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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第788回

Meteor Lakeを凌駕する性能のQualcomm「Oryon」 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU

2024年09月09日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 今年も8月25日からHot Chips 2024が開催された。プログラムの内容は公式サイトで確認できる。この中で言えば、インテルのLunar LakeとAMDのInstinct MI300X/Versal AI Edge Gen2、それとZen 5コアの話は残念ながらあまり新しい情報はなかった。

 Xeon 6 SoCに関しては前回の最後で説明しているので割愛するが、それ以外にPCなどとは直接関係ないが、いろいろおもしろいプロセッサーの説明があったので、今回からしばらくこれらを紹介していく。

Nuviaを買収して入手した
QualcommのPC向けCPU「Oryon」

 最初はQualcommのOryon(オライオン)である。言うまでもなくチップセットのSnapdragon X Eliteに搭載されているCPUだ。このOryon、もともとの開発は米Nuviaであるが、同社は2021年1月にQualcommに買収された。

 そもそもなぜQualcommはNuviaを買収してOryonを手に入れたかったのか? という話をすると長いのだが、簡単にまとめるとQualcommはArmのIPライセンスを受けてこれを自社の製品に利用するとともに、ハイエンド向けに関してはアーキテクチャーライセンスを受けて自社で製品開発をしていた。

 2008年のScorpio、2012年のKrait(クライト)、2015年のKryo(クライオ)がその主要なコアである。最初のScorpio(スコーピオ)は2007年のFall Processor Forumで内部構造が紹介された。

2007年というのはArmがCortex-A9を発表した年である。Cortex-A9は8段のパイプラインで2.5 DMIPS/MHz/Coreになっていたが、消費電力は(プロセス依存ではあるのだが)Scorpionよりは大きかったと記憶しており、そのあたりがQualcomm的にはお気に召さなかったのかもしれない

 ただ2015年のKryoが最後の独自アーキテクチャーであり、その後QualcommはKrait/Kryoの名前を使いながら再びArmのCPU IPを利用したラインナップに戻っている。製品構成を見ると以下のようになる。

Oryonの製品構成
コア名 CPU IP
Kryo Silver Cortex-A55/A510/A520
Kryo Gold Cortex-A75/A76/A77/A78/A710/A715/A720
Kryo Prime Cortex-A76/A78/A710/A720/X2/X3/X4

 複数あるのは時期が異なるためで、例えば2021年にリリースされたSnapdragon 8 Gen 1は、Kryo Prime(Cortex-X2)×1+Kryo Gold(Cortex-A710)×3+Kryo Silver(Cortex-A510)×4の構成だが、2023年のSnapdragon 8 Gen2ではこれがKryo Prime(Cortex-X3)×1+Kryo Gold(Cortex-A715)×2+Kryo Gold(Cortex-A710)×2+Kryo Silver(Cortex-A510)×3になっている。要するにKryoはQualcommのCPUブランドであり、特定のアーキテクチャーを指したものではない。

 そんなQualcommであるが、独自路線を止めてArmのCPU IPを利用したものの、トップエンド製品に関してAppleのコアに性能で敵わなかったのがかなり不満だったらしい。だからといって、新規にCPUのアーキテクチャーを開発するには圧倒的に時間が足りない。一般論としてCPUアーキテクチャーをスクラッチから開発すると5~6年を要する。それを待てないからこそ、QualcommはNuviaを買収したわけだ。

 ただこれはArmのお気に召すところではなく、2022年にArmはQualcommに対して、Nuviaの設計を利用するのはライセンス違反になるので、Nuviaの設計を破棄するように求めた。

 少し話が複雑になるが、NuviaはArmのアーキテクチャーライセンスとテクノロジーライセンスを保有しており、このライセンスの元で独自のOryonコアを開発したのだが、Armはこのライセンスの期限が2022年3月に失効しており、そもそもこのライセンスは他社に譲渡不可能であるので、Qualcommがこの期限後にOryonコアを利用するのはライセンス違反になる、と主張している。

 これに対しQualcommは今年4月18日にArmを反訴している。この反訴でQualcommが主張した文言は以下のとおり。

「ArmはQualcommが支払ったライセンス料の対価となる納品物を意図的に留保、QualcommがArmの納品不履行について書面で通知した際、これらの納品物の存在を偽って伝えるとともに、Qualcommが問題の納品物を取得する契約上の権利を行使しようとした場合、Qualcommへのライセンス供与を終了すると脅迫することで、QualcommのCPU設計における技術的飛躍を阻害しようとした」

「Armは、Qualcommの保有するアーキテクチャーライセンスにはQualcommがNuviaベースの技術を利用できる権利はないという口実で、Qualcommが権利を持つ成果物(=NuviaのコアのIP)の利用を意図的に妨害した」

「Armは納品の不履行を是正することはなく、Qualcommは製品の設計と検証に不必要な追加リソースを費やすことになった」

 結果、今年のCOMPUTEXにおける基調講演でQualcommは大々的にAIPCをデモしたにも関わらず、そこにArmのCEOが参加することはなかったし、逆にArmの基調講演の中でQualcommという言葉が出てくることもなかった。

 もうお互いに訴えあっている状況なので、どちらの主張が正しいか議論するのはあまり意味がなく、法廷で決着がつくか、もししくは法定外和解の結末が出てくるのを待つしかないのだが、Oryonというのはそういういわく付きのCPUコアなのである。

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