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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第3回

【株式会社Stroly・高橋真知氏】「手描きなど様々な地図→視点の地図」が人を動かす。位置情報×ナラティブが書き換える、歩行の未来

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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歴史の多層化とシビックプライド:空間に「時間の厚み」を重ねる

玉置: 僕も「メタ観光」という文脈でずっと提唱しているのですが、Strolyが持つ「レイヤー(層)」の概念は、街の解像度を劇的に高めますよね。特に古地図。江戸時代の地図を見ながら今の街を歩くと、地元の人ですら気づかなかった土地の記憶が見えてきて、それがシビックプライド(街への誇り)に繋がる。こうした「空間に時間の厚みを重ねる」体験については、どう感じていらっしゃいますか?

高橋: 古地図はそれ自体が壮大なストーリー、最高のコンテンツですよね。ある時、水戸の偕楽園で梅のシーズンに歴史を紹介するスタンプラリーをやったのですが、イベントが終わっても「ずっと使い続けたい」と地元の方から要望があったんです。結局、期間を延長して高校生の学習教材としても使われました。

玉置: 資料館の壁にかかっていた「死んでいた絵」が、Strolyによって「動ける地図」として息を吹き返したわけだ。

高橋: そうなんです。ボーイスカウトの子たちが城郭の絵図を見ながら「ここで戦いがあったんだ」「ここが関所だったんだ」と追いかけたり。最近では、九州の鹿屋市で「戦争アーカイブマップ」も作りました。

玉置: 鹿屋。特攻隊の基地があった場所ですね。

高橋: はい。今はゴルフ場や田んぼになっている場所も、地図で見ると「実はここでサツマイモを作って飢えをしのいでいた」といった個別のエピソードが浮かび上がってきます。歴史をセピア色、今あるものをカラーで描き分けることで、没入感を高める工夫もしました。風化させてはいけない記憶を、今の場所と紐づけて紡いでいく。これは地図にしかできない役割です。

「鹿屋戦争アーカイブマップ」

現在から「未来」の街へ。スマートシティのインターフェース

玉置: 過去だけじゃなく、未来を見せることもできるんですよね。

高橋: そうなんです。実は今、ベトナムで開発中の街のマップを作っています。Googleマップで見るとまだ「整備中の更地」にしか見えませんが、Strolyならそこに建設予定のショッピングモールや、新しい街での過ごし方を「未来予想図」として描けるんです。

玉置: なるほど。更地の上に「2030年の日常」を投影しているようなものですね。

高橋: はい。スマートシティの文脈で、リアルタイムに動くバスのアニメーションを重ねたりして、街がどう進化するかを体感してもらう。現在だけでなく、過去から未来まで時間軸を自在に行き来できるのが、私たちが目指す新しい「街のOS」としての地図の形です。

「Bình Dương New City Map」

グローバル展開で見えた「地図」という世界共通のインターフェース

玉置: 今日最後の質問です。StrolyはSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でのピッチ選出や、ベトナムでのスマートシティ案件など、グローバルに展開されています。言語の壁がAIで低くなる中で、あえて「地図」というインターフェースを世界にぶつける意義をどう感じていますか?

高橋: 2019年に日本人として初めてSXSWのピッチコンテスト・ファイナリストに選ばれた際、審査員から言われたのが「Googleのような巨大企業のオーソライズ(公認)された地図に対し、個人の表現を解放する『地図の民主化(Democratization)』が素晴らしい」ということでした。日本にはアニメや漫画の文化があり、イラストで情報を伝える能力が非常に高い。これは言葉を介さない「ノンバーバル」な共通言語になるんです。

公式にもひけをとらない「勝手マップ」と、現場のリアリティ

玉置: SXSWでは、高橋さん自ら「勝手マップ」を作って運営側に持ち込んだとか。

高橋: そうなんです(笑)。公式アプリが使いづらくて、「これじゃ何もわからない!」と思って勝手に作ったんです。SXSWは1時間に何百ものイベントが同時並行で動く巨大な祭典です。Strolyなら、今自分がいる場所のすぐ近くで、15分後に始まるライブがどこかを直感的に示せる。バーベキューショップの2階でやってるライブも、地図ならスルーせずに見つけられる。

玉置: その「公式を超えてしまう利便性」こそが、地図の民主化ですね。昨年の大阪・関西万博でも、非公式マップが凄まじい完成度で、予約なしで入れるパビリオン情報などが人気でした。

地方創生のプロトタイピングとしての地図

玉置: 最近では、まだ観光地化されていない場所でも使われているとか。

高橋: 長崎の時津町などでは、地図を作るプロセスそのものを「観光地づくりのプロトタイピング」として活用されています。自分たちの街の魅力を再発見し、コースを考え、アニメーションをつける。地図というキャンバスがあることで、地方創生が動き出すんです。

玉置: 「何もない」と言っていた場所のポテンシャルが可視化される。まさにメタ観光の思想そのものですね。2030年、誰もが自分の視点で世界を書き換えられるようになったとき、Strolyは世界中でどんな景色を見せているのか。本当に楽しみです。

インタビューを終えて:高橋真知さんが描く2030年の「歩く」

玉置: 最後に。高橋さんが考える、2030年の「歩く」という行為の定義を教えてください。

高橋: 目的地に行くだけなら、もう自動運転やドローンでいい時代です。でも、人間が「自分の足で歩く」のは、その土地の記憶に触れ、自分の感情をそこに置いていくため。2030年、歩くことは「情報の多層歩行」になり、一つの場所を何百もの違う物語で楽しめるようになる。私たちはそのための自由なプラットフォームであり続けたいですね。

筆者(左)と高橋氏

【編集後記:玉置の眼】  

 「地図の民主化」という言葉が胸に刺さった。巨大なテック企業が作る「正解の道」ではなく、一人ひとりが描き出す「愛着の道」。高橋さんが進めるのは、テクノロジーによる感性の解放だ。万博の「勝手マップ」が示したように、これからの街づくりは、行政や公式が用意するものではなく、市民がStrolyという筆を手に、自ら描き込み、書き換えていくものになるだろう。

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