長年やりとりしてきたメールのメッセージ、手間をかけて入力した住所録、家族との思い出を記録した大切な写真やビデオなど、今やパソコンには失うと取り戻すのが難しいデータがいくつも保存されるようになってきた。
そんな状況を受けて、近年ますますデータのバックアップの重要性は高まってきている。例えば、米アップル(Apple)社も次期Mac OS X“Leopard”(レパード)でバックアップ機能“Time Machine”を搭載することを表明している。
一方でサードパーティーはバックアップソフトをどう進化させていくのだろうか? Mac OS X用バックアップソフト『Indelible Backup』(インデリブル バックアップ)を手掛けるアイギーク(株)を取材し、同社社長のデイビッド・L・スミス(David L. Smith)氏に次期バージョンの話をうかがった。
1986年よりソフトウエア技術開発に取り組む。Open Vision、EMC、アップル(旧アップルコンピュータ)などを経て独立。アップルコンピュータ時代に2つの米国技術特許を取得している。
専門分野は、データベース、ネットワーク、セキュリティー、OSデザイン、ストレージデザインなど。2000年に米アイギーク(iGeek)の米国本社を、2001年に日本支社を設立し、両社のトップを兼務。2007年1月にはアイギーク(株)に組織変更、社長として日本市場を中心とするビジネス展開をリードしている。
高い評価を得ている現行のIndelible
── 現行バージョンの評判はいかがですか。
スミス氏 おかげさまで最近、米国のMac雑誌『MacWorld』のレビューでバックアップソフトの中で最も高いポイントを獲得するなど、高い評価を得ています。それを裏付けるように、米国のハードウェア会社が競合製品からインデリブルにバンドルを変更し販売しています。今年1月のMacWorld Expoで新バージョンのデモを行ないましたが、非常に好評でした。
安価なCD/DVDに書き込めるようになる
── 新バージョンの発売日と価格を教えてください。
スミス氏 4月頃には発表したいと考えています。価格は未定ですが、既存ユーザーの方には無償アップグレードを提供する予定です。「新バージョンが出るから現行バージョンを買わずに待っていこう」と考えず、今あるデータをすぐにでも保存してもらうために、無償アップグレードを決めました。
── 新バージョンではどんな新機能を追加しましたか?
スミス氏 まず、データのバックアップ先にCDやDVDを選択できるようになりました。保存元のデータが1枚のCD/DVDに収まらない場合、複数枚に分割してバックアップする機能も備えています。
また、複数枚のCD/DVDに分割して書き込みたい場合、USBかFireWireで複数のCD/DVDドライブを接続しておけば、メディアを入れ替えずに順番にバックアップすることも可能です。
── 差分バックアップ、つまり最初に保存した内容を覚えていて、2回目以降は前回バックアップしなかったものだけ追加でコピーするということは可能でしょうか?
スミス氏 はい。現在のバージョンでも、フルバックアップと差分バックアップを選択できます。例えば、CD/DVDを使う場合、オリジナルのバックアップは複数のメディアに取っておいて、1週間後にその差分だけを新たに1枚のメディアに落とすことが可能です。
ただし差分バックアップだけを繰り返し行なっていると、バックアップしたデータの間で整合性がとれずに、うまく復元できなくなることもあります。インデリブルでは、こうした危険を避けるために、差分バックアップを30回行うと、フルバックアップを行なうように勧めるアラートが現われる仕様になっています。
バックアップしたメディアは2ヵ所以上に保存すべし
── バックアップ先のメディアには外付けHDDがよく使われますが、新バージョンでCD/DVDに対応するというのはニーズが高かったからですか?
スミス氏 CD/DVDはHDDに比べると、導入コストがより安価で、保存性が高いというのが特徴です。両者を使い分けられるとより多くのユーザーの細かい要望にも応えられるようになります。
CD/DVDはバックアップに時間がかかりますが、いったん焼き付けてしまえばその状態から変更できないので、データを失う危険性をより低くできます。
── 確かにメディア代が安いのは大きなメリットですね。
スミス氏 ええ。メディア代が安いので、同じソースから複製を複数作ることも手軽です。
専門家の立場から言わせていただきますと、バックアップは保存したディスクを置いた環境が火事や災害に遭うことも想定し、同じデータのコピーを複数作って、自宅と会社といったように別々の場所に分散しておくのがベストです。
── ところでBlu-rayディスクには記録できますか?
スミス氏 インデリブルは、Mac OS Xの機能を利用してCD/DVDへの書き込みを行なっています。Mac OS Xはまだ正式にBlu-rayディスクに対応していないため、次期バージョンでも記録できません。
米国のお客さんからは要望や問い合わせが増えていますので、Blu-rayディスク対応に関しては積極的に進めていきたいと思います。
日本のユーザーの声を聞くために日本で開発
── 日本のユーザーはバックアップの意識が非常に低いと思うのですが、そういう状況を変えていけると思いますか?
スミス氏 我々はバックアップの必要性を十分に理解していただくことが一番の大きな目的であり、ゴールだと思っています。
実は今回、会社を株式会社化したのですが、日本にオフィスを構えて日本のユーザーの声を聞いてバックアップソリューションを作っている会社というのは、私どもだけだと思います。
ほかのバックアップソフトは、英語圏向けに作られたものを日本語化して、英語の仕様に合わせたものを日本語化して使っているという現状があります。
実際にビジネスユーザーのお客さまからは、他社の製品を使っているけれども、日本語環境で少し不具合があるというようなご相談をいただくこともありました。
我々は、日本で開発することによって日本の顧客の問題点とか、希望を入れて、日本の市場に合った製品作りを行っていきたいと思っています。
取材協力/アイギーグ