半導体技術で製造された部品を精密に組み上げる
PrecisionCoreプリントヘッドの生産は、前工程と後工程に分かれる。
前工程は、アクチュエータプレートやインクチャネルプレート、ノズルプレートといったチップを生産し、これらを張り合わせることになる。主に半導体製造技術を中心とした工程だ。そのため、長年に渡り、半導体の生産を行っていた諏訪南事業所(長野県富士見町)と、セイコーエプソンの基幹拠点となる広丘事業所内9号棟(長野県塩尻市)で、前工程を担当している。
これに対して、後工程は、前工程で生産されたプリントチップに、基板や部品、ケースを組み合わせてプリントヘッドを完成させる工程であり、精密な組立技術が求められる。そこで、後工程では、半導体生産とともに、プリンタの組立でも実績を持つ山形県酒田市の東北エプソン、時計のムーブメントや完成品の組立からスタートした秋田エプソンが担っている。
今回、竣工した秋田エプソンの10号棟は、PrecisionCoreプリントヘッドの後工程に特化した工場で、大容量インクタンク搭載プリンタおよびビジネスインクジェットプリンタ用ヘッドに組み立てる。
10号棟の建築面積は約3664平方メートル、延床面積は約1万602平方メートルとなっている。鉄骨造3階建ての1階は、樹脂成形などを行う部品製造エリアで、2024年1月から稼働させる予定だ。また、2階および3階は組立エリアとなっており、段階的に生産設備を導入する。エプソン製ロボットを導入するとともに、最適なレイアウトの追求や、AGVの活用による物流の効率化も推進。人生産性やスペース生産性を向上させることで、同じくプリントヘッドの生産を行っている既存の7号棟に比べて、30%以上の生産性向上を目指すという。
オリエント時計の時代から培った人の技術
秋田エプソンは、1986年6月に、オリエント時計の生産拠点である秋田オリエント精密として設立した企業だ。敷地面積は8万7620平方メートルで、東京ドームの1.9個分にあたる。
2009年4月のセイコーエプソンによるオリエント時計の完全子会社化に伴い、社名を秋田エプソンに変更。現在でも、ORIENT STARブランドの時計完成品および時計の心臓部となるムーブメントといったウエアラブル機器の加工および組立を行っており、プリンタヘッド生産と時計のムーブメント生産が2大生産品目となっている。
2015年からは、技能五輪全国大会への出場を開始。時計修理職種においては金賞を受賞するなど、ここ数年は毎年入賞を続けており、そこからも技術力の高さがわかる。
秋田エプソンの平田潤社長は、「竣工した10号棟は、セイコーエプソングループが持つ最先端技術を投入しながら、生産ラインの自動化や合理化を進め、究極の生産性と高品質を実現し、エプソンの事業拡大に貢献していく」と語る一方で、「モノを形にできるのは人の技能である。ロボットやAIが発展しても、すべてをとってかわることはない。技能は生命線であり、自己研鑽を続けていくことになる」とも語る。
平田社長は、1988年10月に秋田オリエント精密(現・秋田エプソン)に入社して以降、秋田エプソン一筋のプロパーであり、要素製造部長や生産技術部長を経て、2023年10月に、秋田エプソンの社長に就任した。
秋田エプソンが生産しているメカ時計のムーブメント組立では、その精巧さから、依然として作業の一部はロボットによる自動化ができずに、人手で行っているという。また、時計の時刻を正確に刻むための調整や修理も人手で行っており、そこに秋田エプソンの技術力が生かされている。
このようなに、人手によるモノづくりを継承し、それを強みとしている秋田エプソンだからこそ、平田社長は、「人の技能」を重視する。
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