カナダはNFCの観点から見て興味深い市場の1つだ。前回、ICチップ付きクレジットカードである「EMV(Europay, MasterCard, VISA)」技術への移行する「ライアビリティシフト(Liability Shift)」の進行状況について、西欧を中心に2000年代での移行が進んだのに対し、米国では小売店でのライアビリティシフトが2015年10月から施行されるなど、非常に大きな開きがある。
一方で、カナダでのライアビリティシフトは2011~2012年にかけて施行されて米国に先行し、さらにEMV導入の過程で新規決済端末のNFC対応比率が100%となっており、急速に普及が進んでいる。タイミング的には欧州と米国のちょうど中間という位置付けだが、NFC対応の面でみれば「NFC対応比率が8割以上」といわれるオーストラリアのそれに近い。
今回はカナダのNFC展開状況を日本のそれに重ねつつ、「ガラパゴス」というキーワードについて改めて考えてみたい。
そもそもガラパゴスとは何だろう?
筆者がカナダで特筆したいのは「Interac(インテラック)」というサービスだ。Interacは1984年に同国内の大手5銀行が共同で設立した非営利法人で、同名の金融サービスをカナダ国内で展開している。Interacはいわゆる「インターバンク」と呼ばれる銀行間決済サービスであり、Interac対応の店舗での支払いやATM利用ができたり、あるいは銀行間送金や各種支払いができる「デビット(Debit)」方式のシステムを採用する。そして、その最大の特徴は同国内でのシェアにある。
Nilson Reportによれば、金額ベースでのシェアは3割程度でVISAやMasterCardといった国際カードブランドと同等か若干劣るものの、トランザクション数ベースでは5~6割近いシェアを有しており、事実上キャッシュレス決済の中心的存在にある。Interacによれば、20ドル(CAD)以下の決済はキャッシュが中心となる傾向があるが、この市場をInteracと、そのNFC対応版である「Interac Flash」のサービスで埋めていくのが今後の目標だという。
こうしたカナダに2016年5月、Appleの決済サービス「Apple Pay」が上陸したわけだが、米国内と同様にMasterCardやVISAといった国際カードブランドのカード決済のほか、このInteracもサポートしての登場となった。ユーザーはInteracをApple Pay上に登録してオンラインや店頭での非接触決済ができるようになっている。ただMasterCardやVISAとは異なり、Interacはカナダ国内特有のいわゆる「ガラパゴス」的なサービスだ。それにも関わらずApple Payがカナダ上陸にあたってサポート対象としたのは、それだけ利用比率が高いことに他ならない。
日本のFeliCaインフラをガラパゴスや参入障壁と称して揶揄する向きもあるが、安定して動作しているインフラを「他の国と違う」という理由だけで排除するというのは、利用者にとってもサービス提供者側にとってもメリットがない。中国での銀聯対応も含め、「Apple Payはローカライズを重視したサービス」というのが改めて認識できる話題だ。
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