ボーカロイドは渋谷系の正当継承者かもしれない
―― それにしてもネタ元が豊富ですね。
山本 やっぱり根がレコードコレクターなんですよね。
―― こうなったらレコードコレクター時代の話を聞かせてもらえますか?
山本 僕がレコードを集め始めたのは、カルトGSブームの頃なんです。GSのムーブメントから25年目の、92年あたりの話ですね。それで歌謡曲ってカッコイイと思ったんですが、すでにカルトGSのレコードは、当時の学生が買うには高かった。だからイージーリスニングとかニューミュージックとか、レコード屋のバーゲンで売ってる安いレコードばかり買いまくっていました。
―― 経済的な事情からだったんですね。
山本 もう最後の頃はレコード屋で買うということはなくなっていましたね。リサイクルショップで投げ売りされているものとか。それで僕は「ウエルダン・グルーヴ」というものを提唱していたんです、5人くらいで。
―― 何ですかそれ?
山本 80年代にレア・グルーヴという運動がありましたよね? 誰も知らないレコードからグルーヴィーな音を探すという。でも僕は、どこにでもある安いレコードでそれをやろうと。つまり、レアじゃないから「ウエルダン」。
―― ……そういう洒落ですか。
山本 その後に「モンドミュージック」という本が出ましたよね※6。それまで見向きもされなかった音源を紹介して、こういう聴き方をすると面白いぜ、という話だったと思うんですが。あれに教えられるところも多かったんですが、先んじていたという自負もあったんです。
※6 モンド・ミュージック : 1995年にアスペクトから出版された「モンド・ミュージック」のこと。著者のGazette4は、すきすきスイッチやワールド・スタンダードでの活動で知られる鈴木惣一朗氏ら4名。
―― なるほど、ウエルダンがモンドに先んじていたと。
山本 今でこそジャンル分けはカッコ悪いという風潮になっていますが、当時は細分化して、でっち上げたジャンルに、無理やり音楽を当てはめるのが面白かった。渋谷系の人たちに、そういう聴き方を教えた人たちがモンドミュージックを書いたわけですよ。だから聴く側から音楽を再解釈して生まれたのが渋谷系なんじゃないかと。渋谷系は聴き手の文化だったんですよ。
―― あの頃、みんなアナログ盤買いあさってましたもんね。
山本 それはボーカロイドも同じです。ものすごいスピードでシーンが進化している。最初はキャラソンから始まり、普通のポップソングが生まれ、チャートができて、ヒットが生まれ、それに対するアンチが出てきて、アンダーグラウンドの裾野が広がっていくという。
―― ボーカロイドはポップミュージックの歴史をなぞっていると。
山本 ものすごいスピードでなぞっていますね。このまま行けば聴き手の文化が出来上がる。すでにいま「聴き専ラジオ」というのが出てきていて、聴き手の方からアプローチしたり、信頼できる聴き手が出てきたり。そのうちボーカロイドも渋谷系のようになると。
―― それは僕もそう思いますね。
山本 僕は、聴かせていただいてますという態度が嫌いなんです。別に作っている側が聴いている側より偉いとは思っていませんから。
―― じゃあいまの状況は面白くないですか?
山本 いやあ、もう飽きちゃた。
―― 先行きが見えちゃったってこと?
山本 ドラムンベース以降は新しいものは出てないという話と同じように、本当に革新的なものは出ないよなと。ボーカロイドもやり尽くした感はあります。あとは「いい曲」しかないんだろなと。
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