このページの本文へ

チェック・ポイントが語る「サイバー攻防の最前線」

“AIネイティブ世代”の新たなサイバー攻撃者たち 防御側はどう立ち向かうべきか

2025年07月29日 10時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

攻撃ツールが迅速に機能強化される“AIネイティブ攻撃者”の時代

 実際に、AIを積極的に活用し始めた攻撃者もいる。

 2024年11月に登場し、1か月後には85社超への恐喝をデータリークサイトで公表したRaaSグループの「FunkSec」は、RaaSを数日間隔でアップデートし、次々と新機能を追加する圧倒的な開発スピードで注目を集めている。しかも、その開発能力も高い。Check PointのThreat Intelligence&Researchディレクターを務めるロテム・フィンケルシュタイン氏は、「彼らの書くコードは“教科書のように完璧”だ」と驚きを隠さない。

Threat Intelligence&Researchディレクターのロテム・フィンケルシュタイン(Lotem Finkelstein)氏

 そんな「完璧な攻撃コード」を書いているのは、いったい何者なのか。そこに興味を持ったフィンケルシュタイン氏は、RaaSグループがメンバー募集を行うフォーラムなどを巡回した。しばらく調査を進めた結果、幸運にもFunkSecのリーダーと遭遇し、チャットで会話をすることができた。

 しかし、そのリーダーは「自分はコードを書くコーダーではなく、生成AIの書いたコードを編纂するデベロッパーだ」と言ってのける、若いアルジェリア人だった。つまり「完璧な攻撃コード」を書いていたのは、AIだったわけだ。

 フィンケルシュタイン氏は、こうした新しいタイプの攻撃者たちは「新しい技術の可能性を前向きに検証し、限界を見極め、うまく業務に取り込んで活用している」と、感心させられたという。「それと同時に、果たして防御側でも同じことができているのだろうか、と深く考えさせられた」(同氏)。

同氏がFunkSecのリーダーとチャットした内容。「実際、わたしはコーダーではなく、デベロッパーだ」と発言している

AIが(今はまだ)乗り越えられない“コンテキストの壁”

 もっとも、生成AIだけではカバーしきれない部分もまだある。そのひとつが、言語的/文化的なコンテキスト(文脈)だ。

 東欧のモルドバ共和国では、2024年1月20日の大統領選挙およびEU加盟に関する国民投票に先駆けて、大量の偽情報メールが飛び交った。EU加盟に賛同すれば、ガソリン価格は高騰し、移民受け入れ政策は強化され、LGBT支援の旗の掲揚が義務付けられる――といったデマが、メールの主な内容だ。

 この攻撃を仕掛けたのは、“Lying Pigeon(嘘つき鳩)”と呼ばれる攻撃者グループだ。身元は定かではないが、メールに添付されたPDFファイルのメタデータから「アプリがロシア語設定であること」、「UTC+3時間のタイムゾーン(モルドバ、ロシア、ベラルーシなどが該当)から送信されていること」が分かった。そして、何よりも「ロシア語から他言語に翻訳したような言い回し、誤訳が見られること」という特徴が見られることから、Check Pointでは攻撃者をロシア語圏の人物と推測している。

 たとえば、この偽情報キャンペーンは「Operation Middle Floor」と名付けられているが、これはメール本文にあった「toilets for the middle floor」という、意味が通らない英文が元ネタである。この言葉を検証すると、「中間の性のためのトイレ(ジェンダーニュートラルトイレ、どんな性別の人でも使えるトイレのこと)」を意味するロシア語「туалеты для сpeднеrо пoлa」をAIが英訳する際に、「中間の床(フロア)のトイレ」と誤訳されてしまったらしいことが分かった(なお、ロシア語で性は「пoлa」、床・フロアは「пол」)。

 この例は単純な誤訳だが、各国の言語的/文化的なコンテキストがからむ表現は、AIによる機械的な翻訳では失敗することが多い。AIがさらに進化することで、やがてはこうした“コンテキストの壁”も乗り越える可能性はあるが、“壁”が完全になくなることはないだろう。

偽情報メール。「EUは基本的な価値観としてジェンダー平等を掲げており、『中間のフロアのトイレ』導入の義務づけなど……」と誤訳している

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

アクセスランキング

  1. 1位

    TECH

    訓練だとわかっていても「緊張で脇汗をかいた」 LINEヤフー、初のランサムウェア訓練からの学び

  2. 2位

    ITトピック

    若手が言わない“本音の退職理由”上位は/「データ停止は景気後退よりも企業の脅威」6割/クライアントに告げずAI活用するフリーランス、ほか

  3. 3位

    ビジネス・開発

    最悪のシナリオは「フィジカルAI」による基幹産業の衰退 日本の勝ち筋は、“同期技術”と“ドメイン知識”

  4. 4位

    Team Leaders

    ファイル名が命名規則に合っているかの自動チェック、Power Automateのフローで実現しよう

  5. 5位

    TECH

    糖尿病超早期を採血なしで検出、予防へ! 代謝や臓器のつながりに着目した予防法開発

  6. 6位

    データセンター

    液冷技術の最先端が集うイノベーションラボ「DRIL」、印西のデータセンターに現わる

  7. 7位

    ビジネス

    廃校がAIの心臓部に!? 地方の遊休施設を「AIデータセンター」に生まれ変わらせるハイレゾの挑戦がアツいぞ

  8. 8位

    TECH

    “GPUなし”ノートPCで動くLLMで、ローカルAIエージェントを自作する

  9. 9位

    Team Leaders

    バックオフィス業務もAIに“丸投げ” マネーフォワードが「Cowork」機能を2026年7月に投入へ

  10. 10位

    TECH

    合成ゴムが及ばない天然ゴムの高性能のメカニズムを、現象発見から100年後に解明

集計期間:
2026年04月09日~2026年04月15日
  • 角川アスキー総合研究所