Datadogの実環境調査から紐解く“複雑化するAI運用”
急増するトークン消費にマルチモデル化 AI活用は“見える化”してから広げる時代に
2026年06月03日 17時00分更新
Datadog Japanは、2026年6月2日、Datadogユーザーの実環境を分析した「AIエンジニアリング」に関する最新レポートの日本語版を公開した。同レポートでは、生成AIが実装フェーズへ移る中で、複雑化するAI運用の実態が明らかとなっている。
同社のSenior Developer Advocateである萩野たいじ氏は、「AI運用の複雑さがボトルネックになり始めている」と指摘。「安易にAI導入を加速するのではなく、継続的な運用を意識して、“安全に拡張していく”段階に来ている」と強調した。
モデルが増えるごとに増大する運用負荷
今回のレポートは、グローバルで1000社を超えるDatadogユーザーの本番環境におけるデータに基づき、2026年3月時点のAIエンジニアリングの現状を分析したものだ。同レポートの説明会に登壇した萩野氏は、調査から得られた3つのポイントを抜粋し、組織が直面している課題を解説した。
最初に触れられたのは「単一モデルからマルチモデルへのシフト」だ。
LLMプロバイダー別の採用状況を1年前と比較すると、OpenAIが12ポイント減となりながらも、63%で首位を維持。一方で、AnthropicのClaudeが23ポイント増、GoogleのGeminiが20ポイント増と大きく採用を伸ばしている。ただし、OpenAIの利用量が減少しているわけではなく、他のプロバイダーの成長がそれを上回った結果、シェアが相対的に低下した形だ。
さらに、この一年で著しく変化したのが、6モデル以上を利用する組織が、23%から41%へと急増したことだ。3モデル以上の併用に至っては、70%にまで達している。この背景について萩野氏は、「コストやレイテンシー、精度、安全性などに応じて、最適なモデルを選択する動きが広がってきたため」だと指摘する。
一方で、運用モデルの増加は、APIやセキュリティ、ガバナンス、フェールオーバー、コストといった管理負荷の増大に直結する。そのため、標準化されたモデル管理の仕組みが必須となっている状況だ。
フレームワークの利用拡大でAIワークフロードはブラックボックス化
2つ目のポイントが、エージェントフレームワークの利用拡大だ。
LangChainやLangGraphといったAIエージェントを構築するためのフレームワークの採用が、この1年で9.1%から17.5%へとほぼ倍増している。この傾向は、スタートアップから中堅企業、大企業まで同様である。
この結果は、AI活用が単純なモデルの呼び出しから、複数ステップの処理やツール連携などを伴う「より高度なワークフロー」へと移行している実態を裏付けている。
フレームワークを利用すれば、高度なAIアプリを容易に実装できるようになる。しかし、フレームワーク内の処理が増え、AIワークフローがブラックボックス化する懸念が生じる。その結果、意図しないコスト増や性能の低下が発生しても原因が追跡できず、AI特有の再現性の低さも相まって、解決できない問題が増加してしまう。
「エージェント化が進むことでより成果を得られやすくなるが、運用面では、これまで以上に詳細な可視化やテレメトリが必要になる」(萩野氏)
トークン消費の急増で「コンテキストエンジニアリング」が重要に
3つ目のポイントは、コストに直結する「トークン消費量」の急増だ。この1年で、リクエストあたりのトークン使用量、つまりコンテキストの量が2倍以上に増大。上位10%のヘビーユーザー企業においては、実に4倍に膨れ上がっている状況だ。
背景にあるのは、「コンテキストウィンドウの大幅な拡大」だ。主要モデルのコンテキストウィンドウはここ2年で劇的に広がり、最大200万トークンまで扱えるモデルも登場するほどだ。その結果、会話の履歴や検索結果、ドキュメント、ツールの出力など、多様な情報をLLMに与えられるようになり、AIシステムの高度化も進んだ。
一方で、プロンプトが肥大するほど、レイテンシーの悪化を招き、なにより推論コストを増加させる。加えて萩野氏は、「情報量が増え過ぎた結果、本当に必要なシグナルが埋もれてしまうリスク」を指摘する。
こうした中で先進企業は、コンテキストを構造化・最適化するための「コンテキストエンジニアリング」に投資の軸足を移しているという。
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