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消えた13億ドル クリーンセメント革命、米助成金打ち切りで暗雲

2025年06月09日 06時27分更新

文● Casey Crownhart

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Getty Images

画像クレジット:Getty Images

米エネルギー省が5月30日、総額37億ドルの助成金取り消しを発表した。セメント関連だけで約13億ドルが削減対象となり、脱炭素化の先端を走る企業が軒並み打撃を受けた。

クリーンセメント業界は、本格的に動き出す前に、すでに終わりを迎えつつあるのかもしれない。

米エネルギー省は5月30日、エネルギーおよび産業関連の24件のプロジェクトに対する37億ドルの資金提供を取り消すと発表した。これには、セメント関連のプロジェクトに対する約13億ドルが含まれている。

セメントは地球規模の気候問題であり、世界の温室効果ガス排出量の約7%を占めている。さらに、巨大な既存企業が存在し、高額な設備やインフラの入れ替えが必要であるため、クリーン化が困難な業界である。米エネルギー省の資金提供は、商業化目前のプロジェクトを支援することで、こうした課題に対応することを目的としていた。だが今、企業はそのキャンセルによって生じた大きな空白を自力で埋めなければならなくなった。

削減対象のトップに挙げられているのは、サブライム・システムズ(Sublime Systems)である。MITテクノロジーレビューを普段読んでいる読者であれば、おそらくこの社名に見覚えがあるだろう。私は昨年、同社に関する詳細記事を書いているし、MITテクノロジーレビューは2023年2024年の2年連連続で「気候テック企業15」にこの企業を選出している。

サブライム・システムズは、電気を使ってセメントを製造するというアプローチを採用している。従来のセメント製造プロセスでは、化石燃料を燃焼させることで得られる高温が必要となる。それを回避することで多くの排出を防ぐことが可能になる。

2024年、サブライムは、マサチューセッツ州ホールヨークに商用実証プラントを建設するため、米エネルギー省から8700万ドルの助成金を受けた。2026年に稼働開始し、年間最大3万トンのセメントを生産する施設である。この建設費のおよそ半分を賄うのがエネルギー省の助成金だった。

「この展開には確かに驚き、失望しています」。サブライムの事業開発・政策担当上級副社長であるジョー・ヒッケンはこう話す。ヒッケン上級副社長は、最近発表したマイクロソフトとの契約を引き合いに出し、同社の技術に対する顧客の関心の高さに言及した。マイクロソフトはサブライムから最大62万2500トンのセメントを購入する計画である。

もう1つの有力企業であるブリムストーン(Brimstone)も、助成金打ち切りの影響を受けた。年間10万トン以上のセメント生産が見込まれる商用実証プラントに対する、総額1億8900万ドルに上る助成金である。

ブリムストーンの広報担当者は声明の中で、今回の中止は「誤解」に基づくものだと主張した。声明では、計画中の施設はセメントだけでなくアルミナ(酸化アルミニウム。アルミニウムの製造に使われる)も製造する予定で、米国内におけるアルミニウム生産を支援するものだと説明されている(アルミニウムは米国地質調査所によって「重要鉱物」に分類されており、米国経済と国家安全保障にとって極めて重要であるとされている)。

ハイデルベルグ・マテリアルズ(Heidelberg Materials)がインディアナ州で計画していた施設に対する最大5億ドルの助成金も打ち切られた。同社の構想では、工場の排出を削減するために二酸化炭素の回収・貯留(CCS)を導入する計画で、米国で同技術を初めて実証するセメント工場となるはずだった。同社の代表者は書面で、今回の決定に対する異議申し立てを検討中であると述べた。

さらに、ナショナル・セメント(National Cement)が進めていた「レベック・ネットゼロ・プロジェクト(Lebec Net-Zero Project)」に対する5億ドルの資金提供も取り消された。この施設では、汚染の原因となる原料の削減、バイオマスなどの代替燃料の活用、そして工場からの残留排出物の回収といった複数の戦略を組み合わせて、炭素中立のセメントの製造を目指していた。

「このプロジェクトは、重要な産業分野における国内製造能力の拡大に寄与すると同時に、米国セメント業界の競争力維持のために新技術を統合するものです」と、同社の広報責任者は書面で強調して述べている。

各社からの回答に共通していたのは、これらの助成金はもともと温室効果ガスの排出削減を目的として設計されたにもかかわらず、企業側は自社の事業が新政権の優先事項にも合致していると主張している点である。いずれも、「重要鉱物」「米国人の雇用」「国内サプライチェーン」といった表現を強調して使っている。

「トランプ政権からは、米国国内で製造可能なものについては輸入品から置き換えたいという意向を明確に聞いています」とサブライムのヒッケン上級副社長は述べた。「結局のところ、我々が提供するものこそが、ワシントンD.C.の政策立案者たちが求めているものなのです」。

だが、この政権は気候変動対策を支持しない姿勢を明確に示している。エネルギーの安定供給や米国の競争力強化という掲げられた目標に資する取り組みであっても、それは変わらない。

本誌のジェームズ・テンプル編集者は、国立科学財団(NSF)からの数千万ドル規模の助成金を含む気候研究に対する予算カットについて新しい記事を執筆した(日本版記事は翻訳中)。ハーバード大学の研究者は特に大きな打撃を受けている。

米国が国際的な舞台における地位向上を目指している一方で、こうした予算削減は、研究者や企業が気候を理解し、新技術を開発・導入するという重要な取り組みを困難にしている。

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