生成AI領域でのOracle Cloudの強みをアピール、「Oracle Technology Day/Applications Day」基調講演
「2024年をエンタープライズ生成AI元年に」日本オラクルが年次イベント開催
2023年11月01日 07時00分更新
日本オラクルは2023年10月31日、東京で国内向け年次イベント「Oracle Technology Day」および「Oracle Application Day」を開催した。9月にオラクルが米国で開催した年次イベント「Oracle CloudWorld 2023(OCW 2023)」における最新発表に加えて、日本の導入顧客事例や日本におけるテクノロジー戦略などを紹介するイベントとなった。
基調講演に登壇した日本オラクル 社長の三澤智光氏は、AI/生成AIが大きなテーマとなった今年のOCWを振り返りながら「来年を“エンタープライズ生成AI元年”にしていきたい」と発言。日本企業におけるAI活用の本格化に向けて、レガシーシステムのモダナイゼーションの重要性や、IaaS/PaaS/SaaSのすべてのレイヤーで顧客のAI活用をサポートするOracle Cloudの強みをアピールした。
「エンタープライズ向けのAI」実現に向けた新発表や取り組みを紹介
三澤氏は、米オラクル 会長兼CTOのラリー・エリソン氏がOCWで語った「生成AIがすべてを変えている。オラクルもすべてが変わりつつあるのは確かだ」という言葉を引用しながら、生成AIへの取り組みを急ピッチで進めるオラクルの姿を紹介した。
オラクルでは、IaaS/PaaSを提供する「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」と、SaaS型ERPを提供する「Oracle Fusion Cloud Applications(Fusion Apps)」「Oracle NetSuite」の双方において、AI/生成AIへの取り組みを進めている。
顧客企業がオラクルに期待するAIとは、「ChatGPT」のようなコンシューマー向けAIではなく「エンタープライズ向けのAI」だと、三澤氏は説明する。エンタープライズ業務に耐えうる高速なAIインフラストラクチャ、AIのモデル構築に活用しやすいよう管理されたデータ基盤、ビジネスユーザーが簡単に活用できるアプリケーション組み込み型のAI機能、そうしたもので「エンタープライズ向けのAI」を実現していく。
三澤氏は、OCWで紹介された具体的な最新発表や取り組みをいくつか紹介した。
たとえば、NVIDIAとの提携で構築したGPUマシンクラスタ「OCI Supercluster」は、最大1万6000超のGPUを広帯域/低遅延なRDMAネットワークで接続することで、大規模なAIモデルの構築を高速化する。実際にこのクラスタを利用しているAIベンチャーのMosaicMLでは、他社クラウド比でトレーニングの時間を50%削減、コストを80%削減させたという。
OCWでベータ版提供が発表された、エンタープライズ向け生成AI(LLM)サービス「OCI Generative AI Service」も紹介した。ここでは特に、Cohere(コヒアー)との提携について「Cohereはエンタープライズ向けに特化した生成AIのメーカー」であることを強調する。
「Cohereは非常に優れたアルゴリズムを提供している。(第三者による生成AIベンチマークで)非常に高いスコアを達成していることに加えて、(パラメーター数が比較的少ないことで)ファインチューニングがやりやすい、カスタマイズの容易性も持つ。もうひとつが、RAG(Retrieval Augmented Generation)をやろうとしたときに必要になる、一般データをベクトル化するEmbeddingのアルゴリズム、ここにも優れたものを提供している」
なお、顧客企業自身のデータを使って生成AIに自社独自の応答をさせるには、汎用AIモデルをベースにモデルを再トレーニングする「ファインチューニング」と、モデル外部にあるナレッジ(データベース)を参照して応答させる「RAG」という、2つの手法がある。三澤氏は、一般的なエンタープライズ用途においては、再トレーニングの時間がかからず鮮度の良い情報を参照できるRAGの利用が中心になるだろうと述べる。
このRAGで重要な参照先となるのがベクトルデータベースであり、今年のOCWでは「Oracle Database 23c」にベクトルデータ格納、ベクトル検索の機能が追加されることが発表された。三澤氏は、ベクトル検索もSQLで実行できること、オープンソースのベクトル専用データベースよりも高性能、高可用性、高セキュリティな環境が実現することなどを強調したうえで、「Oracle DB 23cは、あらゆる生成AIをサポートするデータプラットフォームになる」と述べた。
そして、SaaSのFusion AppsやNetSuiteでは、これから数多くの生成AI機能を組み込んでいくことが発表されている。ここでは「すぐに使えるAI」(三澤氏)として、顧客企業自身がモデル構築や開発に取り組まなくても、SaaS側の定期的なアップデートを通じて常に最新AIモデルによる機能が使えるようになるメリットを説明した。
日本の抱える課題=レガシーシステムの「次の姿」を真剣に考えるべき
AI/生成AI時代を迎え、オラクルではここまで見てきたような取り組みを進めている。しかし、顧客企業側が動かなければそれがビジネスや社会の成長につながることはない。
三澤氏は、日本企業は「レガシーシステムのネクストジェネレーションはどういう姿であるべきなのか、真剣に考えるべき」ときだと語る。7月に開催した国内事業戦略説明会で語った「レガシーモダナイゼーションは必須」「5~10年先の技術進化を見据える」というメッセージを、あらためて聴講者に示した。
「正直な話、10年、15年前にスマートフォンがここまで世の中を席巻するとは誰も想像していなかった。では、その間にエンタープライズアプリはそこまで進化したかと言われると、していない。ただし今後5年、10年の間にはエンタープライズITの世界でも同じように進化が起きると考えているし、その進化のドライバーはAIだろう。(進化に追随していくためには)レガシーモダナイゼーションが必須であり、それを通じてクラウドテクノロジーに精通した技術者を育成していくこと、データを整備してAIに活用しやすくすることなども必要になる」
AI活用に取り組む企業をサポートするために、日本オラクルでは社長直轄の「AI推進室」を設立し、ワークショップやビジネス企画から環境構築、プロジェクト支援までをカバーする「AI支援サービス」を提供している。さらに、AIスキル向上を目指すエンジニア向けに、OCIとデータ管理に関する日本語対応のトレーニングや認定試験を2023年11月1日から無償提供することも発表した(認定試験の無償提供は2024年1月末までの期間限定)。
最後に三澤氏は、今年度の日本オラクルが重点施策に掲げる「日本のためのクラウドを提供」「お客様のためのAIを推進」という2つの言葉を紹介したうえで、「オラクルのクラウド、AIテクノロジーは、お客様と共に進化していきたい、さらにはお客様から学びながら進化していきたいと思っている」とまとめた。