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誰も置き去りにしない、ベテラン・若手営業も巻き込んだSalesforce活用の歩み

もうあの頃には戻りたくないー昭和スタイルから脱却したポラスグループの営業改革

2023年10月26日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 2023年8月8日から8月9日にかけて、Salesforceユーザーグループ(SFUG)による年次最大のイベント「Salesforce全国活用チャンピオン大会(SFUG CUP 2023)」の決勝が開催された。11回目を数える本大会は、Salesforceの導入によりビジネスの成果をあげたユーザー企業が、アイディアやヒントを披露する場となる。

 本記事では、タカラスタンダードのレポートに引き続き、大企業部門で準優勝となった中央住宅(ポラスグループ)の西澤真理氏によるプレゼンテーション「Salesforceは営業改革~昭和から令和の営業スタイルへ」のレポートをお届けする。

中央住宅(ポラスグループ)の西澤真理氏

マンパワーに頼った昭和の営業スタイルからの脱却へ

 ポラスグループは、埼玉・千葉・東京を商圏とする総合不動産会社。創業以来地域密着・農耕型の経営姿勢を貫き、分譲住宅、仲介など住まいに関わる事業を展開している。西澤氏は、今回、ポラスグループの不動産ソリューショングループにおけるSalesforceの活用を披露した。

 導入のきっかけはは働き方改革だと西澤氏はいう。昭和の営業スタイルだった旧体制の中、労働時間抑制の要請があり、生産性の向上が急務に。「マンパワーに頼った今までのやり方ではダメだ、働き方改革と事業達成を同時に満たす道を探さなければ」という意気込みで、トップからSalesforce導入を決定したとのことだ。

昭和の営業スタイルへ働き方改革の波

 Salesforceのユーザーは300名で、Sales Cloud、Sales Emails and Alerts、Account Engagement、Premier Success Planなどを採用。Salesforceの推進チームは、現場の意見を取り入れるために若手所長を4名招集し、基幹業務のリーダーを加えて10名体制で臨んだ。西澤氏は、これまで管理部門で人材育成や業績管理を担当、IT経験がまったくない中、開発後期よりチームに参加した。

解決することは山積み、スモールスタートでSalesforceファンを増やしながら定着化する作戦

 Salesforce導入前は、「労務環境は、長時間労働・休日出勤、営業の教育体制は、手法が体系化されておらず、顧客管理は紙管理、業績はマネージャーの脳内で管理され、ITリテラシーが極めて低い、昭和な事業部だった」と振り返る西澤氏。さまざまな問題に対してSalesforceと共に立ち向かうことになった。

 目指すは抜本的な営業改革。重要施策は「営業効率」と「基礎力の強化」と定めた。営業効率では、失注顧客をリサイクルし、生産性を向上させる。新規顧客のほとんどを占める、すぐには売買しない長期顧客をフォローできるようにすることが狙いだ。基礎力の強化では、最強の営業ノウハウを全員で実践できるよう、営業手法の体系化に取り組む。成績上位者が業績の大半を支える中で、営業力のバラツキをなくす必要があった。

 具体的には、以下の7つのアクションで変革を推進した。解決することは山積み、社員のITリテラシーが低い中で、すべてを同時に行うと混乱は必至であり、スモールスタートでSalesforceファンを増やしながら定着化する作戦をとった。

■営業効率
 1.基幹業務をSalesforceに置き換え
 2.顧客の仕分けステップの導入
 3.記録を推進して顧客を会社の財産に
 6.顧客のリサイクル推進
■基礎力強化
 4.売れている営業のコツを展開
 5.現場の活用事例を共有
 7.営業の学校 開口
※数字は実施順

業務改革を断行、Salesforceを使わざるを得ない状況へ

 最初に取り組んだ、アクション1の「基幹業務のSalesforceへの置き換え」では、既存の業務フローとの平行期間を設けようという意見もあったが、業務改革を断行。Salesforceを使わざるを得ない状況へ持ち込んだと西澤氏は振り返る。しかし、当然現場は混乱し、不満は続出、システムエラーも多発した。

 「Salesforceはみんなで作るシステムと丁寧に説き、現場の意見を聞いて、ルール変更やシステム改修を続けた」と西澤氏。業務手順を周知するために、全21拠点を回ってハンズオン勉強会を開催、マネージャー層へは1対1での勉強会も実施し、手厚くフォロー、まずは始めの1歩が踏めるようにした。それでも疑問がなくなるわけではなく、多発する質問者への個別対応は画面共有と遠隔操作でサポートし、3分以内に解決できるよう心掛けた。質問は即マニュアル化してChatterにて配信、Salesforceと連携する「Teachme Biz」を利用することで業務手順周知のスピードが上がった。

画面共有と遠隔操作で質問を素早く解決

 入力業務が定着したところで、閲覧者の役職により結果が変わる動的な階層別のダッシュボードを公開。毎日ダッシュボードを見る習慣がつき、実績管理用のホワイトボードや独自エクセルが徐々になくなっていったという。

「打ちたい球だけ打つ」顧客の仕分けにより営業効率向上

 アクション2は、顧客の仕分けステップの導入だ。これまで新規顧客の9割が長期顧客だったが、営業が多数の顧客を抱えて業務多寡になり、失注顧客は放置されていた。そこで、「打ちたい球だけ、打ちに行こう!」をスローガンに、優先度の高い熱い顧客は営業が商談化し、手厚くフォローし、長期顧客は失注としてナーチャリングに仕分けるフローとした。営業は顧客を手放すことに抵抗したものの「再浮上したら必ず戻します」と訴え、結果、営業効率は高まったという。

 失注顧客は、インサイドセールスチームとAccount Engagementがフォロー。再浮上したら担当に戻し、追客を再開する。追客にはEngage Alertsを活用、トラッキングによりタイミングよくアプローチすることで、通電率が向上した。

失注顧客はAccount Engagementでナーチャリング

負担増加が先行した記録の推進も、粘り強い要請と入力率の可視化で解決

 アクション3は、「顧客は会社の共有財産」という考えをもとにした記録の推進だ。紙管理を廃止し、アプローチ履歴をすべて記録することで、商談状況の可視化を目指した。

 これにも現場から不満が爆発。ベテラン営業ほど入力率は低く、商談の用語がなかなか共通言語にならず、フェーズが不正確で追客状況もわからない。入力の負担増加が先行してしまい、データを活用して成果を出すという未来が見えない状態だったという。

 解決策として、定例会議で「今は入力を習慣にする時期」と継続的に呼びかけ、成果を出すための大切なステップだと粘り強く要請した。さらに、拠点の入力率をChatterに公開、この対策は心苦しかったものの効果はてきめんだったとのこと。「完了予定日」を過ぎた商談が9割超える事態になった際には、メール通知するフローの作成とトップの一声で解決した。これらの取り組みのかいあって、コミュニケーションの中心は徐々にSalesforceに移っていく。

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