さまざまな人が訪れ、色々な悩みや相談に答えてきたであろう丸の内のバーテンダーの方に、あなたに代わって相談を投げかける本連載「人生の達人はBARにいる」。2回目の今回は、国内外から多くのゲストが訪れるホテル「ザ・ペニンシュラ東京」の24階に位置する「Peterバー」を訪れました。ミクソロジー&バーマネージャーの鎌田真理さんにお話を伺っていきます。
お互いに理解し合うことが部下指導の第一歩!
今回のお悩みはこちら。
──確かに部下への指導というのは難しい問題ですよね。鎌田さんは指導の機会も多いんでしょうか?
鎌田さん「はい、ザ・ペニンシュラ東京には開業時から在籍していて17年になるので、指導の機会というのは必然的に多くなりますね」
──指導をする時、一番心掛けているポイントというのは何でしょう?
鎌田さん「まず、指導する相手のことを理解することです。指導する時というのは、上司である私の言っていることを理解してもらわなければならない時です。ですが、最初に必要なのは相手に理解させることではなく、相手を理解することだと思います。まずは部下がなぜそのように考えているのか、どうしてその行動をとったのか、といったことを理解したうえで、それに合わせてこちらの伝えるべきことを伝えるようにしています」
──なるほど。指導というと、伝えることに目が行きがちですが、一方的に伝えるのではなく、相互に理解し合うことが大切なんですね。
鎌田さん「はい、理解し合いながら指導することで良い関係が築けると思っています」
──指導をするうえで難しさも感じますか?
鎌田さん「そうですね、世代が違えば違うほど、物事の捉え方もまったく違っていて、難しいと感じることは多いです。だからこそ、お互いの考えを理解してギャップを埋めていくことはやはり欠かせないですね。
特にペニンシュラはスタッフに日本以外の出身者も多く、日本語だけでやり取りするわけではないので、より一層理解を深めていくことは重要です。一方通行のやり取りにならないようにいつも気を付けています」
── 一方通行のやり取りにならないようにする。とても重要なことですね! お互いの理解のためには、日頃の会話なども大切にされていますか?
鎌田さん「もちろんです。同じ空間で日頃から働いているので、コミュニケーションをとる機会は多くなります。
ですが、そういった自然に発生するコミュニケーションだけではなく、定期的に『最近どう?何か言っておきたいことはある?』と一人一人と少し時間を取って確認するようなタイミングは設けるようにしていますね。そうした質問を投げかけることで、本人が“何か困ったことあったかな、言っておかないといけないことあったかな”と思い返して考える時間ができるんです。そうするとちょっとしたことでも聞き出すことができるので、大きな問題が発生する前の段階で問題を解決に導きやすいと思います」
──日々の会話で信頼関係を築いていっているんですね。後輩を育てていくことに喜びを感じることもありますか?
鎌田さん「私がバーテンダーになった頃って、女性のバーテンダーがまだまだ認められていない時代だったんです。“女性の体温は高いから、女性が作ったカクテルはぬるくてまずい”なんて言われていたり。そういった状況だったので、まずは“鎌田真理”という私自身のブランドを作らなくてはと思い、資格を取ったり、コンペティションに出場してタイトルを取ったり、ということをとにかく頑張っていました。そうした努力を続けてコンペティションでは日本一も6回ほど獲ることができました。
その頃からバーテンダーとしての自分を確立することができたかな、と感じるようになり、自分を磨き上げていくことよりも後輩の育成へシフトしていきました。今度は後輩がコンペティションで優勝できるようなサポートをしたり、日頃の接客のシーンでも技術を磨いていけるように指導をしています。
後輩を育てていくことは、子供を見ているような気持ちですかね。これからのバー業界のために育てていかなければならない、という使命感に近いかもしれません。もちろん、指導した後輩たちが日本に限らずさまざまな場所で活躍してくれているのは嬉しいですね」
女性のバーテンダーとして苦労も多かった鎌田さん。そんな鎌田さんだからこそ、一方的な指導ではなくお互いのことを理解して尊重しながら、新たな才能を育てていきたいという想いが強いのかもしれません。
日常のあらゆることをカクテル作りに還元
女性のバーテンダーがまだまだ珍しかった時代にバーテンダーの道を進んだ鎌田さん。そんな鎌田さんご自身のことや、鎌田さんが統括するPeterバーの魅力に迫ります。
鎌田さんがバーの仕事に興味を持ち始めたのは学生時代。ホテルの専門学校に通っていた鎌田さんは、料理やドリンク、観光英語、フロント業務、接客の実務、秘書検定、マネジメントなど、ホテルで働くためのあらゆることを網羅する勉強をしていきます。入学した時点では、「ホテルで働きたい」という想いで、バーテンダーを目指していたわけではないそう。
そんな鎌田さんは学校から紹介され、東京都内のホテルのバーでバイトを始めます。当時は未成年で、もちろんお酒のこともまったく知らなかった鎌田さん。バーテンダーを目指した理由について「アルバイト先のバーテンダーの方にいろんなことを教えてもらい、どんどん知識を増やしていくなかで、勉強してもゴールが見えずいくらでも追及していけるところに面白さを感じました」と話してくれました。
鎌田さんは専門学校卒業後、都内のホテルバーなどで経験を積み、2007年のザ・ペニンシュラ東京の開業時からはずっとペニンシュラで働いています。入社時は「シニアバーテンダー」としてバー全体を統括していましたが、現在はバーの統括はもちろん、カクテルの監修や、ロビーのアフタヌーンティーのペアリングのドリンクや、宴会場での特別なドリンクの監修など、バーに限らずホテル全体のドリンクを監修する「ミクソロジー&バー マネージャー」を務めています。
ミクソロジーというと日本ではあまり馴染みがありませんが、海外だとよりクリエイティブなバーテンダーのことを言うんだそう。
鎌田さんにとってカクテルの創作のネタは「あらゆること」。何かを口にした時に「なんで美味しいと感じたのか」「なんで珍しい味だと感じたのか」と考えたり、CMなどを見ても「なんでここでこんなシーンにしたんだろう」と考えたり、あらゆるものごとの背景を考えるのがクセになっているといいます。口にしたもの、目にしたもの、耳にしたもの、あらゆるものから得た感動や考えを、カクテルに落とし込めないかと常に考えているんだとか。
そんな風に常にものごとをカクテルの創作に繋げようと考えている鎌田さん、さぞお酒好きかと思いきや、なんとお酒アレルギーでほとんど飲むことができないんだそう。お酒が飲めないバーテンダーの方がいるとは驚きです! 「バーテンダーを目指し始めたのは未成年の時だったので、まだお酒を知らなくて、自分が飲めない体質だということもわかっていなかったんです。でも、お酒を飲めないことを知るより前に、バーの世界の楽しさを知ってしまっていたので、バーテンダーにならないという考えはありませんでした。とにかくできるところまでやってみようと思い、今に至ります」と話します。
体質的にお酒を飲むことができないので、お酒は味見程度の鎌田さん。「私はお酒を飲むことができないからこそ、お酒の味を敏感に感じて、しっかりとらえてカクテルの創作に活かせているのではと思います」と、バーテンダーにとっては弱点にも思える体質も強みとしてポジティブに捉えています。
また、Peterバーでは「ザ・ゼロプルーフ」として、ノンアルコールカクテルのメニューも豊富に揃えています。コロナ禍でお酒の提供が難しかったタイミングに、ノンアルコールセレクションを再強化したいという想いで作られたものですが、今もノンアルコール人気は強いそう。お酒の飲めない鎌田さんだからこそ、お酒を飲まなくてもバーを楽しめるノンアルコールカクテルへの思いは強く、こだわったものが揃っています。
女性や海外のお客さん、あらゆる人に愛されるPeterバー
鎌田さんにとってのバーテンダーという仕事の1番の魅力は、お客様と長時間接することができること。「レストランで1時間半食事をするとしても、サービススタッフの方はずっと近くにいるわけではないですよね。でも、バーの場合はずっとお客様の目の前にいることになります。なので、さまざまなお客様と長い時間接することができて、毎日同じ時間を過ごすことはありません。こんなにたくさんお客様と同じ空間や時間を共有できる仕事ってなかなかないと思います。難しいと思うこともありますが、刺激もあって飽きることはないですね」と話します。
しかし、初心者にとってバーは敷居の高さを感じる場所でもあります。バーでどう過ごしていいかわからないという方は、「よくわからないので聞いてもいいですか」と気軽に聞いてくれるのが一番ありがたい、と鎌田さんは話します。バーで働くスタッフたちはドリンクに関してはプロ。知識を持っているプロが対応するので、お客様はお酒に関する知識がなくてもまったく問題ないです、と教えてくれました。
また、鎌田さんを含め、Peterバーではスタッフ9名のうち6名が女性バーテンダーだそう。今でも男性のイメージの方が強いバーという場所で、この比率はちょっと驚きです。女性のスタッフが働いていることで、女性のお客様にとっては安心感もおぼえやすいのではないでしょうか。実際に女性一人で来られるお客様も多いんだとか。男女関係なくバーを楽しんでほしいと鎌田さんは話します。
Peterバーはホテルのバーということで、宿泊していなくても行っていいの?と思った方もいるかもしれません。宿泊していなくてももちろん来店OKです! 実際に宿泊客以外のお客様もよくいらっしゃるそうで、特に海外からのお客様で近隣の別のホテルに泊まっている方がわざわざPeterバーへ足を運ぶことも多いんだとか。なぜPeterバーを選んでくれたのかと聞くと、景色や店内の雰囲気に惹かれた、という人が多いとのこと。
そんなPeterバーの内観は、気鋭のデザインチーム、ヤブ・プッシェルバーグが手がけています。木やメタルを融合した装飾がおしゃれで現代的な雰囲気で、夜にはパープルを基調としたライティングがとってもムーディー。そしてなんといっても大きな窓から日比谷や銀座の景色を眺めることができます。この美しい景色や雰囲気を理由に多くの人が訪れるのは納得です。
部下との関係も良好に⁉ 滞りがスッキリするカクテル
鎌田さんとPeterバーの魅力をたっぷり聞いたところで、鎌田さんの作り出すカクテルに俄然興味がわいてきます。今回は、最初の「後輩の指導方法がわからない」という相談者にオススメするなら、というテーマでカクテルを作っていただきました。
出していただいたのは、「甜茶 ダージリン クーラー」というカクテル。薬膳アドバイザーの資格を持つ鎌田さんが、名古屋の老舗漢方薬局「和薬・漢方の本草閣」第九代目当主であり薬剤師の秋山あかねさんの監修のもと、生薬を使って季節に合わせて作る「整うカクテル」というシリーズからの一杯です。
このカクテルは甜茶とドクダミをカクテルに落とし込んだものとのこと。見た目は爽やかな印象ですが、ドクダミというとちょっと味にクセがあるのでは…と少し不安に。
そんな心配を抱きつつ一口。あれ、思いのほか飲みやすい甘さ! ドクダミを使っているということで苦味が強いのかと想像していましたが、甘口のカクテルです。
甜茶とドクダミを漬け込んだウォッカ、紅茶のリキュール、チェリーのシロップ、レモンジュース、甘口のジンジャーエールを使用しており、優しい甘さが印象的なカクテルに仕上がっています。独特の苦味をもつドクダミですが、甘さを持つ甜茶とのバランスをうまく調整しているため、ドクダミのフレーバーはほんのりと感じられる程度です。
「独特の味を持つというイメージから敬遠されがちな生薬ですが、カクテルに使うことで味の層に深みが生まれ、味が決まりやすいんです」と話す鎌田さん。このカクテルでも、甘さの中でドクダミがほのかなアクセントになっています。
また、生薬を使うことで、お酒を飲んでいても身体への優しさも両立できるのが嬉しいところ。「甜茶とドクダミの組み合わせには、体内の滞りをスッキリさせる効果があります。このカクテルを飲んで、体内の滞りとともに、部下との関係もスッキリさせてもらえたら、という想いでこのカクテルを作りました」と、このカクテルを今回選んだ理由を教えてくれました。
「整うカクテル」は季節によってラインナップが変わるため、この「甜茶 ダージリン クーラー」も6月末までの提供予定とのこと。私も期間中にもう1度お代わりしに来たくなる美味しさでした!
女性バーテンダーとして地位の確立のために必死に努力し、道を切り開いてきた鎌田さん。今回は、部下への指導経験も豊富な鎌田さんならではの、説得力のある回答を聞くことができました。
次回もバーテンダーさんの名回答と、美味しいカクテルに期待です!
ザ・ペニンシュラ東京 Peterバー
住所:東京都千代田区有楽町1-8-1 ザ・ペニンシュラ東京 24F
営業時間:18:00~23:30 (L.O.23:00)、金曜日18:00~24:00 (L.O.23:30 )、土曜日15:00~23:30 (L.O.23:00 )日曜日・祝日15:00~23:00 (L.O.22:30)
定休日:なし
電話番号:03-6270-2888
※予約不可
文 / オシミリン(LoveWalker編集部)
大阪生まれ。
趣味は読書と写真を撮ること、おいしいものを食べておいしいお酒を飲むこと。
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