このページの本文へ

OT領域へのビジネス拡大も発表、製造業の多い日本市場は「重要な市場と位置付け」

Splunkの新CEOに聞く「デジタル・レジリエンス」の価値と同社の役割

2023年08月03日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ハイブリッド/マルチクラウド化、サイバー攻撃の高度化といった環境変化を受けてIT運用が重要かつ複雑なものになる中で、Splunkが提唱するのが「デジタル・レジリエンス」だ。7月に米ラスベガスで開催された「Splunk .conf23」の会場で、3月に同社CEOに就任したゲーリー・スティール氏、日本法人の社長執行役員を務める野村健氏に、顧客企業のデジタル・レジリエンス獲得を支援するSplunkのビジネス戦略や、イベントでの新発表などについて聞いた。

Splunk CEOのゲーリー・スティール(Gary Steele)氏

――CEO就任から1年が経過しました。戦略や方向性に変更はありますか?

スティール氏:CEOに就任した際、わたしは「イノベーション」と「収益性と成長のバランス」の2つにフォーカスすることを発表した。

 まず「イノベーション」については、Splunkのイノベーションスピードを加速させることに取り組んできた。今年の.confではその成果が披露できた。クラウド領域ではMicrosoftと提携し、課題となっていたエッジでは「Splunk Edge Hub」を発表した。またAI領域では自然言語でSPL(Search Proccessing Language、Splunkの検索用言語)を記述できる「Splunk AI Assistant」を、セキュリティでは買収したTwinWaveを「Splunk Attack Analyzer」として発表した。

 今回の.confではこのほかにも多数の発表を行った。顧客に継続して新しい機能を提供することへのフォーカスを、形にできたと思う。

 「成長を維持しつつ効率性にフォーカスする」という面では、先の第1四半期(2023年4月~6月期)決算において年次経常収益(ARR)が16%増となるなど、成長を遂げることができた。

――Splunkが実現するものを「デジタル・レジリエンス」と表現しています。デジタル・レジリエンスとは具体的にどのようなことを指すのか、教えてください。

スティール氏:デジタル・レジリエンスとは「いつでもデジタル資産が使える状態にすること」だ。アプリケーションの重要度が高まる中で、顧客のデジタル資産は複雑になる一方であり、セキュリティ攻撃も高度化している。ここを支援するのがSplunkのセキュリティ、オブザーバビリティなどの技術となる。

 Splunkによって、顧客はアプリケーションをはじめとしたシステムの稼働状況を可視化できるため、脅威アクターからの攻撃を素早く検出し、対応することが可能になる。また、現在はクラウドネイティブアーキテクチャとレガシーシステムが混在しており、アプリケーションのアーキテクチャが複雑化しているが、障害があった際にはすぐにそれを検出し、対応できるようにする。

――Microsoftとの提携により、Azure MarketplaceでSplunkソリューションを購入できるようになりました。すでにAWS(Amazon Web Services)、Google Cloudでは実現しており、3大クラウドでAzureが最後です。その理由は?

スティール氏:わたしがCEOに就任した際に、Azureへの対応を求める声が多く寄せられていることがわかった。今回のAzure対応は、顧客の要求に応えた格好となる。また、Splunkがハイブリッド/マルチクラウド戦略を重視していることの表れとも言えるだろう。AWSとGoogle Cloudへの対応はわたしがCEOに就任する前に行われたことだが、Microsoftはこのところ積極的にクラウドを強化しており、市場でも勢いがある。

――「Splunk Edge Hub」はOT環境でデータを収集/処理するためのデバイスですが、OT分野ではこれまでとは異なる協業、パートナーシップが必要になります。そうした取り組みについて教えてください。

スティール氏:Splunk Edge Hubはハードウェアであり、顧客企業にはOT領域の知識があるパートナー経由で提供することになる。

 この製品に対しては、CISO(最高情報セキュリティ責任者)などのセキュリティ担当者も関心を示すと見ている。彼らは工場のフロア、店舗などで何が起きているのかを詳しく知りたいと考えているからだ。そこでは、Splunkがすでに構築しているセキュリティ担当者との関係が生かされるだろう。

「Splunk Edge Hub」はコンパクトなエッジゲートウェイデバイス。産業機器やIoTデバイスから収集したOTデータや、内蔵センサーデータ、外付けカメラ映像データなどをまとめてSplunkにストリームできる

――企業の中で、IT担当者とOT担当者は必ずしも良好な協力体制を築けているとは言えないと思います。両者の連携という点で、Splunk Edge Hubはどのような役割を果たすのでしょうか?

スティール氏:ITとOTを結びつけるという点で、Splunkには大きなチャンスがあると見ている。デジタル・レジリエンスという大きなテーマを実現するために、ITとOTはお互いのデータを必要としており、両者は協力し合うことができるはずだ。

 ここで重要な役割を果たすのがCTOだろう。組織全体のアーキテクチャを広い視点で組み立て、さまざまな環境を可視化する取り組みをリードする立場にあるからだ。

――日本には製造業が多く、Splunk Edge Hubを展開していくうえで魅力的な市場だと思います。

スティール氏:Splunkは今年、米国外の市場を強化する方針であり、米国で築いた成功を、日本をはじめ他の市場でも再現することにフォーカスしている。Splunkを使うための障壁を下げ、競争力のある形で提供するための取り組みを進めている。

 中でも日本は重要な市場と位置付けており、日本の顧客が必要としている機能や製品を提供することを重視している。Splunk Edge Hubは、日本市場におけるSplunkの成長を促す“触媒”の役割を果たすと見ている。

野村氏:顧客、パートナー、従業員という3つの面で強化を図っている。具体的には、ドキュメントの日本語化、日本語でのテクノロジーサポートやコンサルティングサービス、トレーニングなど、ローカライズの取り組みを拡大して進めている。これは、3~4年前と比較すると大きな変化と言える。

Splunk Services Japan 社長執行役員の野村健氏

――クラウドについてお聞きします。基調講演では「顧客企業は自社のペースでクラウドに移行できる」と約束しました。顧客のクラウドへの移行をどのように見ていますか?

スティール氏:直近の四半期では、新規ビジネスの58%がクラウドだった。その前も50%台半ばから60%台半ばで推移している。この事実を踏まえると、クラウドには大きなチャンスがあると言える。顧客はSplunkを管理することなく、成果(アウトカム)だけを得られるからだ。

 一方で、オンプレミスからクラウドへの移行は大きなプロジェクトであり、当然のことながら予算が必要になる。このところの経済環境の影響を受けて減速しているが、クラウドに移行することでオンプレでは得られないメリットがある。

 Splunkは、顧客自身が決めたタイミングでクラウドに移行できるようにする。そのために、オンプレミス/クラウドの両方の環境でシームレスに動くようにする。というのも、企業のほとんどはすべてをクラウドに移行したいと考えているわけではなく、ハイブリッドな環境になると予想しているからだ。オンプレミスと複数のクラウドが混在するハイブリッド/マルチクラウド環境でシームレスに使えるという点は、Splunkの大きな差別化要因になるだろう。

――5年後、10年後のSplunkをどのように予想しますか?

スティール氏:顧客がデジタル・レジリエンスを獲得するのを支援するという取り組みは、5年後も続いているだろう。また、Splunkが現在投資しているツールや技術が差別化要因となり、5年後、10年後にも顧客に選ばれるベンダーになっていると思う。顧客が受け入れてくれることで、われわれは利益とのバランスをとりながら堅調な成長を実現していく。

 デジタル・レジリエンス支援の取り組みを通じて顧客に価値を提供することで、Splunkは顧客の重要なパートナーであり続けたいし、株主にもその価値を感じてもらいたい。

 そうした目標に向けての優先事項は、やはりイノベーションのペースを維持することだ。イノベーションによってこそ、デジタル・レジリエンスを構築する顧客に継続して価値や機能を届けることができる。

■関連サイト

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ