情シス視点の「フィジカルAI元年」 インフラ構築からソリューション選定まで 第1回
止まらない・誤らせないインフラ基盤の勘所
情シスは「フィジカルAI」にどう向き合うべきか 実用化に不可欠な“現場×AI×経営”の橋渡し役に
2026年08月10日 09時00分更新
データ・ネットワーク・クラウド・セキュリティ設計のポイント
では、フィジカルAIにおいて情シスは何を設計していく必要があるのか。フィジカルAIを支える「データ」「ネットワーク」「クラウド」「セキュリティ」の4基盤を構築する際のポイントを挙げる。
■データの収集・蓄積・構造化
フィジカルAIの出発点となる、現場データを収集するための仕組みづくりだ。センサーやカメラなどのデバイスで「どのデータを・どの粒度・どの頻度で取得すべきか」は、そのデータをどう利用するかによって異なる。こうしたデータ要件に加え、物理環境で設置できるかどうかも考慮しながらデバイスを選定していく。
従来のIoTとは異なり、「何が起きたか」という状態監視のデータだけではなく、「AIの判断」に必要なデータが求められる点もポイントだ。その際、現場の作業者が判断の根拠としたノウハウを抽出し、ロボットや産業機器が実行できる「タスク・ルール」へと変換するフェーズも発生する。
また、データを蓄積・共有する基盤の設計も不可欠だ。リアルタイム性の要求やデータ主権の観点からデータをどこに置くかを考え、AIが活用できるようデータを構造化した上で、横展開できる基盤の確立が求められる。
■ネットワークインフラの再設計
ネットワーク基盤の構築で重要になるのが、可用性とリアルタイム性の確保だ。通信途絶が、人身事故やライン停止に直結しかねない点は先述の通りである。さらに、ロボットなどの緻密な動作制御においては、通信の遅延やゆらぎ、パケットロスが少ないことが重視される。
その際、AIの判断(推論処理)をどこで実行するかによって、ネットワーク設計も変わってくる。クラウド側での推論は、圧倒的な計算リソースによって高度な判断を可能にする一方で、通信の遅延や帯域の圧迫は避けられない。対して、エッジ(デバイス)側で推論を処理すれば、リアルタイム性を確保でき、クラウドへのデータ転送量も抑えられる。もっとも、全処理をエッジに委ねるのは能力的に困難なため、適材適所で組み合わせることが重要となる。
■クラウド基盤の整備
フィジカルAIの中枢神経として欠かせないのがクラウドだ。仮にエッジに処理を委ねる場合でも、AIモデルの作成やデータ管理、遠隔アップデートを行う上で、クラウドとの連携は不可欠だ。クラウドの役割は極めて広く、AIの推論から、AIモデルの学習、デジタルツインの構築、データ基盤の整備、ロボット・産業機器のAPI連携に至るまで多岐にわたる。
■OT・AIセキュリティとガバナンス
各デバイスがネットワークに常時接続されるフィジカルAIにおいては、ネットワーク分離やアクセス制御といった従来のOTセキュリティを前提としつつ、AI固有の脆弱性や物理的なセーフティまでも意識した多層的なセキュリティ対策が求められる。
こうした「システムを止めない」ためのセキュリティに加えて、「誤った判断をさせない」ためのAIガバナンスも重要となる。データ品質の確保からAIモデルの管理などに加えて、鍵となるのが「責任の明確化」だ。事故が起きた際の説明責任を果たすために、AIの判断ログだけではなく、ロボットの行動ログ、センサーの入力ログ、人の介在ログなどを統合して、「何が原因だったのか」を究明できる監査基盤の整備も求められる。
情シスは“現場×AI×経営”の橋渡し役
このようにフィジカルAIは、情シスが設計・整備するデータやネットワーク、クラウド、セキュリティの存在なしでは成り立たない。加えて、インフラ基盤の整備と同じくらい重要なのが、現場とAI、そして経営陣の“橋渡し役”として機能することだ。
例えば、現場の課題をデータ要件に翻訳することや、現場の暗黙知をタスク・ルールに変換するのは、データやAIを熟知する情シスにしかできない役割だ。さらに、投資判断に必要な技術的根拠やフィジカルAIによる現場の成果を、経営陣が理解できる言語で伝えられるのも情シスだけだ。
「止まらない・誤らせない」インフラ設計から現場・AI・経営の橋渡しまで、フィジカルAIの実装において情シスが果たすべき役割は極めて重要だ。これまで培ってきた技術的知見を武器に、日本の未来を変える技術の強力な推進役となって欲しい。
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