米アドビシステムズ(Adobe Systems)社が開発しているリッチクライアント(RIA)の実行環境“Apollo”(アポロ)。
Apolloの詳細は前編に任せるとして、後半ではこの技術の足下を支える『ColdFusion』(コールドフュージョン)や『Flex Builder』(フレックスビルダー)といった開発環境に注目していきたい。なお、Apolloは開発中だが、この2製品はすでに販売されている。
ColdFusionはWeb 2.0サービスを統合する“ハブ”
『Macromedia ColdFusion 7 MX』は、ウェブサイトの統合開発環境だ。膨大な数のユーザー情報を管理するソーシャルネットワークサービス(SNS)を始め、データーベースをグラフで閲覧できる解析サービス、送信した書類をPDFに変換してくれるウェブアプリケーションなどの開発に利用する。
ColdFusionは、サーバーにインストールして使用するウェブアプリケーションの実行エンジンであり、ダイナミックウェブサイトの開発言語でもあるという2つの側面を持つ。
プログラミングやウェブ技術の知識がある人には、PerlやPHPのようなものと言うと分かりやすいかもしれない。ウェブアプリケーションを操作するためのGUI(インターフェース)ではなく、そのウェブアプリケーションが扱うデータモデルをプログラミングする機能が中心になる。
ColdFusionを利用するメリットとして、複雑なデータベースをGUIで簡単に構築できることが挙げられる。また、データベースからPDF文書や図表を 作成したり、全文検索することも可能だ。さらに、簡単なメッセージ機能も開発/利用できる。
ColdFusionは、データベースサーバーやJava、.NET、Perl、PHP、Rubyなどで開発されたウェブサービスと柔軟に連携できるのも特徴だ。
もちろんアドビ純正のテクノロジーであるPDFやFlashとの連携でも威力を発揮する。そのためアドビではColdFusionを、「アドビのテクノロジーのハブとなる戦略製品」と位置付けている。
Flex Builderはウェブアプリの“顔”をデザインするツール
一方、『Adobe Flex Builder』は、ボタンやチェックボックス、データフィールドといった要素を配置して、アプリケーションのインターフェースを作るツールになる。
ColdFusionが主に表示するデータを管理する役割(バックエンド)なのに対して、Flex Builderは直接ユーザーが目にするインターフェース(フロントエンド)の作成を担うというわけだ。
Flex Bilder 2で作成したアプリケーションは、Flash(.swf)ファイルとしてブラウザーに読み込んで利用可能だ。なお、Flexアプリケーションのプログラムに多少手を加えれば、Apolloアプリケーションとしてデスクトップ家で実行できるため、その可能性はさらに広がる。
Flex Builder自体は、無償で公開されているJavaの統合開発環境『Eclipse』のプラグインとして動作する。
現在はWindows版のみが販売されているが、23日にはMac OSに対応したバージョン2.0.1が発売される予定だ。既存のユーザーは無償でアップデートが可能で、Flash Typeエンジンを使用したフォントの埋め込み、大規模アプリケーションのモジュール化、実行時のCSS適用といった機能が追加される。
Flex Builderの価格は6万4900円からだが、GUIを備えずコマンドラインから操作する『Adobe Flex 2 SDK』なら無償で利用できる。
アドビ製リッチクライアントの進む方向
ColdFusionとFlex Builderという開発環境に加え、Apolloというデスクトップ上の実行環境が揃ったいま、アドビはこのソリューションを一体どんな方向に進化させようとしているのだろうか? その答えの一端となるのが次期ColdFusionとなる“Scorpio(スコーピオ)”だ。
Scorpioが掲げる目標は、ユーザー体験と開発効率の向上だ。アドビは説明会で、既存のHTMLアプリケーションでは不可能なオンデマンド型のプレゼンテーションサービスや、プログラムの診断に役立つサーバーモニタリングソフトを披露。CFMLから直接.NETコンポーネントが呼び出せるようになることも紹介した。
また、次世代リッチクライアントの市場でアドビが覇権を握るための大きなカギを握っているのが、PDFの扱いだろう。PDFは資料の配付や電子書籍の販売といった、ウェブページとも紙とも違う新しいメディアとしてその地位を固めつつある。
Scorpioでは現行のColdFusionが実現しているPDFの作成機能がさらに強化されるのはもちろん、PDFフォームの抽出や差し込み、既存のPDF書類の操作といった機能も盛り込まれる予定だ。
アドビのこうした動きに対して、前編でも紹介したようにマイクロソフトからも同様のウェブ開発統合環境の“Microsoft Expression Studio”が発売されている。次世代リッチクライアント市場の覇権を巡って、今後両社の争いは加熱していきそうだ。