大手町に残る昭和の高度成長時代のモダニズム庁舎「旧気象庁庁舎」
東京消防庁本部庁舎の北側、気象庁前交差点の北東に位置する「旧気象庁庁舎」は、気象庁が現在の虎ノ門へ移転するまで使用されていた建物です。この旧気象庁庁舎は、地上8階、地下2階、塔屋3階で、建物の高さは31m(塔屋を含めた最高部は53m)、延床面積は30,600㎡の中層庁舎です。建築主および設計は建設省関東地方建設局、施工は銭高組により行われ、1964年3月に竣工、1982年5月には増改築が施されました。
外観は、高度経済成長期の庁舎建築を象徴する鉄筋コンクリート造の横長の構造で、1~2階を白色、3階以上をダークグレー系の色調とし、水平方向に連続する窓が層を形成する均整の取れたファサードが特徴的でした。屋上には無線塔、測風塔、気象レーダーや各種アンテナが設置され、気象観測機能を担っていた様子がうかがえます。しかし、2020年11月に気象庁が虎ノ門の新庁舎へ移転した後、この建物は閉鎖され、使用されないまま長期間放置されてきました。その結果、塗装は剥がれ、建物は廃墟のような状態となっています。
現在、この旧庁舎の敷地は、東京消防庁の新たな本部庁舎の移転候補地として計画が進められています。2025年6月下旬には、旧気象庁庁舎の本館1階より上部を対象とした解体工事の一般競争入札が公告されており、工期は2028年1月31日までとされています。これにより、近く解体工事が本格的に始まるとみられています。
高度経済成長期に建設された高層オフィスビル「大手町合同庁舎3号館」
旧気象庁庁舎の東側には、国の地方合同庁舎として機能する「大手町合同庁舎3号館」が建っています。この庁舎は、地上15階、地下3階、塔屋2階で、高さは65.96m、延床面積は53,353㎡に及びます。建設主および設計は建設省関東地方建設局、施工は清水建設が担当しました。
大手町合同庁舎3号館は、官庁街としての歴史的背景を持つ大手町エリアのうち、かつて陸軍軍馬局があった国有地に建設されました。かつてこの地には1号館から3号館までの合同庁舎が存在しており、1962年に1号館、1966年に2号館、1971年9月に3号館が竣工しています。現在は3号館のみが現存しており、当時の面影を伝える貴重な建物となっています。
外観デザインは、1~2階部分が柱と梁を外に露出させたアウトフレーム構造となっており、3階以上には茶系のカーテンウォールが取り付けられています。窓は横方向に連続して配置され、マリオンによって区切られたその外観は、霞が関ビルなど初期の超高層ビルに通じる、シンプルかつ機能的なデザインが特徴です。
南側に存在していた1号館・2号館は、老朽化や業務移転の流れにより、2000年に解体されました。これらの庁舎に入居していた機関の多くは、同年に完成した「さいたま新都心合同庁舎」へと移転。その跡地には都市再生機構の主導により、「経団連会館」「JAビル」「日本経済新聞社東京本社ビル」という3棟の超高層ビルが新たに建設されました。
一方、現存する3号館については、近年まで活用が限定的で、内閣府の官民人材交流センターや再就職等監視委員会の事務局が9階に入居しているのみで、多くのフロアが空室となっていました。しかし、2021年5月から2022年7月31日までの間には、計3回にわたり、自衛隊による新型コロナウイルス感染症のワクチン接種会場「自衛隊東京大規模接種センター」として活用され、国の重要な感染症対策拠点として大きな役割を果たしました。
以上で今回の建築ツアーは終了。「東京消防庁 本部庁舎」「旧気象庁庁舎」「大手町合同庁舎第3号館」の3棟が位置する区域は、都市再生機構が推進する「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」のC工区にあたります。現在、このエリアでは東京消防庁の新たな本部庁舎を、旧気象庁庁舎の跡地に建て替え・移転する計画が進行中であり、2032年度には地上22階・地下3階、鉄塔を含む高さ約185メートルの超高層ビルが完成する予定です。この区域は東京駅からやや離れており、これまで目立たない地味な場所とされてきましたが、今後は再開発が進み、都市景観や機能面においても大きく刷新されていく見通しです。
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