情シス視点の「フィジカルAI元年」 インフラ構築からソリューション選定まで 第2回
暗黙知をデータ化する「状況認識AI」からAIの判断を鍛える「デジタルツイン」まで
フィジカルAIの突破口、「現場データ」を価値に変えるソリューション
2026年08月26日 08時00分更新
人手不足解消の切り札として期待が高まる「フィジカルAI」。同技術を情報システム部門(情シス)視点で紐解く本連載の第1回では、情シスに求められる役割やインフラ構築のポイントについて整理した。
第2回では、日本の勝ち筋とも言える「現場データ」を活用するポイントをはじめ、その第一歩に最適な「状況認識AI」、そして大規模なフィジカルAIの実現に欠かせない「デジタルツイン」について解説する。
現場データ活用で最初に直面する“構造化”問題
フィジカルAIは、これまでデジタル世界に閉じていたAIを、製造・物流・医療・建設といったリアルな現場へ展開するための技術である。深刻化する人手不足への対策として日本政府も重点分野に位置付けているが、AIモデル開発や資本力などで米国・中国が先行し、国際競争力にギャップが生じているのが現状である。
とはいえ、日本企業には明確な強みがある。それは、長年の産業活動の中で蓄積してきた「現場データ」だ。フィジカルAIは、汎用的なAIモデルをそのまま現場に適用しても十分に機能しない。モデルの不確実性を補うためには、業務フローや判断基準、制約条件といった“現場の文脈”を含むデータが不可欠であり、これこそが日本企業が持つ固有資産と言える。
一方で、情シスがこの現場データをAI活用していく際に、最初に直面する壁となるのが「構造化」の問題だ。現場は、暗黙知や例外処理、状況依存の判断にあふれ、それが紙や独自フォーマット、さらには担当者の頭の中に散在している。こうした身体知ベースの情報をAIが扱える形式に落とし込むには、現場部門との協働と、データワークフローの設計が欠かせない。
こうした中で、現場データの構造化を進める第一歩として有効なのが、「状況認識AI」の導入である。同AIは、カメラやセンサーを通じて現場で「何が起きているか」を自動で把握し、イベントや状態として構造化データに変換する。業務改善の即効性が高く、属人的な作業を可視化できるため技術継承にも効果的だ。また、生成AIや制御ロジックと連携させることで、より高度な自動化や意思決定支援にもつなげられる。
製造・店舗の現場を可視化する“状況認識AI3選”
ここからは状況認識AIを組み込んだサービスを3つ紹介する。
1つ目は、ソフトクリエイトが中堅製造業向けに提供する「メニナルAI」だ。“職人の目をAI化する”というアプローチで、作業の流れや文脈を理解するAIを開発。検査・検品の自動化にとどまらず、作業手順の逸脱やボトルネックを特定し、標準化や技術継承を支援する。
技術的には、工程の前後関係という“時間軸の要素”を画像認識と組み合わせることで、職人の文脈を汲んだ判断をAIで再現。画像補正技術による精度の高さも特徴で、過去の実証では不良品検知率99.9%を達成している。静止画ベースで利用できるため必要となるデータ量も少なく、エッジ完結型で機密性の高い現場でも導入できる。
ソフトクリエイトでは、メニナルAIをパッケージ製品として提供し、伴走支援サービスも展開。音声データを認識する「ミミニナルAI」や物理的な機器を制御する「ウデニナルAI」も構想中で、フィジカルAI時代の状況認識基盤を構築していくという。
2つ目は、ブレインパッドとそのグループ会社BrainPad AAが提供する「COROKO Analytics」だ。製造業の作業映像をAIエージェントが解析し、ムダやボトルネックを自動特定するAIサービスである。
その特徴は、専門AIエージェントが工程分析を自律的に繰り返す点だ。作業の分類から定義づけを自動化し、探索と検証を重ねて精度を改善。これまで専門家が莫大な工数をかけていた標準化や生産性のための分析を、短時間で完了できる。
既存の定点カメラ映像などをそのまま活用でき、スモールスタートしやすい点も特徴だ。実際の導入では、現場映像の可視化による業務課題と改善アクションの提示(①)、継続改善の伴走(②)、自律的な解析環境の構築支援(③)の3ステップで展開される。
「COROKO Analytics」標準作業分析のイメージ(2026年7月発表のニュースリリースより)
3つ目は、ABEJAが小売業界向けに提供する「ABEJA Insight for Retail」である。小売店舗の顧客行動をAIカメラで可視化し、売上改善のPDCAを支援するAIサービスだ。
その特徴は、POSでは取得できない「購買前の行動」をデータ化する点だ。来店人数・入店率・店内動線などに基づき、購買に至るまでの心理や行動までを可視化する。
さらに、施策管理や予実管理によって、店舗運営の改善サイクルも構築でき、現場定着に向けた伴走サービスも展開する。なお、ABEJAでは、こうした現場データを活用するためのAIシステム構築の基盤として「ABEJA Platform」も手掛けている。
ABEJA Insight for RetailがつくるPDCAサイクル(製品サイトより)
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