ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第883回
TSMCのA16プロセスの詳細が判明! 性能向上の主因はトランジスタではなく裏面電源供給(SPR)にあり?
2026年07月06日 12時00分更新
性能改善の主因はトランジスタにあらず?
激しいボカシに隠された裏側
下の画像が実際の断面写真である。上側の図が製造工程で、まずF-BEOLなのでトランジスタ層+配線層を構築。次にダミーウェハーと接続してからひっくり返し、もともとのトランジスタ層の裏にあったSi(シリコン)ウェハーを削り取ってから電力供給層を構築する、という構造になっているのがわかる。
A16の断面写真。BM4の下に3D MIM(Metal-insulator-metal Capacitor)が配されているあたり、ここが一番トランジスタに近いパスコンという位置づけになるのだろう。容量がどの程度かは不明だ。あとこのぼかし、論文の方にもがっつりかかっていた
それはいいのだが、肝心のトランジスタ層とそこに電源層から接続するVBの様子は激しいぼかしがかかっているあたり、このトランジスタ層周辺に関しては意地でも情報公開したくないというTSMCの強い意志を感じる。
このA16+SPRの性能であるが、下の画像がエリアサイズと性能(速度との比)で、同一電圧環境(0.8V/125度)における性能で言えば、速度が8~10%の向上、エリアサイズが8~10%の削減になった。論文をあたると、A16 SPRでVminを70mVほど下げられるとしており、これが10%程度の速度向上に相当するという話だ。
性能消費電力比で言えば、N2から比べて20%程度の性能改善、N7と比較すると実に4分の1近い電力で動作するとされる。
ただトランジスタの特性そのもので言うと、やや改善はみられるとはいえあまり大きな違いになっているとは言いにくいのがわかる。どうもA16、性能改善や密度向上の主要因はSPRであり、トランジスタそのものに大きな違いがあるようには思えない。
トランジスタの特性。違いがないわけではないので、これを積み重ねることでそれなりに差はでるのだろう。それはともかくN2世代からすでに6電圧(eL/uL/uL_L/L/L_L/SVT)になっていたのには驚いた。Intel 18A-Pでも5電圧である
もう1つSPRに関して言えば、このページの冒頭で示したように、SPRを実装する関係でトランジスタの裏にあるSi層を削り取ることになる("Si thinning"という工程)。これにともない、Bandgap Reference(LSI内部で基準電圧を作り出す回路:通常はSiのバンドギャップを利用する形で構築されるが、今回はSi層を削り取る関係でこれが使えない)がBJT(バイポーラトランジスタ)ベースからCMOSベースに切り替わることになる。したがって、電圧も1.2Vから0.9Vに代わることになる。同様に温度センサーやESD(静電気放電対策)なども変更になることが示された。
またこのページ最初の画像にある断面写真で一番下に見えていたMIMキャパシタであるが、これはN2/N2P世代に比べて「最大」で2倍の容量にできることが示された。「最大」というのは、3D UHP-MiMはN2Pと互換性を持たせた505nF/mm2のものと、A16のみで利用できる1010nF/mm2の2種類の特性のものが利用できるようだからだ。
単純に容量が2倍になっているあたりは、eDTC(embedded Deep Trench Capacitor)の技法を利用してキャパシタの高さ(≒容量)を2倍にしているのではないか? という気もするが、このあたりの詳細は明らかにされなかった。ただ容量を増やすと信号が安定しやすいというのは右のグラフ(これはシミュレーションのものだろう)結果を見ればわかりやすい。
SHPMIM(Super-High-Performance MIM) は、N2で導入されたオンダイ型のMIMキャパシタだが、これだけでは最大で23.2%もの電圧変動が発生し、次第に収束していく。ところがこれにUHPMIM(N2Pと互換の3D MIMだろう)を組み合わせることで電圧変動は9.8%まで抑えられ、さらにUHPMIM+eDTC(これがA16専用だろう)では4.5%まで低減できるとしている。
ところで少し前に「どうもA16、性能改善や密度向上の主要因はSPRであり、トランジスタそのものに大きな違いがあるようには思えない」と書いたが、それを裏付けるようなスライドが下の画像である。
SPRを利用したことでIR Dropを抑えられ(=性能/消費電力比が改善する)、またSPRによって電源配線が信号配線層から排除されたことでAPR(Automatic Placement and Routing:信号の配線を自動的に行なう工程)の結果が従来より改善した(なにしろ電源配線は結構邪魔である)ことで、配線長そのものの短縮(≒動作周波数の向上)が果たされた、としている。
またArea Reduction(実装面積の削減)も、配線そのものの幅は変わらないにしても、配線長が短縮するのはそのまま面積削減につながるわけだ。
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