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遠藤諭のプログラミング+日記 第179回

世界のパソコン100台の写真集

愛すべきマシンたち:ホームコンピューターの美学

2025年03月17日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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カードゲーム「CPU War」を作った英国の博物館

 日本ではWOWOWで放送されたドラマ『ハイっ、こちらIT課!』(原題"The IT Crowd")は、企業の情報システムサポート部門を舞台にした英国製シチュエーションコメディである。2006年から2013年にかけて英国のチャンネル4で放送されたものだが、この「IT課」というのが、他部署からの相談電話には、次の2つの返答しかしない。

 「電源を入れ直してみましたか?」

 「コンセントはちゃんと差し込まれていますか?」

 さらに、電話が鳴ってもなかなか出ないこともあり、オープンリールのテープレコーダーを使って「電源を入れ直しましたか?」と自動応答する装置まで作って使っている。そんな変わり者の2人のエンジニアのもとに、新しく美人マネージャーが配属されてくるというお話。

 この『ハイっ、こちらIT課!』を見ていて気になるのが、彼らの部屋に飾られた古いコンピューターやポスターたちである。日本では初期マイコンの“御三家”とも言われた1つのコモドールPET 2001といったハードウェア、ポスター、「RTFM 最高指示」(日本でいうググれカスの一種で“Read the fine manual”)のTシャツなども楽しい。

 この番組に、こうした古いコンピューターなどの小道具を提供していたのが、英国ケンブリッジにある「Centre for Computing History」(コンピューター歴史センター)だそうだ。このセンターどうも聞き覚えがあると思ったら、以前、「CPU War」というカードゲームを買って取り寄せたところである。「CPU War」は、出したカードのCPUのどちらが古いかを言い当てるというルール。ASCII.JPの連載をまとめた大原雄介さんの『忘れ去られたCPU黒歴史』を彷彿とさせるゲームである。

これが歴史的なCPUを使ったゲーム「CPU War」。同博物館ではコンピューターやビデオゲーム機のカードも販売している。その展示やオリジナル商品から判断して、なかなか好感の持てるセンスと見識のある人たちが運営しているのだろう。

 前置きが少し長くなってしまったが、このコンピューター歴史センターに収蔵された家庭用のパソコン100機種を1つ1つ解説した本が発売された。

米国・英国はもちろん日本やヨーロッパのコンピューターも登場する

 『ホームコンピューター デジタル時代を決定づけた100の名機』(アレックス・ウィルトシャー著、伊賀由宇介、グラフィック社=原著“Home Computers: 100 Icons that Defined a Digital Generation” by Alex Wiltshire and John Short)は、タイトルのとおり、1961年から1998年までの家庭用コンピューターの歴史を彩った100機種を紹介した本である。

 「マニアが自室にこもって組み立てるDIYキットから、インターネットに接続された生活必需品へ。15年の時の中で、家庭用コンピューターは大きな発展を見せた。コンピューター業界は爆発的に拡大し、日々の生活もすっかり変わってしまった。新型コンピューターと企業が無数に生まれては消えていった」とある。

 15年というのは、最初期のマイコンが登場した1970年代中盤から1980年代までのホームコンピューターの黄金期をさしているのだろう。たしかに、1990年頃になると世界のコンピューターはPCアーキテクチャーとMacintoshが中心となり、ホームコンピューターと銘打って売り出されるものはほとんどなくなっていった。私は、1996年にパナソニックが発売した「WOODY PD」くらいしか思い浮かばない。

 それでは、この本ではどんなコンピューターたちが取り上げられているのか? それを、目次からそのままリストにすると次のようになる。

SDC Minivac 601
MITS Altair 8800b
Radio Shack TRS-80 Model III
COMMODORE PET 2001
Apple lle
Rockwell AIM-65
Intertec Superbrain
Exidy Sorcerer
Atari 400
Science of Cambridge MK 14
Research Machines 380Z
Acorn System 1
Sinclair ZX80
Acorn Atom
Radio Shack TRS-80 Color Computer 2
Commodore VIC-20
Hewlett-Packard HP-85
Apple III
Sharp MZ-80K
Osborne 1
IBM 5150
Texas Instruments TI-99/4A
Sinclair ZX81
Acorn BBC Microcomputer Model A
EACA Genie II EG 3008
commodore 64
Sinclair ZX Spectrum
Jupiter Cantab ACE
Dragon 32
Oric-1
Research Machines Link 480Z
Sord M23 Mark III
Sharp MZ-700
Sord M5
C/WP Cortex
Camputers Lynx 96
DEC Rainbow
Apricot PC
Micro Networks Samurai S16
Olympia People
Compaq Portable
Timex Sinclair 1500
Mattel Aquarius
Atari 600XL
Spectravideo SVI-328 MK II
Toshiba HX-10
Canon V-20
Matra Alice
VTech Laser 200
Acorn Electron
Memotech MTX512
Philips P2000C
Apple Lisa 2
Apple Macintosh
Sinclair QL
Oric Atmos
Amstrad CPC 464
Tatung Einstein TC-01
ICL Merlin Tonto
Commodore 116
Commodore SX-64
Commodore Plus/4
Microdigital TK90X
Sinclair Spectrum 128K
Amstrad CPC 6128
Enterprise One Two Eight
Atari 65XE
Commodore 128
Atari 520 ST FM
Commodore Amiga 500
Matra Alice 90
Thomson MO6
Casio MX-10 Type B
Apple IIGS
Tandy 1000 EX
Amstrad PC1512 DD
Tatung Einstein 256
Acorn BBC Master 128
Acorn Archimedes A440
Cambridge Z88
Amstrad PPC 512
Sinclair PC 200
NEXT Computer
Goupil Golf 286
Olivetti Prodest PC1
Robotron KC 87
Orel BK-08
Didaktik M
MGT SAM Coupé
Amstrad 464plus
Atari Portfolio
Atari STacy2
Apple Macintosh Portable
Atari TT030
Commodore Amiga A-500 Plus
Acorn A3010
Dell 316SX
Acorn RiscPC 600
Apple iMac G3

 このリストを眺めただけで十分楽しめたという強者もいるかもしれないが、はじめて名前を見るメーカーやコンピューターもたくさんあるではないか。有名メーカーの製品、歴史に名を残している製品なら、私ももちろん知っている。米国のIBMやアップル・コンピューター、アタリ、コモドール、英国もシンクレア・リサーチあたりの製品は、これを読まれているみなさんもよくご存じだろう。

 しかし、この本では、米国、英国だけでなく、日本やフランス、イタリア、オランダ、さらには、チェコスロバキアやウクライナなどの東ヨーロッパ、アジアでは香港や韓国、ブラジルのコンピューターまで取り上げられているのだ。しかも、英国の比重が高いとはいえ、どのコンピューターについても事細かに、愛情のこもった写真とともに紹介されている。

サイエンティフィック・ディベロップメント・コーポレーション:Minivac 601

 いちばんはじめに出てくるのは、情報理論の父であるクロード・シャノン (Claude Shannon)が、1961年に作ったコンピューターキットである。「SDC Minivac 601」という製品で、いわゆるマイコンの誕生は1970年代の中頃だから、それよりも10年以上前に発売されたものだそうだ。

1940~1960年代には“AC”と最後につく名前のコンピューターが多かった。最初の実用的なデジタルコンピューターとして知られるENIACしかり、商用コンピューターの代名詞であるUNIVACしかり、小さいながら(というよりも名前がまさにMiniなのだが)“AC”とついているMinivacはいたいけである。

 Minivac 601は、電気機械式のリレーなどで動作しするしくみで、コンピューターがどのように動作するのかを説明するためにアセンブラ言語や2進法を紹介する目的で作られた。ところが、これで三並べなどのゲームができたこともありホビィストたちに見つかってしまった。どこかの国でも聞いたようなエピソードである(チップの開発者トレーニング向けのNEC TK-80にマニアが飛びついた)。

 日本でも、Minivac 601のようにコンピューターの動作原理を説明する機械は売られていたが、1961年に存在したかは定かではない。もっとも、個人でコンピューターを作るという発想はあって、『bit』誌1970年4月号には、福西悰竝氏による「ミニ・コンをつくって遊ぼう」という記事が掲載されている。この記事で解説されているNIHICOM 1号も電気機械式で、NIM(三つ山崩し)などのゲームを楽しむことができた。

シャープ:MZ-80K

MZ-80K

 日本製のパソコンが多数掲載されているが、初期のマシンとして、シャープのMZ-80Kが取り上げられている。このコンピューターは1978年に発売された、NECのPC-8001、日立のベーシックマスターと同時期の製品だ。ROMを搭載せずテープから読み込む仕様や、写真では、特徴的なアルゴ船のマークも強調されて紹介されている。

ソード:M5

M5

 日本の黎明期のパソコン市場で大きな存在だったソードが、1982年に世界市場に投入したホームコンピューターM5も取り上げられている。同社が1985年に東芝に売却されることになった日本のパソコンの歴史で忘れてはならない事件についても、創業者である椎名堯慶氏の言葉まで引用しながら触れている。ソードは、ほかにM23 Mark IIIも掲載されている。

東芝:HX-10

HX-10

 日本のホームコンピューターの共通規格であるMSXも、カシオ「MX-10 TYPE B」、キヤノン「V-20」、東芝「HX-10」と掲載されている。代表機種といえるソニーの「HiTBiT」やパナソニック「FS-A1GT」は出てこないが、代わりにというのではないが、MSX誕生に深く関係するスペクトラビデオの「SVI-328 MK II」は登場する。その経緯についても、異例の詳しさで語られていて驚かされる。

マイクロ・ネットワークス:SAMURAI S16

SAMURAI S16

 この「サムライ」という名前を付けられたコンピューターを知る人は少ないだろう。1983年に英国で発売時、「SAMURAI」という名前をめぐってライバル企業とその使用権を争った。実は、日本製で国際電気株式会社の「KDS 7861」の名称を変更したものだそうな。それで「SAMURAI」なのか? KDS 7861というコンピューターもあまり知られてはいないが。そういえば、1990年に、ロンドンのトッテナムコートロードにある電脳街からほど近いところに「Bonsai Computer」という看板があったのを思い出した。

シンクレア:ZX-80

ZX-80

 英国のマシンは、さすがにコンピューター歴史センターのお膝元ということでさらにたくさん登場する。BBC Micro、ACORN、Amstrad、Apricot、Sinclair(シンクレア)といった有名メーカーはもちろんだが、Memotech、ORICなど、私の知らないメーカーも少なくない。シンクレアは7機種も出てくる(Timex Sinclairも含めてだが)。私のカレー友達のサトーくんは輸入されたZX-81のお世話になったそうだが、まず登場するのが1980年発売のこのZX-80だ。

Sinclair Scientific

 ZX-80のデザインを見て連想せずにはいられないのが、シンクレアからその少し前に発売されていた「Sinclair Scientific」という関数電卓である。写真は、私の私物だが米国HPで有名なRPN方式(1+2=ではなく、1 2 +で答えが出る方式)で、世界的にも最も美しい関数電卓の1つだと思う。ひょっとしたら同じデザイナーなのかもしれない(未確認ではあるが)。

ケンブリッジ・コンピューター:CAMBRIDGE Z88

Z88

 ZX80、ZX81、ZX Spectrumとった名機を世に送りだし、後にA-Bikeという超小型の自転車でも知られることになるクライブ・シンクレア氏だが、コンピューター部門をAmstrad社に売却したあとに作ったのが、このCAMBRIDGE Z88だった。わずか900グラムで単三乾電池4本で4時間駆動。ほぼ、同じ頃にセイコーエプソンが発売した「Word Bank note 2」によく似たコンセプトの製品といえる。

 英国のコンピューターメーカーで売却といえば、1990年の富士通によるILCの買収が有名だが、1990年代なかばには三菱電機がパソコンメーカーのApricotを買収している。当時、私のやっていた月刊アスキーでタイアップ関連企画をやったのだが、Apricot社のトップと坂本龍一氏、ホストとして私も参加した鼎談が、1997年4月号に掲載されている。

アムストラッド:PPC 512

PPC 512

 1988年の当時、私が本気で輸入して使おうかと考えたマシンである。クラムシェル型のノートPCが次々に登場した時期だが、キーボードをあけると中から小さな液晶画面がひょっこり出てくるビックリ箱的なしかけに惹かれたのだ。結果的に、私は、富士通が買収して話題となった米Poqet PCやNECのUltra Liteを米国から取り寄せた。正直、いまでも欲しいマシンの1つである。

マトラ&アシェット:MATRA ALICE 90

ALICE 90

 さすがにオシャレきわまりないフランス製のこんなお菓子のようなパソコンがあったとは知らなかった。発売元のマトラ・アシェットは、いま日本で週刊なんたらコレクションなどとTVCMをやっているアシェットの前身にあたる企業のようだ。フランスでパソコンといえば、世界中が8ビットを「Byte」と呼んでいたとき「Octet」と呼んでいた(情報量の単位としてはあるのだが)。フランスでパソコン雑誌を買ってきたら本当に「256o」などと書かれていて感動したことがある。

エイコーン:ACORN A3010

A3010

 いまやスマートフォンやIoTマイコンボードをはじめなくてはならないARMを生み出したのが、英国のACORN(エイコーン)である。ACORN A3010は、そのARMを搭載して注目された「Archimedes」の流れをくむ1機種。本体上部のプリントがいかにもホームコンピューターという感じで楽しい。

ドニエプロペトロフスク機械製造プラント:OREL BK-08

BK-08

 東側のコンピューターとしては、ウクライナで1989年に発売されたOREL BK-08、1990年のチェコスロバキアDIDATIK M、1986年のドイツ民主共和国(東ドイツ)ROBOTRON KC 87が掲載されている。OREL BK-08は、ZX Spectrumのコピーで、開発したドニエプロペトロフスク機械製造プラントは弾道ミサイルも製造するところだそうだが部品はほぼ旧ソ連製とある。

テキサス・インスツルメンツ:TI-99/4A

TI-99/4A

 TI-99/4Aは、1981年の発売だが私はだいぶ後から買って遊んでいた。見ての通り銀色の筐体が際立ったTIのホビーパソコンで、同社お得意の音声合成モジュールが利用可能だった。

ビデオ・テクノロジー:VTech LASER 200

LASER 200

 香港製のコンピューター、LASER 200。Apple IIe互換機で秋葉原などでも売られていたLASER 128で有名なVideo Technology社が1983年に発売。低価格が最大の特徴で、さまざまな国で名前を変えて販売されたとある。同社は、PRECOMPUTER 1000というたいへんにカッコいいキッズコンピューターを発売していて、私の好きなメーカーのひとつである。現在も日本の玩具メーカーの子供向けスマートウォッチがVTechのOEMだったりする。

アップル・コンピューター:Apple III

Apple III

 アップル・コンピューターがApple IIの後継コンピューターとして1980年に発売したコンピューターがApple IIIだ。Lisaは、1983年、Macintoshは1984年。私が、最初に買ったパソコンはApple IIcだが、この本には出てこない。先日、当時の日本の販売代理店の担当者の方に伺ったらおそろしく売れなかったらしい。史上最も美しいコンピューターの1つだと思うのだが、英国でも影が薄かったのかもしれない。

 私は、秋葉原の五洲貿易でLisa、Macintosh Portable、Apple IIIを立て続けに買ったことがある。LisaとMacintosh Portableは少し触ったが、その後それぞれ嫁いでいってしまい(Lisaは東京理科大学の近代科学資料館だがPortableのほうが分からない)、いまはただの鉄の塊(想像以上に重いのだ)と化したApple IIIだけが残っている。

オズボーン・コンピューター・コーポレーション:Osborn 1

Osborn 1

 ポータブルコンピューターの世界を切り開いたともいえるZ80搭載マシンがOsborn 1である。1981年の発売で、計測器のような面構えはあまりにカッコいい。同じポータブルミシン型ではCompaq PortableがIBM PC互換機であることもあり商業的に成功。ちなみに、最初のクラムシェルデザインは、1982年の「GRiD Compass 1101」とされる。デザインしたのは、いまや「デザイン思考」のキーワードでも有名なIDEOの創設者ビル・モグリッジ氏だ。

インターテック・データ・システムズ:Intertec Superbrain

 さて、ここまでパラパラとこの本のページをめくりながらいくつか拾ってみたが、やっぱり気になるのは表紙を飾っているコンピューターだと思う。たぶん、書店でこの本を手にとった人も、あの曲線を生かしたキーボードとディスプレイが一体となったフォルムに惹かれたと思う。来るべきユートピアを彷彿とさせる。まるでTVアニメの『宇宙家族』(The Jetsons)に出てくるようなカッコよさだ。

 その表紙のマシンは「Intertec Superbrain」という1979年に米国で発売されたコンピューターだそうだ。本の中でも「1970年代における、最も壮大な名前のついた、最も未来的なデザインのコンピューターとはどれかと聞かれたら、このSuperbrain以上のものを思いつくのは難しい」と書かれている。

 しかし、この本の著者も編集者も分かっていたはずだが、このマシンのデザインというのはホームコンピューターの典型ではなくて、それより10~20年は前のコンピューターに繋いだ端末のデザインなのである。こうした一体型デザインのマシンの系譜の中で、いちばん歴史上注目すべきコンピューターで選ぶのだとしたら、1973年に発売されたWang 2200だと思う。8ビットのマイクロプロセッサも登場していない時代にBASICインタープリタが動いていた。

 そうした時代があって、やがてホームコンピューターが誕生したことで、家族や子供たちまでもが使うようになった。その変化の入り口を示すという意味では、このマシンが表紙を飾るのもふさわしいのかもしれない。それだけでなく、人なつっこいかわいらしさがある。

コンピューターの意味とは第一に「美」なのだった

 コンピューターやビデオゲーム機やデジタル機器についての写真集や図録は、いままで何冊も刊行されてきた。私も、2004年に国立科学博物館で開催された「TVゲームとデジタル科学展」の公式図録や、2016年に日本科学未来館で開催された「GAME ON/ゲームってなんでおもしろい?」の関連書籍にたずさわらせてもらった。コンピューターの写真というのは、少なくともそれを使っていた人にとってはとてもワクワクするものがあると思う。

 このことをもっとまともに表現できないかと思っていたら、『Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美』(ジョン・アルダーマン著、鴨澤眞夫訳、オライリー・ジャパン刊)に、米カリフォルニア州マウンテンビューにあるComputer History Museum(コンピューター歴史博物館)の上級学芸員Dag Spicer氏が、とても分かりやすい説明をしているのを見つけた。

 多くの人たちにとって「コンピューターの意味するもの」といったら「機能」(=何ができるか)のはずである。ところが、Dag Spicer氏は、コンピューターが意味するものとして第一にあげるべきなものは「美」であると言い切っている。いささか無理のある意見のようにも見えるが、それに続くことばは説得力を持っている。

 同氏は、コンピューターの美とは「期待、経験、それを取り巻く神話、物理属性――これらが複合、絡み合い反響してもたらされるものである」と、おそらく深い洞察をへて簡潔かつ端的に、まるで定義するかのように言葉にしていたのだ。

 期待、経験、それを取り巻く神話とは、まさにコンピューターに憧れ、思い切ってそれを買って、学び、あるいは遊び、あたらしいテクノロジーの評判に胸を躍らせたようなことだろう。それに加えて、『ホームコンピューター デジタル時代を決定づけた100の名機』を見ると、その物理属性であるデザインや機能性やカッコよさが、ホームコンピューターにおいてはことさら重要かつ本質的なテーマだったことがわかる。

手元にあるコンピューターやビデオゲーム機やデジタル機器についての写真集や図録を引っ張りだしてきた。『INFORMATION ART 写真集[集積回路の芸術]』(キャラ・マッカーティ著、福崎俊博訳、アスキー刊)は、1990年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)で開催されたチップのマクス展の図録を翻訳させてもらったものだ。

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。ZEN大学 客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。


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