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Mr.ウォーカー玉置泰紀が厳選! おすすめスポット/アイテムベスト5 第22回

【決定版・南都仏画展で見逃せない「天平の美」ベスト5】ボストン美術館の秘宝が里帰り! 奈良国立博物館が20年をかけた神企画の至宝はこれだ

2026年08月21日 12時00分更新

文● 玉置泰紀(元エリアLOVEウォーカー総編集長、一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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さまざまなレイヤーが織りなす南都仏画展で見逃せないベスト5

第5位:南都仏画のすべてがここから始まった、飛鳥・白鳳の祈り
『伝橘夫人念持仏厨子(国宝)』
/第1章 法隆寺金堂壁画―日本仏画の黎明

 国宝 『伝橘夫人念持仏厨子(でんたちばなぶにんねんじぶつずし)』 (飛鳥時代 7~8世紀)。木造 漆塗・彩色。奈良・法隆寺所蔵。阿弥陀浄土の様相を表現した大型の厨子。扉には如来・菩薩や天部、台座には蓮華化生や羅漢の姿が描かれており、南都仏画の黎明期を伝える作例として貴重。

 光明皇后の母・橘三千代ゆかりと伝わる、飛鳥時代(7〜8世紀)の小さな厨子。愛らしい白鳳仏を納めた扉絵には、遣唐使がもたらした大陸由来の図像表現が色濃く映り込む。

 公式サイトによれば、南都の仏教絵画の歴史は法隆寺金堂を彩った全12面の壁画の誕生に始まるといっても過言ではなく、力強い線描と豊麗な彩色が生み出す雄大で理想的なほとけの姿は、遣唐使がもたらした大陸の図像や絵画表現を色濃く反映したものであり、日本で初めての本格的な仏画様式がここに確立したとされる。展覧会ではこの厨子に加えて、昭和24年の焼損前の姿を伝える金堂壁画の模写もあわせて展示され、失われた「原点」を多角的に体感できる構成になっている。

【胸熱トリビア】 彫刻・工芸・絵画が渾然一体となった「総合芸術」であり、南都仏画のすべてがここから始まったと言っても過言ではない。展覧会の実質的な序章を飾る一件であり、小さな扉絵に凝縮された飛鳥時代の細密な筆致は、何世紀もの時を超えて現代の私たちの目を釘付けにする。

第4位:天平仏画の"原液"をいまに伝える、東大寺の至宝
『釈迦霊鷲山説法図(法華堂根本曼陀羅)』
/第4章 追憶の天平仏

 『釈迦霊鷲山説法図(法華堂根本曼陀羅)』(奈良時代 8世紀)麻布著色。通期展示。ボストン美術館所蔵。釈迦如来がインドの霊鷲山で説法する光景を描く。奈良・東大寺にかつて伝来し、釈迦三尊の姿が平安時代後期に描かれた東大寺所蔵倶舎曼荼羅に写され、東大寺内で権威ある画像として重視されるなど、東大寺内で重視された天平仏画の傑作。

 治承の南都焼討をはじめとする源平期の戦火で、多くの天平仏画が失われた東大寺。公式サイトの解説では、平安時代末期の12世紀、南都で教学復興が進むなかで天平仏画が再評価されていく過程が語られており、かつて東大寺に伝来したこの図像が、東大寺の国宝「倶舎曼荼羅」に引用されたことは、その象徴的な事例だとされる。

 つまりこの一図は、鎌倉時代の絵仏師たちが理想の釈迦像を再興する際の"種本"そのものであり、南都復古という一大潮流の出発点にあたる作品なのだ。

 会場では、この図像を忠実に写した国宝「倶舎曼荼羅」(奈良・東大寺、8月25日~9月13日展示)と並べて見ることができ、天平の記憶がどう受け継がれたかを実物同士の対比で確認できる、またとない機会になっている。

【胸熱トリビア】 理想化された釈迦の姿を追い求めた鎌倉時代の南都復古運動の出発点を、実物の重厚な発色とともに確かめられる。海を渡った名作が奇跡の里帰りをするという、時空を超えたドラマに胸が熱くなる。

 なお、釈迦霊鷲山説法図には、平安時代の文書が画面の裏面に貼り付けられていたことをご存知だろうか。会場の解説を以下に引用する。

 右の曼陀羅は、霊鷲山の変相図、天竺の真本である。台座以下は皆ことごとく破損した状態であり、あるいは自然に損失し、あるいは人が切り取ってしまった状態であったのだろう。多くの年月を経ているとみられるが、いつ制作されたかは不明である。久安4年、東大寺僧の已講大法師珍海に命じて修補させたが、これは家風により、もっとも画図に巧みだからだ。後世のために、細かな経緯をここに記す。
別当法務権大僧都寛信

 久安4年(1148)に東大寺の別当・寛信の命により曼陀羅の修理にあたった東大寺僧の珍海は、東大寺の国宝・倶舎曼荼羅を描いた人物と考えられています。倶舎曼荼羅の中央に描かれる釈迦三尊の姿は、法華堂根本曼陀羅の三尊図像を寸法もそのままに描き写したものです。修理を通じて法華堂根本曼荼羅に親しく接することができた珍海だからこそ、天竺で説法する真実の釈迦の姿をそこに見いだし、インド発祥とされた倶舎宗の本尊画像にその姿を投影することができたのでしょう。

第3位:まぼろしの大寺院が生んだ、凄まじき激動の歴史と神仏分離の記憶
『愛染明王坐像および厨子』
/第5章 内山永久寺―南都仏画・絵仏師の競演

 平安時代の永久年間(1113〜1118年)、興福寺大乗院第二世院主・頼実が鳥羽天皇の勅願を受けて創建したと伝わる内山永久寺(現・奈良県天理市)。石上神宮に隣接し、その神宮寺として絶大な勢力を誇ったこの寺は、やがて東大寺・興福寺・法隆寺に次ぐ大和有数の大寺院へと発展し、天正年間には50を超える塔頭を擁して「西の日光」とまで称された。

 しかし明治の神仏分離令により、寺内で力を持っていた僧侶自らが積極的に神仏分離を推し進めたことで、豪奢を極めた伽藍はことごとく破壊され、明治9年(1876)頃までにはほとんどの寺宝が失われてしまう。それでも各地に流出した仏像・仏画は折り紙付きの名品ばかり。この愛染明王坐像および厨子も、そうした数少ない生き残りのひとつだ。

 重要文化財 『厨子(ずし)』 (鎌倉時代 十三世紀)木製 漆塗・彩色。通期展示。東京国立博物館所蔵。愛染明王像(あいぜんみょうおうぞう)の厨子。扉には密教尊や愛染明王に関わる諸尊、厨子の奥壁には愛染明王と同体とされる焔魔天(えんまてん)と諸尊が描かれ、重層的な信仰空間が展開される。力量ある南都絵師による彩絵だろう。 

【胸熱トリビア】 厨子の扉を開けると、外側の穏やかな諸尊から一転、内側では燃え盛る炎を背にした愛染明王・焔魔天が姿を現す。この劇的な演出は、かつて内山永久寺の堂内にどれほど濃密な祈りの空間が広がっていたかを物語る。同寺ゆかりの品は今も、石上神宮摂社の国宝建築、藤田美術館の国宝「両部大経感得図」、さらには東京・世田谷山観音寺の重文「不動明王および八大童子像」(運慶の孫・康円作)など全国に散らばっており、明治の廃仏毀釈がいかに徹底的だったかを物語る。今回、里帰りならぬ”束の間の再結集”を果たした一体として、ぜひ足を止めて見てほしい。

第2位:飛鳥の工人が銅板に刻んだ、南都仏画のもうひとつの原点
『厨子入押出阿弥陀三尊および僧形像』(重要文化財)
/第1章 法隆寺金堂壁画―日本仏画の黎明

 重要文化財『厨子入押出阿弥陀三尊および僧形像(ずしいりおしだしあみださんそんおよびそうぎょうぞう)』 (飛鳥時代 7〜8世紀) [押出仏]銅板押出 鍍金 [厨子]木製 漆塗・彩色。通期展示。奈良 法隆寺。銅板からレリーフを形作る押出仏の五尊像と天蓋を厨子内に鋲留めする。厨子の左右扉の内側には力士が描かれ、押出仏の左右には葡萄唐草文が描かれている。飛鳥時代絵画の貴重な遺品である。

 銅板を打ち出して立体的な五尊像を形作る「押出仏」という技法。中央に阿弥陀如来を据え、その左右を菩薩・僧形の像が固める構図は、飛鳥時代(7〜8世紀)の礼拝空間の理想像を伝えている。この押出仏は木製漆塗の厨子内に鋲留めされ、厨子そのものが一つの小宇宙として設計されている点が興味深い。厨子の天蓋部分には別の意匠のレリーフが取り付けられ、押出仏の左右には葡萄唐草文が描かれるなど、限られた空間の中に何層もの意匠が重ねられているのだ。

 さらに見逃せないのが、厨子の左右扉である。内側には力士像が描かれ、须弥壇を支える守護者として、静かな仏の空間に動的な緊張感を添えている。この力士像を含む扉の内側の絵画は、数少ない飛鳥時代絵画の実例としても学術的価値が高く、押出仏という金工の技術だけでなく、「絵画」という観点からも本作を特別なものにしている。

 本展第1章のもう一つの主役、国宝「伝橘夫人念持仏厨子」と並べて見ることで、その対比がいっそう鮮やかになる。片や小さな扉絵に凝縮された繊細な筆致、片や銅板から打ち出された力強い立体表現。同じ飛鳥時代、同じ法隆寺伝来でありながら、異なる技法・異なる美意識が併存していたことを物語る、まさに南都仏画の「黎明期」を体感できる好一対だ。焼損によって多くを失った法隆寺金堂壁画の世界を、この二つの厨子が今なお静かに伝え続けている。

【胸熱トリビア】 押出仏という金工技法、厨子内側に描かれた絵画、そして力士像の彫刻――彫刻・金工・絵画が渾然一体となった「総合芸術」としての飛鳥美術の粋が、この掌サイズの厨子に凝縮されている。ガラス越しに目を凝らせば、銅板を一打ちごとに打ち出していった1300年以上前の工人の息づかいまでも感じ取れるような、静かな迫力がある。会場で足を止め、厨子の隅々まで――扉の内側の力士像まで見逃さずに――じっくりと鑑賞してみてほしい。

第1位:修復後初公開という歴史的瞬間に出会う、鎌倉の名品
『十六羅漢図』
/第6章 南都仏教の復興と絵所

 『十六羅漢図(じゅうろくらかんず)』(鎌倉時代 13世紀)絹本著色。通期展示。ボストン美術館所蔵。公益財団法人住友財団 2017〜2019年度 海外文化財維持・修復助成事業。平安時代に南都周辺に広まった古い図像を受け継ぐ十六羅漢図。赤・橙・緑を基調とする明快な彩色など、鎌倉時代の南都仏画に共通する画風を示す。文安5年(1448年)に奈良・法華寺に寄進されたことが知られる。

 奈良・法華寺に伝わり、のちにボストン美術館コレクションに加わった鎌倉時代(13世紀)の名品。平安時代に南都周辺に広まった古い十六羅漢図の図像を受け継ぎつつ、赤・橙・緑を基調とする明快な彩色など、鎌倉時代の南都仏画に共通する画風を示す一具だ。

 この八幅は、公益財団法人住友財団の助成による「文化財維持・修復助成事業(海外)」の対象となり、2018年より複数年にわたる保存修復プロジェクトが進められてきた。旧裏打紙の除去や肌裏紙の交換、折れ伏せなど専門的な処置を経て、2023年7月には新たな表装も施され、今回の展覧会でついに一般公開されるに至った。百年以上非公開期間を経て初めて公開される、まさに修復の集大成というべきタイミングでの登場だ。

【胸熱トリビア】 会場には修復の様子を伝えるコラムパネルも展示されており、修復前の傷んだ姿の写真と見比べられるのも見どころのひとつ。長い年月を経て綺麗に蘇った色彩と細やかな筆使いを目の当たりにできるのは、この会期中だけのまたとない機会だ。

 ボストン美術館の十六羅漢図の修理に関して、会場の解説の一部を以下に引用したい。

 ボストン美術館アジア保存修復室は、羅漢図を描いた13世紀日本の希少な仏教絹本著色画群を対象とする大規模な複数年保存修復プロジェクトを完了した。本画群は、本来16幅から成る一具であったが、そのうち15点がウィリアム・スタージス・ビゲローおよびチャールズ・ゴダード・ウェルドの旧蔵品を通じて1911年に同館のコレクションに加わった。作品はそれぞれ異なる形態および保存状態で収蔵されたため、本プロジェクトは一具の作品群として総合的調査・修理を行う貴重な機会となった。今回の修理では、過去の修理による不整合な補修箇所を是正し、作品を本来の掛軸へと復した。

番外編:ベスト5には入らなかったが見逃せない3点

●第3章『両界曼荼羅(子島曼荼羅)』金剛界

(国宝/平安時代・11世紀/子嶋寺、金剛界 8月18日〜9月13日展示)

 藤原道長が制作に関わったと伝わる、金銀の文様を凝らしたきらびやかな曼荼羅。前期は胎蔵界、後期は金剛界と展示替えされる「分割公開」形式で、今の時期に会場を訪れると拝めるのはこの金剛界の面。密教美術ならではの緻密な図像構成を、じっくりと堪能できる。

第3章『普賢菩薩像』

(国宝/平安時代・12世紀/東京国立博物館、8月18日〜9月13日展示)

 平安仏画といえば誰もが思い浮かべる、優美の極みともいえる名品。かつて奈良の寺院に伝わったとされ、南都で育まれた仏画の美意識が京都風の優美な様式へと昇華していく過程を物語る一枚。後期からの登場なので、まさに"今だけ"の名品だ。

第5章『四天王像』

(鎌倉時代・建長5年〈1253〉頃/ボストン美術館、通期展示)

 「西の日光」とも称された幻の名刹・内山永久寺の旧蔵品。南都絵仏師・重命が手がけたもので、福井・大善寺に伝わる厨子の扉絵と全く同じ図様の四天王が描かれている点が興味深い。同じ絵仏師の手が、離れた土地の異なる作品に痕跡を残している――そのつながりを追う楽しみがある。

ユニークでユーモアもたっぷりのグッズたち

 来場の時期によって、特設ショップでの取り扱い商品が異なる可能性あり。商品によって個別の個数制限を設ける場合もある。詳細は各商品および特設ショップで要確認。

編集後記

 2026年、奈良国立博物館にボストン美術館の秘宝が蘇る。しかし、私たちが本当に目撃すべきは完成した名画だけではない。海を渡り、長い時を経て守られてきた作品を、研究者や修復家たちがどんな想いで現代へ繋いできたかという「時間の堆積」だ。

 展示室で仏画の前に立ったとき、そこにある圧倒的な筆致の緻密さに息をのむ。そして、当時の人々が描いた理想郷の姿に思いを馳せる。それらすべてが、今の奈良の深層へと繋がっている。

 実はこの「南都仏画」というジャンルそのものが、一度は忘れ去られかけた歴史を持つ。明治初期の神仏分離政策によって奈良の仏教美術は存続の危機に陥ったが、その窮状の中で価値を再発見したのが、来日した米国人哲学者アーネスト・フェノロサと、その教え子・岡倉天心だった。二人は法隆寺金堂壁画や薬師寺吉祥天像を「日本美術の古典」として高く評価し、その鑑識眼によって見出された作品群が、現在ボストン美術館が誇る南都仏画コレクションの核となっている。

 つまり今回の「里帰り」は、単に海を渡った名品が奈良に戻ってくるという以上の意味を持つ。一度は忘れられかけた奈良の仏教美術の価値を、外部の目が再発見し、海を渡って保護され、そして100年以上の時を経て再びこの地に還ってくる――そのサイクル自体が、奈良という土地の懐の深さを物語っている。 

■開催概要

タイトル ボストン美術館共同企画 特別展「南都仏画―よみがえる奈良天平の美―」

会期:2026年7月18日(土)~9月13日(日)
前期:7月18日(土)~8月16日(日)
後期:8月18日(火)~9月13日(日)

会場:奈良国立博物館 東西新館(奈良市登大路町50番地)

開館時間:9:30~17:00
※土曜日は19:00まで
※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日

料金:一般 2,200円、高校・大学生 1,500円、中学生以下 無料

主催:奈良国立博物館、NHK奈良放送局、NHKエンタープライズ近畿、朝日新聞社

特別協力:ボストン美術館

公式サイト:https://nantobutsuga2026.exhibit.jp/

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