情シス視点の「フィジカルAI元年」 インフラ構築からソリューション選定まで 第1回
止まらない・誤らせないインフラ基盤の勘所
情シスは「フィジカルAI」にどう向き合うべきか 実用化に不可欠な“現場×AI×経営”の橋渡し役に
2026年08月10日 09時00分更新
「フィジカルAI元年」と言われる2026年。人手不足を補う存在として同技術に対する期待は高まっており、日本政府も成長戦略の中核領域として位置付けている。
このフィジカルAIは、実際の作業を担う現場の知見が不可欠であるが、その仕組みの整備は情報システム部門(情シス)が担うことになる。本記事では、企業がフィジカルAIを推進する中での、情シスの役割や取り組むべき技術領域について整理する。
日本にとって“喫緊”の技術である「フィジカルAI」
フィジカルAIは、NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏の提唱をきっかけに、急速に注目を集めるようになった技術概念だ。フアン氏はフィジカルAIを「知覚し、推論し、計画し、行動するAI」と定義する。
より具体的には、現実世界をセンサーが「知覚」し、それを基に生成AIが「推論・計画」し、そしてロボットや産業機械が「行動」することで、「人の行動プロセス」をAIとデバイスが自律的に実行する仕組みである。そのため、現場の省力化・自動化をもたらすキーテクノロジーとして、世界的に期待が高まっている。
日本における期待はさらに切実である。今後20年で労働力人口が約1500万人も減少する見通しの中、構造的な人手不足は、各産業の衰退にとどまらず、社会インフラの維持すらをも危うくしているからだ。
こうした背景から、日本政府もフィジカルAIを主軸とした「AIトランスフォーメーション(AX)」を重点的に支援する方針だ。成長戦略における重点分野のひとつ「AI・半導体」の筆頭にフィジカルAIを位置付け、2040年までに官民で「10.5兆円」を投じ、20兆円にも上る市場創出を目指していく。
フィジカルAIの実用化に立ちはだかる“3つの壁”
製造業のイメージが強いフィジカルAIだが、その適用領域は多岐にわたる。政府の成長戦略では、市場規模や人手不足の深刻度、導入障壁などを評価して「18分野」を選定しており、2040年までに1000万台の自律型ロボットを導入する目標を掲げている。
この18分野は、早期の実装が期待される「製造業」「物流」「建設・土木」「建築」「小売」「警備業」「介護」の先行7分野を軸に、「医療」「農業」「宿泊業」「インフラ保守」「災害対応」などで構成される。そのため、幅広い企業がフィジカルAIの導入・活用へと舵を切ることが予測される。
フィジカルAIの導入プロジェクトでは、工場や店舗といった「現場(事業部門)」が主役となるケースが多くなる。なぜなら、「現場のどの作業に適用し、自律化するか」という業務ドメインの知識を最も有しているのが、他ならぬ現場自身だからだ。
ただ、初期のPoCや課題設計こそ現場主導で進むものの、実用化や安定運用、全社展開のフェーズになると、情シスの役割が決定的に大きくなる。現場だけで取り組んでも、本番運用では「運用の壁」「セキュリティの壁」「データサイロ化の壁」が立ちはだかるからだ。
まず運用の壁とは、特定ラインやPoCでの運用は成功しても、対象範囲や環境が変わった途端に運用が破綻してしまう問題だ。フィジカルAIの仕組みを、全社共通のITインフラやセキュリティ基盤に乗せないと、運用の継続性やスケーラビリティが欠如してしまう。
セキュリティの壁は、フィジカルAIがOT(制御技術)という物理領域に踏み込むからこそ生じる問題だ。OT領域でインシデントが発生した場合、人身事故や工場のライン停止といった致命的な被害に直結しやすい。かつ、元々ネットワークから隔離されていたOT環境は、脅威に対して脆弱な状態であることも多く、情シスによるガバナンスが必要となる。
そしてデータサイロ化の壁だ。各現場が個別に、ベンダー独自仕様のシステムを導入すると、フィジカルAIの価値の源泉である現場データが分断され、全社レベルで利活用できない状態に陥ってしまう。全社のデータを統合し、各現場のデバイスや基幹システムとシームレスにつなげる共通データ基盤の確立が求められる。
情シスが初期段階からアーキテクチャ設計やガバナンス構築に参画することで、これらの壁を未然に防ぎ、フィジカルAIを企業の確かな成果へと結びつけることが可能になるはずだ。
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