利益にとらわれず社会のために事業を行う
1923年の関東大震災では、都内にある亀戸工場が半壊したものの、日立工場と笠戸工場は被害を受けなかったこともあり、全国から日立工場に対して、好条件の注文が殺到した。だが、小平氏は、震災によってダメージを受けた京浜地方の復興活動を優先するべきとして、それ以外の地域からの注文を断った。
小平氏は、「いま、この大災害のために、日本の頭部ともいうべき京浜地方は、惨憺たる状況にある。我々は、京浜地方の復興を第一の任務とすべきである。みだりに他の地方からの注文を受けて工場をふさいではならない。全工場の全能力を発揮して、一日も速やかに復興が図られなければならぬ」と社員に語ったという。
このとき、鉄道省神田変電所には、試作中の1000W回転変流器を納入。東京-お茶の水駅間の電力供給を再開させたほか、東京市電用の回転変流器や電動機の納入と修繕を行い、都市電気設備インフラの整備にも協力。変電設備や変圧器などをできる限り増産して、それらを京浜地方に向けて急送するなど、復興事業に尽力したという。
ここには、利益にとらわれず社会のために事業を行うという、創業から変わらない日立の精神があった。
実は、この取り組みが、日立製作所のその後に成長に大きく影響している。
日立の技術に初めて触れた大企業や、大型電気機器設備を発注した官公庁が、海外メーカーと比べ遜色のない日立製品の技術力の高さを知るきっかけとなり、日立に注文するという動きが加速したのだ。
利益を優先するよりも、「社会のために」という日立の精神が、その名を広め、産業界における日立の地位を、意図せずに向上させることになった。
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