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「図面管理」「不良記録」「設備管理」などのサービスを各月額1~2万円のサブスク型で提供

中小製造業に“ちょうどいいSaaS”を、山善が「ゲンバト」提供開始

2024年02月22日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 山善は2024年2月21日、中小製造業向けの複合型SaaSプラットフォーム「ゲンバト」のサービス開始を発表した。図面管理/不良記録/設備管理といった山善が開発するオリジナルサービスのほか、パートナーサービスも同じプラットフォーム経由で提供する。サービスどうしが連携する点、各オリジナルサービスを初期費用なし/月額1~2万円のサブスクリプション型で手軽に利用できる点を特徴としている。

 記者発表会に出席した山善 営業本部の藤川浩一氏は、国内の製造業に対する意識調査の結果から、多くの製造業が生産性低下に対する危機感を持つものの、中小企業では生産性向上に向けた対策が大きく遅れていることを指摘。生産性向上のカギを握るIT/デジタル活用が進まない理由は「デジタル人材不足」「ノウハウ不足」「高いコスト」にあると結論付けて、こうした課題のない“製造現場にちょうどいいデジタル”としてゲンバトを展開していくと説明した。

「ゲンバト」の提供サービス一覧(サービス開始時点のもの)

山善 営業本部 営業企画部 副部長 藤川浩一(ふじかわ・こういち)氏

現場で必要なサービスだけを、安価なサブスクで利用可能

 サービス開始時点で、ゲンバトは4つのオリジナルサービスと、6つのパートナーサービスを提供する。

 オリジナルサービスは、デジタル化した図面や関連ファイルをクラウド上で一元管理し、セキュアに共有する「図面管理」、製造工程における不良や改善をフローに沿って記録し、後から検索/閲覧可能にする「不良記録」、生産設備の点検/修理記録をデジタル管理する「設備管理」、完成品メーカーとものづくり企業(中小製造業者)のマッチングの場を提供する「エンムスビ」の4つ。またパートナーサービスでは、人材確保、事業承継/M&A、写真による納期/進捗管理、動画マニュアル作成などのサービスをラインアップしている。

「図面管理」「不良記録」の画面例(画像は公式サイトより)

「エンムスビ」サービスでは、完成品メーカーからの公募、ものづくり企業(中小製造業者)からのアピールという双方向のコミュニケーションができる

 「プラットフォーム」と称しているとおり、各サービスどうしはデータを連携させることもできるようになっている。たとえば、製品の図面にひも付けて過去の不良や改善も記録して一元管理することで、不良を出さないノウハウの蓄積や品質向上に役立つと紹介した。

 またオリジナルサービス、パートナーサービスは今後も順次拡充される予定。現時点ですでに第2弾、第3弾のオリジナルサービスの開発に着手していると明かした。

中小製造業の現場が抱える課題、デジタル化が進まない理由とは

 1947年創業の山善は、製造業の現場で使われる生産設備や工具の販売がビジネスの60%超を占める生産財商社である。発表会の冒頭であいさつに立った同社 代表取締役社長の岸田貢司氏は、「生産財商社は、戦後の復興期、高度成長期、つまり日本のものづくりを支えてきた“陰の立役者”だと思っている」と語る。

生産財商社=山善の位置付け。製造を行うための生産設備や工具を提供してものづくり企業を支える

 それゆえに、現在の日本の製造業を取り巻く状況は「決して楽観視できない」ものだと岸田氏は言葉を強める。過去30年にわたり、日本の労働生産性は向上せず国際競争力は大きく低下し、2023年の名目GDP(速報値)ではドイツにも抜かれて世界4位となった。

 「こういった状況を打破するには、やはり製造業における生産性の向上、これが一番だ。生産性の向上が中小製造業における成長力の底上げを促して、ひいては日本の製造業のさらなる成長への加速につながると考える」(岸田氏)

山善 代表取締役社長の岸田貢司氏。新事業であるゲンバトの提供を通じて「日本のものづくりをエンパワーメントしたい」と抱負を語った

 それでは、中小製造業の現場ではなぜ生産性が向上できないのか。営業本部の藤川氏が、同社が全国の中小製造業の経営層/役員を対象に行った意識調査の結果を紹介した。

 同調査によると、8割を超える企業が国内製造業の労働生産性に対する危機感を抱いている一方で、生産性向上のための対策を実行できている中小企業は23.1%にとどまり、大手企業(56.6%)との格差が非常に大きいという。

 また、生産性向上に向けた最優先課題としては「人手不足」「技術継承」「技術開発」「営業力不足」などが上位に挙がったが、「対策できる部署/人材がいない」「どこから手をつけていいかわからない」「IT/DXシステムの導入がコスト面で難しい」といった理由で、対策が進んでいないことも紹介した。なお、生産性向上のための年間予算について、中小製造業では「500万円以下」が多くを占めている。

 「この調査でも、中小製造業の主な課題は『技術や事業の承継』『技術開発の停滞』『営業力不足』だと、あらためて認識できた」(藤川氏)

中小製造業では、生産性向上に向けた対策を実行できていない企業が76.9%を占めており、大手製造業との格差が大きい

生産性向上の対策ができていない理由、対策のための年間予算

 こうした課題を解決する有効な手段のひとつが、中小製造業の現場におけるデジタル活用の推進だ。ただし、ここでも「デジタル人材がいない」「ノウハウがない」「コストがかけられない」といった障壁があり、デジタル活用はうまく進んでいない。そこで、そうした障壁を解消した新たな製造現場向けSaaSとして、今回のゲンバトがリリースされるに至ったという。

 「わたしどもが目指すのは、あらゆる製造業の現場に合わせた、誰でも簡単に使えるデジタルサービス。ものづくりに70年以上携わってきた山善だからこそ、現場の課題を“現場と”一緒に考え、“現場と”ともにデジタルで解決していく。“製造現場にちょうどいいデジタル”として本日、ゲンバトを発表する」(藤川氏)

 山善では今回のゲンバトについて、5年後の2028年度をめどに契約数7000件、サービス利用額10億円(単年度)のビジネスに成長させることを目標に掲げる。藤川氏は、まずは全国に約12万の事業所がある金属加工業をメインターゲットに据えて、従来からの商流である販売店経由、Web直販の双方でプロモーションと販売を進めていくと述べた。なお、2024年12月末までは4つのオリジナルサービスを無料提供するキャンペーンも展開している。

 また、製造現場におけるサービス利用の浸透/定着を支援するサポートメニューや、カスタマーサクセスの取り組みについても、今後充実させていく方針だと説明した。

法政大学大学院 デザイン工学研究科 教授の西岡靖之氏、東大阪市で中小製造業を盛り上げる活動を展開する盛光SCM 代表取締役の草場寛子氏を招いたトークセッションも催された

「『デジタル』『DX』と大げさに言うと構えてしまうので、わたしは『ITカイゼン』とお話ししている。要はカイゼン活動、情報の流れの見える化ということを、デジタルの力を借りてやりましょうと。Excelなどに入っているさまざまなデータをしっかり整理整頓しましょう、そこからで十分だと考えている」(法政大学大学院 西岡氏)

「“製造現場向け”をうたうソフトは世の中にたくさんあるが、機能がトゥーマッチで、数百万、数千万円もするので、中小企業がデジタル化を先送りする原因にもなっている。サブスク型で、必要なところだけ提供する、これからも伴走して一緒に作っていこうという山善のビジョンには現場も期待している」(盛光SCM 草場氏)

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