2024年5月29日11時、AMDは日本国内におけるSocket AM5ベースの新プロセッサー「Ryzen 7 8700F」および「Ryzen 5 8400F」の販売を解禁した。実売価格(税込)はRyzen 7 8700Fが4万9800円、Ryzen 5 8400Fが3万2800円となる。
型番末尾に「F」があることからも分かる通り今回の新モデルは内蔵GPUを搭載しない。強力な内蔵GPUを持つがゆえにRyzen Gシリーズは「APU」を名乗っていたわけだが、F付きなので果たしてAPUと呼んで良いものなのだろうか? それとも単なるCPUと呼ぶのが正しいのだろうか?
些末な疑問はさておき、この2モデルは既存のRyzen 7 8700GやRyzen 5 8500Gと同じ、モバイル向けのRyzen 7000シリーズに開発されたコア(Phoenix)をベースにした製品である。
今回筆者は幸運にもAMDよりRyzen 7 8700FおよびRyzen 5 8400Fの2モデルをお借りできた。すでに海外では発売済みであるためやや新鮮味には欠けるものの、Socket AM5のエントリークラスを補強する製品(特にRyzen 5 8400F)はどの程度の性能か気になるところだ。このあたりをベンチマークを通じて検証していきたい。
PCI Expressのレーン数とNPUの有無に注目
Ryzen 7 8700FとRyzen 5 8400Fのスペックは、それぞれの上位モデル(8700Gおよび8500G)と同じコア数だが内蔵GPUを取り去りわずかに動作クロックを下げたもの、と考えれば分かりやすい。Phoenixベースであるため4nmのモノリシックダイ構成を採用することで部品や配線コストを削減したモデルとなる。Ryzen 7 8700GはZen 4のみで構成されるPhoenix1ベース、Ryzen 5 8400FはZen 4とZen 4cを混在するPhoenix2ベースである点も既存のRyzen 8000Gシリーズと共通となる。
Ryzen 7 8700Fと8700Gの差分は非常に小さい一方で、Ryzen 5 8400Fは8500GよりもPCI Expressのレーン数において8500Gより勝っている部分がある、という点に注目したい。Ryzen 5 8500Gはユーザーが利用可能なPCI Expressのレーン数は合計10レーンと少なく、うちM.2が4レーン+2レーン使用するためビデオカードが使えるのはわずか4レーンという弱点があった。
ところがRyzen 5 8400Fは合計16レーンであり8レーンをビデオカードに、さらに4レーン×2をM.2に割り振れる。Ryzen 5 8500Gは内蔵GPUだけを使ったローコストPCを組むという点では優秀だが、そこからビデオカードを増設して強化していくことを考慮すると、4レーンで接続するというのは大きなハンデだ。しかしRyzen 5 8400Fはビデオカードが必須という制約があるぶん、強力なGPUを接続してもしっかり使ってくれる(既存のRadeonやGeForceではx16をx8接続にしたところで性能低下はほぼ無視できる)だろう。
下表は、Ryzen 7 8700F/ Ryzen 5 8400Fと、その近傍の製品とのスペック比較だ。PCI Expressのレーン数はチップセットと接続するための4レーン分を含む。
Ryzen 7シリーズとの比較表 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 7 8700G | Ryzen 7 8700F | Ryzen 7 7700 | ||||
アーキテクチャー | Zen 4 (4nm) | Zen 4 (4nm) | Zen 4 (5nm+6nm) | |||
コア/スレッド | Zen 4 x8 / 16 | Zen 4 x8 / 16 | Zen 4 x8 / 16 | |||
ベースクロック | 4.2GHz | 4.1GHz | 3.8GHz | |||
ブーストクロック | 5.1GHz | 5GHz | 5.3GHz | |||
L2キャッシュ | 8MB | 8MB | 8MB | |||
L3キャッシュ | 16MB | 16MB | 32MB | |||
対応メモリー | DDR5-5200 | DDR5-5200 | DDR5-5200 | |||
PCI-Express | Gen4 20レーン | Gen4 20レーン | Gen5 28レーン | |||
TDP | 65W | 65W | 65W | |||
内蔵GPU | Radeon 780M | -- | Radeon Graphics | |||
CU数 | 12 | -- | 2 | |||
GPUクロック | 2.9GHz | -- | 2.2GHz | |||
NPU | ○ | ○ | × | |||
TOPS | 16TOPS | 16TOPS | -- | |||
対応ソケット | AM5 | AM5 | AM5 | |||
CPUクーラー | Wraith Spire | Wraith Stealth | Wraith Prism w/LED |
Ryzen 5、Ryzen 3シリーズとの比較表 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 5 8500G | Ryzen 5 7500F | Ryzen 5 8400F | Ryzen 3 8300G | |||
アーキテクチャー | Zen 4 (4nm) | Zen 4 (5nm+6nm) | Zen 4 (4nm) | Zen 4 (4nm) | ||
コア/スレッド | Zen 4 x2+ Zen 4c x4 / 12 | Zen 4 x6 / 12 | Zen 4 x2+ Zen 4c x4 / 12 | Zen 4 x1+ Zen 4c x3 / 8 | ||
ベースクロック | 3.5GHz Zen 4: 4.1GHz Zen 4c:3.2GHz |
3.7GHz | 4.2GHz Zen 4: ??GHz Zen 4c:??GHz |
3.4GHz Zen 4: 4GHz Zen 4c:3.2GHz |
||
ブーストクロック | 5GHz Zen 4c: 3.7GHz |
5GHz | 4.7GHz | 4.9GHz Zen 4c: 3.6GHz |
||
L2キャッシュ | 6MB | 6MB | 6MB | 4MB | ||
L3キャッシュ | 16MB | 32MB | 16MB | 8MB | ||
対応メモリー | DDR5-5200 | DDR5-5200 | DDR5-5200 | DDR5-5200 | ||
PCI-Express | Gen4 14レーン | Gen5 28レーン | Gen4 20レーン | Gen4 14レーン | ||
TDP | 65W | 65W | 65W | 65W | ||
内蔵GPU | Radeon 740M | Radeon 760M | -- | Radeon 740M | ||
CU数 | 4 | 8 | -- | 4 | ||
GPUクロック | 2.8GHz | 2.8GHz | -- | 2.6GHz | ||
NPU | × | ○ | × | × | ||
TOPS | -- | 16TOPS | -- | -- | ||
対応ソケット | AM5 | AM5 | AM5 | AM5 | ||
CPUクーラー | Wraith Stealth | Wraith Stealth | Wraith Stealth |
また、Ryzen 7 8700Fには兄弟分である8700Gと同様にAI処理に特化した「NPU(Neural Processing Unit)」が搭載されている一方で、Ryzen 5 8400FはNPU非搭載となる。NPUが有効なアプリが非常に少ない(Premiere ProのようにNPUを使うアプリはあるが、NPUを使うとされる機能を使ってみてもNPUの負荷はちっとも上がらない)現状を考えると大したデメリットではないが、NPUを利用したAI処理を視野に入れているなら、Ryzen 7 8700Fや8700G、もしくはRyzen 5 8600Gといった上位モデルを選択するほうがいいだろう。
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