この数週間、米国と中国でステーブルコインを法律で位置づける動きに進展があった。
まず、香港では、議会にあたる特別行政府立法会が2025年5月21日、法定通貨を裏付けとするステーブルコインの発行を免許制で認める条例案を可決した。香港金融局のプレスリリースによれば、香港ドルに連動するステーブルコインを発行する事業者は、同局が発行する免許を取得することが求められる。同局は2025年中にステーブルコイン条例を施行する方針で、すでに複数の事業者がステーブルコインの本格的な発行と流通に向けた準備を進めている。
5月19日には米国の上院が、ステーブルコインの規制枠組みを定める法案の本会議での審議入りを、賛成多数で可決した。この法案は「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act」の頭文字から「GENIUS法案」と呼ばれている。
トランプ政権がステーブルコインの推進を掲げている点、上院と下院の両院で共和党が多数を占めている点、19日の採決では民主党からも賛成者が出ている点から、米国もステーブルコインの法制化に向けて進んでいると受け止めていいだろう。
「デジタル資産のハブ」目指す香港
中国政府は、中国本土においては仮想通貨を全面的に禁止している。一方で、香港については、「デジタル資産サービスの拠点」とすることを目指しており、香港は事実上、「特区」のような扱いになっている。中国本土の富裕層が、資産の一部を香港に移し、香港の口座を使って仮想通貨を取引する例があるとの報道もある。
ステーブルコインの法制化も、デジタル資産ハブ化を目指す政策の一環に位置づけられる。21日の法案可決を受け、香港金融局はプレスリリースの中で次のように述べている。
「政府は、仮想資産セクターの発展を継続的に支援していきます。仮想資産取引プラットフォームとステーブルコイン発行者の規制制度の実施に続き、政府は近日中に仮想資産の店頭取引および保管サービスに関する協議を開始し、仮想資産の発展に関する第2次政策声明を公布する予定です」
政府が前のめりでステーブルコインの導入を進めているのを受け、民間企業の動きも活発になっているようだ。香港金融局は2024年7月、ステーブルコインを試験的に発行するプロジェクトを開始し、スタンダードチャータード銀行など3つの事業体が参加している。3月には、香港と日本の間で、ステーブルコインを使って決済の効率化を目指す取り組みがはじまっている。プレスリリースによれば、以下の企業が参加している。
・IDA Finance Hong Kong Limited(香港)
・Progmat, Inc.(日本)
・株式会社Datachain(日本)
・TOKIFZCO(日本)
香港では、すでに試験運用が始まっており、年内にステーブルコイン条例の施行が始まる。法律の施行から、数ヵ月以内に香港ドルに連動したステーブルコインの流通も始まると考えていいだろう。
「資金の裏付け」がポイント
米国のGENIUS法案で最も重要なポイントは、資金の裏付けだろう。たとえば、1億ドル相当のステーブルコインを流通させる場合、裏付けとなる米ドル建ての預金や債権などを保有しておくことが求められる。そのステーブルコインが、何らかの出来事でユーザーの信用を失ったとき、「払い戻して」という請求が殺到するかもしれない。その際、「現金がないので待ってください」という事業者では困ってしまうからだ。
いまのところ、テザーとUSDコインという仮想通貨が、米ドルと連動するステーブルコインの代表格だが、こうした仮想通貨をめぐっても、資産の裏付けが疑問視される騒動が起きている。裏付けとなる資産の保有が、法的に位置づけられ、金融当局の監視対象となるのは、ステーブルコインの信頼性の向上や、日常的な買い物での利用などを実現するうえで、とても大きな一歩となるのは間違いないだろう。
トランプ氏の蓄財の装置にもなっている

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