情シス視点の「フィジカルAI元年」 インフラ構築からソリューション選定まで 第2回
暗黙知をデータ化する「状況認識AI」からAIの判断を鍛える「デジタルツイン」まで
フィジカルAIの突破口、「現場データ」を価値に変えるソリューション
2026年08月26日 08時00分更新
“AIの判断を鍛える場”であるデジタルツイン 存在感を示すNVIDIAとAIスタートアップの燈
状況認識AIが「現場で起きている」ことをデータ化するのに対し、現場のあらゆる状態や変化をもとに、仮想空間上に現場そのものを再現するのが「デジタルツイン」だ。現実世界の検証における、時間・コスト・安全上のリスクといった制約を取り払う「AIの判断を鍛える場」であり、そのためには高度なシミュレーターの存在も必要となる。
特に、ヒューマノイドや自動運転といった「失敗が許されない」「失敗のコストが高い」領域では、仮想環境での事前トレーニングが不可欠である。また、複数の拠点に展開する大規模なフィジカルAIでは、デジタルツイン上で「AIモデルの開発・検証・展開」のサイクルを標準化できなければ、展開速度や費用対効果の面で成り立たなくなる。
このデジタルツインの基盤において存在感を示しているのがNVIDIAだ。3Dデータ処理や物理演算、AI推論などで中核となるGPUおよびエコシステムで圧倒的な優位性を築き、以下の強力なツール群を提供している。
・NVIDIA Omniverse:3D空間の構築・連携のための共通基盤
・NVIDIA Isaac Sim:Omniverseで動作するロボティクス・シミュレーター
・NVIDIA Cosmos:物理世界の法則や因果関係を理解する世界モデル
いわばOmniverseは、現場のデータを統合し、物理世界を再現する仮想空間の“土台”。Isaac Simは、その空間でロボットを動かし、学習させる“訓練アプリ”。そしてCosmosは、構築された空間を多様なシナリオへ拡張し、ロボットの行動結果まで予測する“コーチ”の役割を果たす。
国内企業においても、こうしたデジタルツイン基盤を用いたフィジカルAIの取り組みが始まっている。トヨタ自動車はOmniverseとIsaac Simを採用し、工場のワークフローやロボットの動作を検証する広範なデジタルツイン環境を構築し、生産準備・製造現場で活用している。さらに、富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業の4社が検討を進めるフィジカルAIの社会実装に向けた連携においても、NVIDIAの基盤が活用される予定だ。
製造業に強いSiemensのデジタルツイン基盤とOmniverseが連携するなど、有力ベンダーがNVIDIAを“土台”として取り込む動きもみられる(2025年6月発表のSiemensニュースリリースより)
一方で、独自開発したシミュレーション基盤「Melchior」でデジタルツイン構築を支援するのが、東京大学発のAIスタートアップ企業である燈(あかり)だ。同社は創業以来、AIを活用した建設業や製造業のDX支援を展開。2026年3月には三菱電機との協業を発表し、フィジカルAI領域へ本格参入している。
同社の強みは、これまでのDX支援で培ってきた「現場ノウハウ」の実装力にある。現場の“暗黙知”を抽出してAIモジュールへと落とし込み、現場データから構築したデジタルツインと組み合わせることで、実効性の高い課題解決ソリューションを提供する。
三菱電機との協業では、同社が制御機器の展開で得てきた知見と、燈のスピード力を融合することが狙いだ。既に三菱電機の工場で、デジタルツインを活用したフィジカルAIのPoCが進んでおり、その後の事業化を目指している。
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