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エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第43回

【東京国立博物館・表慶館】100年ぶりの凱旋! 若冲の至宝中の至宝を“ガラスなし”で浴びる衝撃。2026年秋「皇居三の丸尚蔵館」グランドオープンへの序章

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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「皇居三の丸尚蔵館 グランドオープンプレイベント in 表慶館」の展示風景

国宝《動植綵絵》が“高精細複製”で一挙公開
皇居三の丸尚蔵館プレイベント開幕

 皇居三の丸尚蔵館は4月17日、東京国立博物館 表慶館(東京・上野)にて、「皇居三の丸尚蔵館 グランドオープンプレイベント in 表慶館」(〜2026年5月17日)を開幕した。

 国立文化財機構文化財活用センターとキヤノンによる「文化財の高精細複製品の制作と活用に関する共同研究プロジェクト」のもと、同館が収蔵する伊藤若冲筆 国宝《動植綵絵》の高精細複製品を制作。

 この完成を記念して、東京国立博物館 表慶館で初公開されている《動植綵絵》の複製品30幅を前後期15幅ずつ入れ替えて展示するほか、2023年(令和5年)度に制作した狩野永徳の国宝《唐獅子図屏風》の高精細複製品も併せて展示している。この展覧会は、今年の秋に予定されている皇居三の丸尚蔵館のグランドオープンに先立ち開催されている。

 《動植綵絵》は、奇想の画家、超絶技巧の画家として日本の画家の中でも特別な人気を誇る伊藤若冲(1716~1800)が約10年の歳月を費やして描き上げた、全30幅からなる畢生の大作であり、若冲ブームをけん引してきた日本美術の粋ともいえる作品。緻密な観察に基づく写実と、華麗な色彩が融合した神羅万象の生命美を表現している。元々は京都・相国寺に寄進され、仏教儀式で用いられていた。

 明治初期の廃仏毀釈により、全国の寺院は領地を没収され、経済的に壊滅的な打撃を受けていたが、相国寺も例外ではなく、広大な境内地の維持すら困難な状況に陥っていたが、1889年(明治22年)、相国寺は困窮する寺の財政を立て直し、寺域を維持するための下賜金を仰ぐべく、《動植綵絵》を明治天皇へ献上。この際、皇室から相国寺へ1万円という巨額の下賜金が贈られた。この下賜金により、今の相国寺はある。

 皇室へ献上され、2021年には国宝に指定された本作品は、絹本に描かれ、若冲特有の「裏彩色」などの技法により、250年以上経った今もなお鮮明な輝きを放っている。

表慶館のエントランス

国宝《動植綵絵》全30幅の高精細複製品の展示であり、ガラス面などもなく、撮影も可能だ

100年ぶりの“聖地”再集結 高精細複製でよみがえる若冲体験

 今回、東京国立博物館・表慶館で体験した光景は、過去のどの若冲体験とも違う、全く新しいアートの形と言える。

 展示されているのは、先述の通り、皇居三の丸尚蔵館が国立文化財機構 文化財活用センターとキヤノンの共同研究プロジェクトによる「綴プロジェクト」の技術を活用して制作した、国宝《動植綵絵》全30幅の高精細複製品だ。制作には特定非営利活動法人の京都文化協会も加わり、京都の職人の技が随所に息づいている。

 驚くべきことは、ここ表慶館での《動植綵絵》展示は、大正15年(1926)の「御物 若冲筆 動植綵絵三十幅特別展」以来、実に100年ぶりだという事実だ。この建物は、《動植綵絵》が最初に一堂に展示された「聖地」なのだ。それ以降、皇室御物となった《動植綵絵》全30幅が揃い踏みしたのは、2007年の相国寺承天閣美術館(120年ぶりの京都への凱旋)、2009年の東京国立博物館(東京では93年ぶり)、2016年の東京都美術館(《釈迦三尊像》3幅を合わせた33幅揃い踏み)の、わずか3回にすぎない。それほどまでに稀少な機会だったのだ。

 思えば、筆者は若冲好きが高じて、2016年の東京都美術館の「若冲展」に合わせて、皇居三の丸尚蔵館にも協力を得て、『若冲Walker』を制作した事もあった。京都・相国寺、承天閣美術館での全幅公開にも駆けつけ、四国の金毘羅さん(金刀比羅宮)の《百花図》など、全国の若冲の足跡を追いかけ取材をしてきた筆者にとっても、今回の「露出された高精細の若冲」は感慨深い。若冲の絵は、見る側の解像度が上がれば上がるほど、無限に応えてくれるのが実感される。

『若冲Walker』

 表慶館は、当時の皇太子(後の大正天皇)のご成婚を祝う目的で、有志からの寄付金によって建設された。皇室の「慶」事を「表」する建物という意味が込められている。1909年(明治42年)に開館し、日本近代建築の父と呼ばれる片山東熊が設計を手がけた。

 1923年(大正12年)の関東大震災により、隣接する本館が大きな被害を受けたが、表慶館は壊滅を免れ、貴重な展示機能を維持した。そして、1926年(大正15年)、表慶館にて「御物 若冲筆 動植綵絵三十幅特別展」が開催された。1889年に相国寺から明治天皇へ献上された《動植綵絵》は、皇室の私有品である「御物」となっており、30幅すべてを一堂に展示したこの展覧会は、史上初の「動植綵絵展」であり、当時大きな注目を集めた。

表慶館

ライトアップされた表慶館

複製の系譜——コロタイプから綴プロジェクトへ

 この「稀少さ」に抗ってきた歴史が、複製技術の系譜だ。2016年の若冲生誕300年を記念した承天閣美術館での若冲展では、30幅のコロタイプ印刷によるレプリカが展示された。コロタイプは連続階調を忠実に再現できる印刷技術で、文化財複製の世界では長く最高峰とされてきた。

 だが今回の「綴プロジェクト」はさらにその先を行く。キヤノンの12色顔料インクによるデジタル出力に、京都の職人が手作業で金泥・彩色・樹脂加工を施す、テクノロジーと伝統工芸のハイブリッドだ。鶏の「目」に施された樹脂の光沢、《老松孔雀図》の尾羽根に職人が手で補った金泥の輝きは、もはや「コピー」の域を完全に超えている。

《老松孔雀図》の尾羽根に職人が手で補った金泥の輝き

 そして最大の革命が「ガラスケースなし・露出展示」だ。本物では保存のために落とさざるを得ない照明を明るく保ち、若冲が描き込んだ「超絶的なディテール」に文字通り肉薄できる。

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