもの。本来、人の表情を細部にわたって再現し、かつ3Dモデルで動かすには、かなりのコンピュータパフォーマンスが必要になる。最高スペックのゲーム機とされるPS3でも、実写レベルの表現はほど遠い。しかし同社は写真をうまく使うことで、ロースペックなコンピュータでもリアルタイムに表情を変えることに成功。パソコンやゲーム機はもちろん、携帯電話上でも軽快に動く(ちなみに、同社のテストではウィンドウズ上で192人の表情を同時に変えた実績もある)。
MotionPortraitは、ソフトウェア開発環境向けのミドルウェアとして、企業向けに提供される。同社 代表取締役社長の藤田純一氏は「チャットソフト向けのプラグインなどコンシューマ向けの展開もあり得るが、当面のターゲットはB2B。化粧品メーカーやめがねメーカー向けに、店頭でのバーチャルな試着や、化粧の仕上がりを事前に確認するためのツールとして利用されることを期待している」と目標を語る。
いち早く同エンジンを搭載した企業もある。ゲーム業界大手のバンダイナムコゲームスは、人気ライトノベルキャラクター「涼宮ハルヒ」を使ったPSP向けアドベンチャーゲーム「涼宮ハルヒの約束」のCG描画部分にMotionPortraitを採用。従来のCGアニメーションにくらべて滑らかにキャラクターの息づかいを表現している。
ネットサービスに目を向ければ、2D主体のビジュアルでは差別化を図るのが難しい。MotionPortraitの登場で、これまで難しいとされてきたインターネットでの3D表現の幅を一気に広げる可能性が出てきた。藤田氏は「MotionPortraitは写真でもビデオでもない新しいインタラクティブメディア。それを活かしたアイデアが、企業やユーザーから出てくることを願う」と期待を述べた。