昔、谷中(というか、正確には日暮里か)の「夕焼けだんだん」に猫がいた。繁華街から離れた場所であるが、古い昭和の名商店街や街並みに風情があるということで、かなり前から国内外の観光客で賑わう人気の一角である。
それが、何年も前から猫の姿を見なくなってきた。猫グッズの店はいくつもあるのだけど、猫はいないのである。近所の店の人に尋ねると、「みな誰かの家に引き取られていったようだよ」という。
それもあってちょっと足が遠のいていたのだが、先日、夕焼けだんだんの南側一帯が更地になって景色が一変したと聞いて、久しぶりに訪れたのである。そしたら、本当に坂沿いにあった昭和の古いお店は跡形もなく消え、マンション予定地になっており、もちろん猫の気配もない。もう、ここで猫と出会うこともなさそうだ。
というわけで、この連載では猫と出会った具体的な場所はなるべく書かないようにしているわけだが、ここまで様変わりしたら昔話として書いちゃってもいいかなってわけで、懐かしんでみるのである。
冒頭の写真は、2014年に撮影した猫。後ろに見える階段が「夕焼けだんだん」だ。1990年にこの階段につけられた名で、確かに階段の上から夕焼けがきれいに見えるのである。シンプルで実情に合った良い名前だ。
午後の日差しを浴びて猫たちがくつろいでいた頃の写真から行こう。夕焼けだんだんの上で、2匹のキジトラがのんびり日なたぼっこしてたのだ。
ここにいた猫たちは、多くが人に慣れており、行き交う人に写真を撮られたり撫でられたりしていた。それが、猫がいた頃の夕焼けだんだんらしいなと思うので、連続してどうぞ。人と猫の関係がいい感じだ。
中には、犬の散歩の途中で猫と戯れようとする人も。犬と猫が見つめ合ってるんですけど。ちなみに、このあと唸ったり吠えたり鳴いたり戦ったりすることもなく、平和のうちに猫はとことこと去って行きました。慣れたもんなのか。
夜になっても人通りが絶えない、夕焼けだんだん。猫もお散歩の時間。
でも、ここの猫たちも徐々に引き取られていった。この首輪を付けてる猫ももう見ないので、室内飼いになったのだろう。カメラのレンズが近づいても(画面左端にフードが写ってる)、気にもとめない猫だった。
最後に、夕焼けだんだんで最後に出会った猫。2019年だ。坂の上にある立ち飲みもできる酒屋の真ん前で、常連さんに囲まれて常連のハチワレが転がってたのだった。
このお店も、2022年で完全に閉店してしまった。
夕焼けだんだんの周辺は昔ながらの古い家やお店が並び、そこに猫が似合っていたのだが、いつしか(コロナ禍の影響や店主の高齢化もあって)閉店した店もあり、更地も増え、観光客向けの店が増え、様変わりしつつある。
でも、いつまでも時を止めていてほしいというのは、たまにしか訪れない人のワガママでもある。猫たちはそれぞれ引き取られて、室内で飼われているということなので、それでよしとしたい。
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筆者紹介─荻窪 圭
![著者近影 荻窪圭 著者近影 荻窪圭](/img/2019/01/21/1507426/l/858ecc15e0ba66f8.jpg)
老舗のデジタル系フリーライター兼猫カメラマン。今はカメラやスマホ関連が中心で毎月何かしらのデジカメをレビューするかたわら、趣味が高じて自転車の記事や古地図を使った街歩きのガイド、歴史散歩本の執筆も手がける。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社 知恵の森文庫)、『東京「多叉路」散歩』(淡交社)、『古地図と地形図で発見! 鎌倉街道伝承を歩く』(山川出版社)など多数。Instagramのアカウントは ogikubokeiで、主にiPhoneで撮った猫写真を上げている。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
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