このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

治験・臨床研究のリモートSDV皮切りに、3年で5000施設への閉域網導入を目指す

“現場で使える”安全な通信基盤確立へ アライドテレシスら3社が閉域網を起点に医療DXを本格支援

2026年10月08日 15時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 アライドテレシス、ビットブレイン、EPLinkの3社は、2026年10月6日、医療DXの推進に向けた協業を発表した。医療DXで欠かせない外部接続を支える「セキュアな通信基盤」の確立を目指す。

 同通信基盤は、ビットブレインの提供する医療専用の閉域ネットワーク「WCI(Wires Connect Intelligence)」がベースになる。ここに、ネットワーク機器専業メーカーであるアライドテレシスの技術・支援体制と、EPLinkの治験支援サービスや医療機関とのネットワークを組み合わせ、まずは治験・臨床研究領域での医療DX推進を検討していく。

 協業発表会において、アライドテレシスの代表取締役副社長である佐藤朝紀氏は、「3社が目指すのは安全性と使いやすさを両立した、現場で実際に使える仕組み。この協業を通じて、治験支援を含む幅広い医療情報連携と、より安全で持続可能な医療DXの実現に貢献していきたい」と語った。

(左から)アライドテレシス 代表取締役副社長 佐藤朝紀氏、ビットブレイン 代表取締役 斎藤智示氏、EPLink 代表取締役 中島裕尚氏、アライドテレシス 取締役 木村有司氏

専用線の安全性とインターネットVPNの手軽さを両立する「WCI」

 医療DXの進展に伴い、医療機関では情報連携や遠隔業務、クラウドサービスの活用といった外部接続の機会が急速に拡大している。一方で医療現場では、業務負担を増やすことなく効率化を実現でき、かつ安全な外部接続を可能とする通信インフラの整備が急務となっている。

 アライドテレシスの佐藤氏は、「医療DXは、システムやサービスを用意するだけでは、現場で安全に運用し続けることはできない。大切な医療情報を守りながら、必要な相手へ確実につなぐ安全な通信インフラが求められている」と強調した。

アライドテレシス 代表取締役副社長 佐藤朝紀氏

 今回、医療DXの通信基盤として3社で推進するのが、ビットブレインの医療専用閉域ネットワークであるWCIだ。ビットブレインの代表取締役である斎藤智示氏は、多くの医療機関が利用するインターネットVPNのリスクを指摘する。VPN機器やソフトウェアの設定が常に攻撃者に狙われている上、接続先のセキュリティが手薄であれば、そこにつながる自院の対策も意味をなさなくなるからだ。

ビットブレイン 代表取締役 斎藤智示氏

 これに対しWCIは、インターネットと切り離された閉域網であり、承認された病院同士のみを安全に接続する仕組みだ。万が一インシデントが発生しても、脅威が広がる範囲を最小限に抑えられる。

 「VPNが暗号化によって通信の中身を守る仕組みだとすれば、WCIはインターネットとの接続経路を持たずに、つながる相手を限定する仕組み。自院だけではなく病院同士のつながりという“面”を守る技術」(斎藤氏)

WCIの安全性を確保する仕組み

 医療DXを推進する上で、高速・大容量な通信を可能にする点もWCIの強みだ。ビットブレインの検証では、福井~岩手の拠点間で1GBのファイルを約26秒で転送できた。これは同条件のインターネットVPNと比べて約63倍の速さだったという。同社では、手術動画や医療画像を想定した100GBの大容量ファイルについても、約1時間7分での転送に成功している(インターネットVPNではセッションを確立できず)。

ビットブレインによるファイル転送の検証結果

 さらに、利用する回線は通信事業者の公衆回線(NGN)であるため、一般的な専用線よりも安価・手軽に導入できる。ただ、帯域保証がないため、用途に応じた使い分けが必要だ。斎藤氏は、「専用線の安全性とインターネットVPNの手軽さを両立したのがWCI」と語った。

最初の医療DX推進は治験・臨床研究領域のリモートアクセス

 今回の3社による協業の前段として、2026年6月、アライドテレシスとビットブレインの2社での協業を発表。WCIの拠点ルーターとしてアライドテレシス製のSD-WANルーター「AT-ARX200S-GT」「AT-ARX200S-GTX」が対応した。専用ルーターには、WCI経由で設定情報や証明書、プログラムが自動配信され、原則として現地作業が不要になる。

 この協業を通じてアライドテレシスは、従来強みとしてきた院内LANに加え、病院や関連拠点をWCIで結ぶWANまでを一体的に設計・構築できるようになった。この通信基盤を用いて、既に「遠隔読影」のユースケースで稼働が始まっているという。

 金沢赤十字病院と福井大医学部附属病院が遠隔読影の通信基盤としてWCIを採用。両病院ともに現地派遣する放射線科医の不足という共通課題があり、持続可能な診療体制の確立に向けて本取り組みをスタートしている。閉域網による安全性と読影に必要な大容量データへの対応、そして現地での複雑な作業が不要な導入のしやすさが採用のポイントになった。

遠隔読影のユースケースで既にWCIが稼働中

 そして今回、この2社連携にEPLinkが加わる。EPLinkは、全国約7700の医療機関と連携し、専門人材と仕組みの両面から治験を支援する治験施設支援機関(SMO)だ。同社との連携によって、WCIの新たなユースケースとして開拓されるのが、治験データの信頼性を確保する「リモートSDV(Source Data/Document Verification:直接閲覧)」である。

 SDVとは、電子カルテや検査結果、画像データなどの原資料と、治験の結果を記録した症例報告書の内容を照合し、データが正しく記録されていることを確認する作業だ。このSDVを遠隔から安全かつ効率的に実施するための仕組みとして、EPLinkはリモートSDVソリューション「SYNOV-R」を提供している。

SYNOV-Rの仕組み

 もともとSYNOV-Rは、EPLinkとビットブレインが共同開発したリモートアクセスの仕組みを採用し、医療機関内の情報を遠隔から確認できる環境を実現していた。一方で、これまでは接続経路の一部にインターネット回線を利用していたほか、医療機関ごとに発生する接続審査や設定作業、障害発生時の原因切り分けなどの課題を抱えていたという。

 そこで今回、SYNOV-RとWCIを組み合わせた、インターネットを介さない接続方式の検討を開始。加えて、施設間の接続方式を標準化して審査や設定、関係者間の調整を円滑化するほか、接続状態の可視化による運用負荷の軽減を目指していく。

 EPLinkの代表取締役である中島裕尚氏は、「医療機関と外部を安全につなぐ仕組みは、治験・臨床研究領域だけではなく、様々な医療DXに活用できる可能性がある。まずは、治験という具体的な業務領域から始め、医療現場の実態に即した検証を進めていきたい」と語った。

EPLink 代表取締役 中島裕尚氏

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

  • 角川アスキー総合研究所