最新ユーザー事例探求 第64回
「Azure OpenAI Service」を活用した高速かつ低コストな顧客分析
1000人アンケートはわずか45分間 日本ハム、AI生成の“仮想顧客”分析で商品開発を加速
2025年09月24日 08時00分更新
食品メーカーの日本ハムは、生成AIを活用して、生活者約3万人の「擬似人格」に対するアンケート調査を行える「GC (Generated-Customer=生成された仮想顧客) 分析」システムを開発した。
この仕組みにより、1000人の生活者に対するアンケート調査はわずか45分で完了。大手コンビニチェーンなどに向けたプライベートブランド商品の新規提案などに活用されている。GC分析による商品のリニューアルで数倍の売上を達成するなど、成果も生まれているという。
GC分析の開発の経緯や詳細、今後の展開について話を聞いた。
CG分析の仕組み(導入事例サイトより)
“擬似人格”を生成し、顧客分析にかかる時間・量・コストの課題を解決
日本ハムは、ハムやソーセージなどの調理加工品を中心とした事業を展開する食品メーカーだ。自社ブランド商品に加え、大手コンビニチェーンなどに向けたプライベートブランド商品でも豊富な実績を持つ。
こうした商品の企画提案において、多くの企業に採用されているのが「N1分析」だ。実際の顧客へインタビューなどを行い、生活者の意識をより深く知る分析手法だが、多くの時間とコストがかかる。日本ハムでも従来はこの手法を採用し、ニーズや課題を抽出して、商品コンセプトやコミュニケーションアイデアに反映していた。しかし、提案書としてまとまるまでに1~2か月間を要していたという。
日本ハムのIT戦略部 DX推進グループマネージャーの藤本芳人氏は、「製品サイクルが短縮化したり、消費者ニーズの変化や多様化したりする中、従来の調査や仮説構築手法は、期間面でも、コスト面でも、精度面でも課題があった。N1分析も外部に委託していたが、時間がかかり、精度を高めようとするほどコストがかさんでいく。PDCAを速く回せる仕組みに移行する必要があった」と振り返る。
こうした課題を解決する手段として、同社が着目したのが生成AIだ。AIによって「生活者の擬似的なペルソナ」を生成することで、顧客分析の短期化と低コスト化を図った。
1000人へのアンケート調査はわずか45分間、1回あたり100円で
疑似人格のベースとなる生活者データは、同社が保有していた約2万人(現在では約3万人まで拡張)のプロファイリングデータを使用した。生活者のデモグラフィックのほか、生活傾向、購買傾向など、70~80項目のデータが含まれている。
このプロファイリングデータの中から、特定セグメントに応じた生活者をピックアップし、そのプロファイリングデータとアンケート内容を1人分ずつ生成AIに投げ、そこから生成された回答がレポートとしてまとまる仕組みだ。
システム構築で重視したのが、人に対するアンケート調査を高い精度で再現するための多様性の担保だ。そのために、回答候補の対象を決める「Top P」や、確率分布を調整する「Temperature」のパラメーターを調整して、多様な回答を得られるよう工夫を凝らした。
疑似人格への質問は、入力フォームで自由記述できるほか、選択方式も用意している。調査が完了すると、アンケート結果ファイルが作成され、その結果を解析するツールも提供。回答結果データはExcel形式でも出力でき、少数パターンを網羅的に抽出することも可能だ。例えばメニュー案の場合には、味付けや具材の選定、回答した背景や理由を拾い上げることができる。
「『○○について生活者のインサイトを探りたい』、『当社ならではの製造方法を使った鶏かば焼きの新たなメニュー案を教えてほしい』といった質問を投げれば、翌日には分析結果を提示し、場合によっては商談中に結果を得ることも可能だ。面倒な設問でも、回答者が途中で離脱することがない。素直で、かつ厳しめの回答が得られる点でも効果がある」(藤本氏)
顧客からも「客観的かつ説得性が高い結果が出ている」と評価されており、商談成約率も向上しているという。
こうして開発したGC分析は、1000人分のアンケート調査に要する時間はわずか45分で、提案時の生活者調査と仮説構築に至る時間を大幅に短縮できる。コスト面でも、1回あたり100円強ときわめて安価だ。
藤本氏は、「単純なペルソナ分析では、自社や競合他社が、すでに取り組んでいるような答えしか得られず、新たな取り組みに挑戦したい、新たなニーズを開拓したいという切り口では利用できない。GC分析では、“1000件の商品メニュー案も10分間で、100円程度のコスト”で抽出できる。今後は、提出された案を絞り込むためのアルゴリズムの開発に取り組んでいく」と強調する。

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