2040年に1000万台、高市首相が示したフィジカルAIの国家目標
そのフィジカルAIを日本の成長分野として明確に位置付けたのが、高市早苗首相だ。寄せられたビデオメッセージでは、製造や物流、インフラなど日本が強みを持つ産業現場のデータが競争力の源泉になるとして、フィジカルAIを日本の「勝ち筋」と位置付けた。
「フィジカルAIは、製造や物流、インフラなど、日本に強みのある産業現場に蓄積された重要データが競争力の源泉となる、我が国の勝ち筋となる分野です。その柱となるAIロボットは、製造、物流、建設、介護、警備など、肉体的負荷や危険が大きく、人手不足が深刻な産業分野で活用することで、サービスの維持や生産性の向上が期待されます」(高市首相)
日本成長戦略では17の戦略分野を設け、2040年度までに370兆円を超える官民投資を引き出すロードマップを策定した。フィジカルAIでは2040年度までに10.5兆円、半導体と合わせると78.5兆円の官民投資を想定している。
「フィジカルAIについては、2040年度までに半導体を含め約80兆円の官民投資を想定しています。AIロボットの研究開発や導入支援に加え、災害対応など公共調達を通じた先行需要の創出を進め、2040年までに国産のAIロボットを含む1000万台規模を国内に導入し、世界市場の3割超となる20兆円の市場獲得を目指します」(高市首相)
1000万台を実現するには、優秀な試作機を作るだけでは足りない。量産や導入、学習データ、保守、安全性まで含めて、AIロボットを産業として成立させるための基盤が必要になるだろう。
片山財務大臣が警告、AIが身体を持てばサイバー攻撃も現実世界へ
フィジカルAIが経済成長につながる一方、AIが現実の機械を動かすようになれば、新たなリスクも生まれる。片山さつき財務大臣兼金融担当大臣は、日本のものづくり現場に蓄積されたデータを強みとして挙げる一方、安全性やサイバーセキュリティの重要性を強調した。
「フィジカルAIの競争力を支えるのは、AI技術だけではありません。ロボットや機械が実際に稼働する現場から得られる質の高いデータを、いかに活用できるかが重要です。我が国には、ものづくりを支える幅広い産業の現場と、そこに蓄積された高品質なデータ、技術、ノウハウがあります。こうした日本ならではの強みを活かし、フィジカルAIの開発と社会実装を加速させることが重要です」(片山大臣)
その一方で、AIが工場や物流システム、ロボットを直接動かすようになれば、サイバー空間への攻撃が現実世界の停止や誤動作につながる。従来以上に、AIを動かすことと安全に止めることをセットで考える必要があるという。
「フィジカルAIの時代には、サイバー攻撃の対象は経済システムだけではなく、工場ロボットや物流システムなど現実世界にも広がります。そのため、多層防御をはじめ基本的な対策を徹底するとともに、防御側もAIを活用してサイバーセキュリティ対策を進めることが重要です。私はこれを「AI対AIの攻防」と呼んでいます」と片山大臣は警鐘を鳴らした。
「どこで作られたAIなのか」松本氏が重視するソブリンティ
開催当時デジタル大臣だった松本尚氏は、日本成長戦略でAIとサイバーセキュリティがさまざまな分野を横断する重要技術になっていると説明した。その上で、AI開発で繰り返し強調したのが「ソブリンティ」だ。
「AIを漫然と使うだけではなく、どこで作られたものなのか、中身はどうなっているのかというところを、国民の皆さんもかなり見るようになっています。AIの開発では常にソブリンティを意識していただきたい。それがAIへの信頼や、日本の国民がフィジカルAIを使っていく時の大きなよりどころになると思います」(松本氏)
具体的な産業としてまず挙げたのが自動運転だ。松本氏は8月末に米ロサンゼルスで複数の自動運転車を体験し、日本が世界を引っ張る立場にないことに危機感を持ったという。日本の自動車メーカーには「レベル4」「自家用車」「海外展開」の3点を共通目標として、自社でAIを開発するだけでなく、国内AI企業との連携も含めた事業づくりを求めたと明かした。
そして、医師でもある松本氏が日本の有望分野として力を込めたのが「AI×医療」だ。現在の手術支援ロボットでは人間が操作し、AIが血管や神経の位置を示す支援技術も使われていると説明。その先に、日本の外科医が蓄積してきた手術技術そのものをAIに学習させ、ロボットに実行させる未来を描く。
「日本人の外科医の技術は非常に優れています。この技術をAIにきちんと学習させて、定型的な手術であればロボティクスが手術をするということは可能になってくると思います。その時に大事なのがソブリンティです。日本人のデータを使い、国産のAIで作ったロボティクスが手術をするという形を作っていく必要があります」(松本氏)
松本氏は、国産の手術支援ロボットや日本企業が強みを持つ内視鏡も例に挙げた。日本の医療技術やデータをAIと組み合わせ、国内だけでなく海外へ展開できる産業に育てたいという構想だ。
1000万台を「置く」だけではフィジカルAI大国にはならない
1000万台のAIロボットを国内に入れるだけなら、海外から完成品を購入する方法もある。しかし、日本の成長戦略にするなら、ロボットを使う側だけでなく、AIや機体を作る企業、現場データを蓄積する企業、部品を作るメーカー、安全性を支える企業まで含めた産業を国内に育て、その技術を海外へ展開するところまでつなげる必要がある。
昨年の大会では、鉄腕アトムやドラえもんに親しんできた日本が、人とロボットが共存する未来を実現できるのかが問われた。それから1年、政府は1000万台という目標を掲げ、企業もフィジカルAIの社会実装に向けて動き始めている。日本が持つものづくりの技術や現場のデータを活かし、どこまで新しい産業につなげられるのか。これからの取り組みに注目したい。
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