今年もアートフェア東京の季節がやってきます。春の丸の内は展覧会や新しい店の話題で気持ちが外へ向く時期ですが、その背中をもう一段押してくれるのがアートフェア東京です。ふだんは点在するギャラリーで出会う作品や視点を、東京の中心で束ね直し、一気に見渡せる場。絵画や彫刻、写真、工芸まで、時代も表現も異なるものが同じフロアに並びますが、そこで起きるのは単なる「展示の集合」ではありません。
ブースを曲がるたびに視点が切り替わり、気になった一点から作家や背景へと自然に遡れます。出会いの密度が高く、作品と出会い直す速度も速い。だからこそ、初めての人でも、見慣れた人でも、自分の感覚が動く瞬間に出会えます。
東京国際フォーラムという開けた空間で、選ぶ目と見る目が同時に磨かれていく。アートフェア東京は、アートの現在形をいちばん手触りよく確かめられるイベントです。会場を歩く時間そのものが、ひとつの「学び」と「発見」になっていきます。
第20回となる今回の「ART FAIR TOKYO 20」。ひとつのフェアが20回という時間を重ねてきたこと自体が、まず何よりの見どころです。マーケットや表現の潮流が変わり続けるなかで、同じ都市で同じ場を更新し続けるのは簡単ではありません。その積み重ねの上に立つ節目の回として、2026年3月13日(金)〜15日(日)に東京国際フォーラム(ホールE/ロビーギャラリー)で開催されます。
国内外141軒のギャラリーが集い、現代美術から近代美術、古美術、工芸、海外ギャラリー、さらに研究機関まで、多様な枠組みが同じ会場に並びます。ジャンルの違いが「壁」ではなく「入口」になるのが、フェアの良さです。ひとつの作品が別の領域へ視線を導き、気づけば普段は追いかけない作家やメディアにまで手が伸びます。
伊藤慶二《場 Place》1995、ceramic、h.10.0 x w.61.5 x d.37.0 cm、Photo by katsuhiko kodera
©Keiji Ito, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
Ryan Gander・Chronos Kairos, 03.02・H 27.0 x W 78.0 x D 15.0 cm・2025・Aluminium, acrylic, LEDs・TARO NASU
©Ryan Gander, Courtesy of the artist, Pola Museum of Art, Hakone, and TARO NASU, Photo by Shu Nakagawa
緑釉線文四足花器、Wilhelm Kåge(ヴィルヘルム・コーゲ) Sweden Gustavsberg(グスタフスベリ製陶所)、21.8×18.5cm、1955年 、炻器、出展ギャラリー:ギャラリー北欧器
《センチメンタルマグリット (Fantasy in 1908)》 内間俊子 1985 年 コラージュ イメージサイズ:58.0x38.0cm シートサイズ:73.0×51.0cm フレームサイズ:76.7×54.0cm サインあり、年記あり ときの忘れもの
©Watanuki Ltd. | TOKI-NO- WASUREMONO
丸の内のど真ん中、有楽町駅からすぐという立地も効いていて、銀座・日比谷と合わせた街歩きの動線に自然に組み込めます。仕事帰りの短い時間でも、休日の回遊でも、入り口がつくりやすいのも魅力です。
会場の軸として存在感を放つのが、シグネチャー・アーティスト宮島達男です。メインビジュアルに「Counter Skin in Hiroshima-3 gold」(2007年)が起用され、20回目の顔としてフェア全体のトーンを定めています。作品を見比べ、価値の基準を手元で確かめる場所に、作家の時間観や世界観が差し込まれることで、会場の歩き方そのものが少し変わってきます。ふと立ち止まる時間が増えたり、同じ作品を角度を変えて見直したくなったり、作品の前で考える密度が上がっていく。その「変化」を自分の身体で確かめられるのが、フェアの面白さです。
宮島達男「Counter Skin in Hiroshima-3 gold」(2007年)を採用したメインビジュアル
© Tatsuo Miyajima. Courtesy of Akio Nagasawa Gallery.
さらに今回は、会期に合わせて映像プログラム「FILMS」も展開されます。プログラムディレクターにnon-syntaxを迎え、東京ミッドタウン日比谷を会場に、映像表現を「見る」「学ぶ」「買う」という層で捉え直す試みです。フェアで作品を見比べる感覚を、映像という時間のメディアへつなげられるのも今の東京らしい楽しみ方です。作品の「時間」をどう受け取るか、鑑賞の姿勢を少し組み替えてくれるはずで、国際フォーラムから日比谷へと足を延ばすルートも自然に組めます。丸の内圏の回遊に、もうひとつの目的地が加わる感覚です。
作品と出会うだけでなく、街歩きのリズムまで少し変わるのがアートフェア東京の面白さです。気になった一点をきっかけに視界が開け、次のブースへ自然に足が向く。その連続の中で、自分の「好き」の輪郭がくっきりしてきます。
丸の内からふらっと立ち寄って、まずは一周してみてください。最初は広く眺め、気になった場所に戻るだけでも手応えがあります。きっと帰り道に、もう一度見たい作品の名前が残ります。次にギャラリーや美術館を訪れるとき、その名前が新しい地図になってくれるのも、アートフェア東京ならではの余韻です。
ART FAIR TOKYO 20
会期:2025年3月13日(金) ~3月15日(日)
3月13日~14日 11:00~19:00 ( 最終入場~18:30)
3月15日 11:00~17:00 ( 最終入場~16:30)
会場:東京国際フォーラム 展示ホールE/ロビーギャラリー
URL:https://artfairtokyo.com/
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