性格がAIに似てくる
2026年1月にはシンガポール国立大学が発表した「AIが示す人格特性は、会話を通じて人間の自己概念を形作りうる」という論文では、AIの人格から、人間が影響されていくという結果を示しています。これはGPT-4oと10分間話しただけで、「自分がこういう人間だ」という認識がAIの性格に寄っていくという結果を実験で示しました。
まず、素の状態のGPT-4oに「あなたはどういう性格ですか」という質問を100回繰り返し、AIで形成される人格傾向を20次元のベクトルで定義しました。キャラクターを作り込むのではなく、どういう性格パターンを持っているのかを測定しました。
その上で、92人の参加者を2グループに分け、片方は個人的な話題(人生の選択、感情、悩み)についてGPT-4oと会話します。もう片方は一般的な話題(ニュース、雑学)について会話します。その長さは、平均9分で、約21ターン。そして、会話の前後で、参加者の自己概念を同じ20次元の尺度で測定し、AIの人格との距離がどう変わったかを比較しました。
結果は明確で、個人的な話題をしたグループは、参加者の自己概念がAIの人格傾向に近いものに変化していたのです。一方で、一般的な話題のグループでは動きませんでした。つまり、人生や感情について話すとき、AIの人格が入り込んできます。
しかも、その会話内容の全1919ターンを分析したところ、AIが「あなたは外交的ですね」のように性格について言及したのはわずか13ターン。AIは参加者の性格を書き換えようとしていません。文体、語調、応答の仕方ににじみ出る人格傾向が、対話を通じて人間に自然に伝染しているのです。
さらに、AIとの会話によって参加者間の人格がお互いに似てくるという副次的な発見もされました。46名の参加者は、AIと話す前と話す後で、人格のばらつきが小さくなっていたのです。同じAIを大勢が使うと、人間の自己概念の多様性が薄まる可能性が示されました。研究チームはこれを「均質化(homogenization)」と呼んでいます。
青い線が、46名の参加者のAIとの会話前の人格のばらつきを示し、赤い線がAIとの会話後の人格のばらつきを示す。左側に寄るほどばらつきが小さいことを示す。距離が5.319から5.065に縮まっている(表の日本語化は筆者)
さらに重要なことは、人格にすでに変化が起きているにも関わらず、72%の参加者は、自分の性格傾向が変化していることに気づいていなかったのです。そして、その変化は苦痛としてではなく、「快さ」として体験されているのです。AIの人格を正確に把握できたと感じるほど「通じ合っている感じ(shared reality)」が高まり、会話の楽しさが増す。楽しいから話す、話すほど寄っていく、寄っていることに気づかないというサイクルが起きているのです。
これは人間同士でも起きていることで、同じ文化圏や、学校、職場、同じ友人グループにいると価値観や自己認識は寄っていくことはよく知られています。しかし、GPT-4oとの10分間の会話だけで引き起こされること、そして、GPTの人格特性が、何億人ものユーザーに同時に影響を与えうるのです。
もちろん、この研究は10分という短い間であり限界があります。長時間行った場合の結果が出ているわけではありません。ただ研究チームは「蓄積する可能性がかなりある」と述べています。知らず知らずの間に、AIと話している人は、そのAIの人格や性格に大きく影響を受けている可能性が高いのです。

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