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業務を変えるkintoneユーザー事例 第322回

東邦ガスネットワークの設備保安課が繰り広げた、紙の壁との壮絶な戦い

東京タワー相当の紙を“完全撤廃” 点検業務をkintone化した“現場ファースト”な改善術

2026年07月27日 11時30分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp 写真提供● サイボウズ

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東邦ガスネットワーク 設備部 設備保全センター 設備保安課 成川皓泰さん

 「一生この紙の山に埋もれ続けるのか」 ―― 東邦ガスネットワークの設備保安課は、紙主体の点検業務による非効率さに悩まされていた。事務所で管理する紙のファイルを積み重ねると、その高さは東京タワーに匹敵するほどだったという。彼らはどうやって紙の“完全撤廃”を成し遂げたのか。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2026 nagoya」を開催。ラストバッターを務めた東邦ガスネットワークの成川皓泰さんが披露したのは、紙の壁との壮絶な戦いを経て、kintoneによる点検業務のデジタル化を果たしたDX事例だ。

積み上げた紙の壁は“東京タワー”に匹敵 現状打破は検討会議の何気ない会話から

 東邦ガスネットワークは、愛知・岐阜・三重の東海3県で都市ガスを供給する「ガス導管事業」を担う、東邦ガスグループの一社だ。

 今回、DX推進の舞台となったのは、同社の設備保安課である。主に大規模商業施設や超高層ビル、工場におけるガス配管や設備の点検業務を担当する部署で、成川さんは「まさに重要インフラの守り手」と語る。

 同部署で管理する顧客は全体で6600物件に上り、年間約1700物件の点検を40名の点検員で実施している。それほどの現場をこなす一方で、業務フローは“紙主体”のままだったという。

たった40名で年1700物件を点検

 業務のフローは、まず、事前に紙の顧客情報を確認して紙の計画書を作成。現場では、点検結果を紙にメモをして、帰社後にそれを基幹システムに登録するという流れだ。

まさに“紙づくし”の点検業務フロー

 もちろん紙主体の業務ゆえの非効率さが常に付きまとう。紙の物件情報を探し出すのには20分かかり、帰社後にメモを入力する作業には1時間も費やされていた。

 保管場所の問題も深刻だ。事務所のキャビネットは紙書類が独占。1物件ごとに折衝履歴や設備情報、点検結果がファイルにまとめられていた。「私たちが管理するのは6600物件で、1物件当たりのファイルの厚さが約5cm。これを積み上げると330mとなり、奇しくも東京タワーに匹敵する高さになります。まさに“紙の壁”でした」(成川さん)

事務所に溢れる紙は積み上げると東京タワーレベルに

 この状況を打破しようと動き始めたのが、成川さんら点検の効率化・高度化を担うチームだ。当初は、既存の紙資料を電子化する構想だったが、そもそも点検のたびに紙が発生するので根本解決にならない。次に点検そのもののデジタル化を検討するも、基幹システムの改修には数億円の費用と2年以上の期間が必要なことが判明した。

 さらに現場からは「今までのやり方が慣れてて確実」「運用上の懸念が100%解決しないとダメ」といった声も上がり、検討も停滞。「一生この紙の山に埋もれ続けるしかないのか ―― そんな雰囲気が漂っていました」と成川さんは振り返る。

 状況が打破されたのは、何度目かの検討会議でのある会話だった。「どうせなら新しいシステムを作れたら良いのに」「じゃぁ作ってみるか」という発想からノーコードツールに行き着き、kintoneと出会う。

 そこから、kintoneを導入した決め手は、専門知識がなくても開発できる手軽さであり、コストを抑えながら“現場ファースト”でアプリを育てられる点だ。「私たちがkintoneで描いた未来は、点検結果を現場で入力できるようにするだけではありません。計画書の作成から各種書類の回覧、全体の進捗管理などをすべてkintoneに集約し、窓口を一本化することでした」(成川さん)

現場の不満を“スピード改善”と“TTT”で信頼に変える

 設備保安課が掲げたkintoneの導入方針はただひとつ「現場と一緒に作り上げる」ことだ。「私たちはIT知識のない素人。だからこそ、現場からの要望をくみ取り、できるだけアプリに反映することを決意しました」(成川さん)

 この方針で、kintoneアプリは数か月かけて完成。「現場と意見を交わしたのだから、良いものができたはずだ」とトライアルを始めるも、待っていたのは不満の嵐だった。

 「使いにくい!」「やっぱり紙だ!」という声に、「一緒に作ったのに…」とショックを受けつつも、「やはり環境の整った事務所と、時間制限がある中で点検と入力を同時でこなす現場とは、操作感に大きな違いが生まれるのは当たり前でした」と納得したという。

事務所で作成したアプリでは操作感に違いが生まれる

 ただ、成川さんたちは諦めなかった。ノーコードツールの本領は、不満を即座に反映できることだ。現場に意見ボックスを設置して一つひとつ応え、事務所で言われた要望はその場で修正してみせた。この圧倒的なスピード感での改善で、現場の信頼を取り戻していった。

 ここでは、実際の改善例が2つ紹介された。

 1つ目は「情報のショートカット」だ。それまで点検に必要な各種情報がマスターアプリに点在していたのを、「点検管理」アプリへすべてを集約。関連レコード機能で自動で情報を集める仕組みを構築し、点検員の画面遷移の手間を減らした。アクション機能により、点検結果の入力時に顧客情報が自動挿入されるようにしたのも、現場の負荷を下げる工夫だ。

関連レコードで情報を集約

 2つ目は「入力画面の整理」だ。小さなタブレット画面の中に点検項目が羅列されていた状態を、タブ表示のプラグインで検査の種類ごとに整理した。また、対象設備を最初に指定すると最適な点検項目が表示される仕組みも、条件分岐のプラグインで実現している。

タブ表示のプラグインで点検項目を整理

 さらに、現場への定着策も展開した。それは、現場内で教え合う環境をつくる「TTT(タブレット・点検・トレーナー)」制度だ。ITリテラシーが高い点検員を重点的に教育し、その上でTTTに任命。他の点検員は分からないことを彼らに相談できるようにし、心理的な安心感を生み出して、新しい点検スタイルへの抵抗をなくした。

 こうした、スピード改善とTTTの教育体制の効果もあり、不満の声は「kintoneって便利じゃん」に変わって、現場の定着を果たすことができた。

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