前回の冒頭でも少し触れたが、AMDは6月13日にData Center and AI Technologyというイベントを開催した。
この様子はYouTubeで視聴可能(ただし1時間半:ダイジェスト版は3分48秒)であるが、ここでBergamoとGenoa-Xという新しい第4世代EPYCと、さらにInstinct MI300シリーズの若干の詳細、それとPensandoベースの新製品紹介などがあった。今回はこの中からBergamoとGenoa-Xの詳細について解説しよう。
3次キャッシュを増やした第4世代EPYC
Bergamo
BergamoはZen 4cコアを128コア搭載する、という話はすでに公式にも語られていたが、このZen 4cとZen 4の違いは3次キャッシュの容量のみである、という話を連載696回にお届けした。さてその答え合わせであるが、論理的にはこれは正確ながら、物理的にはやや間違っていた。今回公開された話は以下の3つであった。
- CPU Coreそのものは論理的にはZen 4そのままながら、物理設計をやり直してエリアサイズを縮小。
- 3次キャッシュは従来の4MB/コアから2MB/コアに縮小。また3次キャッシュには(3D V-Cacheを利用した)容量拡張オプションは用意されない。これにともない、TSVエリアは存在しない。
- CCXの構成そのものは8コア/CCXで変わらず。したがってBergamoでは1つのダイに2つのCCXが搭載される。なおこの2つのCCX同士はローカルで通信するのではなく、IoD経由での通信となる(要するにZen/Zen 2世代と同じ)。
まずは物理設計の話。俗にPPA(Power, Performance, and Area) Optimizationなどと言うが、物理設計を行なう際に動作周波数のターゲットをどのあたりに置くかで消費電力やエリアサイズが変わってくる。
これはセルライブラリーに高密度・低消費電力のものを使うか、高速のものを使うかという話であり、クリティカルパス(プロセッサーの動作速度を決める、一番タイミング的にシビアな部分)には高速のライブラリー、それ以外のところは高密度・低消費電力のものを使うというのが一般的ではあるが、「どの程度使うか」は設計者のサジ加減次第であり、最終的にどの程度の周波数をターゲットとするか、あるいはダイサイズをどの程度に抑えたいか、消費電力をどの程度にするか、などでサジ加減が変わることになる。
Zen 4cの場合、CPUコア+2次キャッシュのサイズをZen 4と比較して35%縮小した。またZen 4ベースのEPYC 9654が96コアでTDP 360Wなのに対し、Zen 4cベースのEPYC 9754は128コアでTDP 360Wだから、ラフに言って25%消費電力を削減している計算になる。
実際にはIoDの分もある(IoDは完全に同じものだそうである)ので、もう少し消費電力の削減分は大きいかもしれない。その反面、動作周波数はEPYC 9654がベース2.4GHz/最大ブースト3.7GHzなのに対し、EPYC 9754はベース2.25GHz/最大ブースト3.1GHzと低めになっているのは、コアそのものを高密度/低消費電力向けに振った副作用ともいえる。
ただコア数×動作周波数という理論的な演算性能で言えば、EPYC 9654 vs EPYC 9754は以下のとおりで、EPYC 9754の方がむしろ高めである。動作周波数を抑えてコアの数を増やしたことが功を奏した格好だ。
EPYC 9654 vs EPYC 9754 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
ベースクロック | 96×2.4 : 128×2.25 = 1 : 1.25 | |||||
最大ブーストクロック | 96×3.1 : 128×3.70 = 1 : 1.12 |
次が3次キャッシュのサイズである。下の画像はZen 4とZen 4cの差を示したものだが、先に書いたとおりコアそのものの論理設計はまったく同一だそうで、違いは3次キャッシュの容量のみということになる。
その3次キャッシュだが、さすがにここはZen 4でも高速向けのセルライブラリーを使うことはなく、高密度/低消費電力のセルライブラリーを使っていると思われるので、3次キャッシュの再設計でも単純に面積が半分弱になるだけと考えられる。
「弱」なのは上でも書いたがZen 4cでは3次キャッシュにTSVエリアがなくなる。下の画像はZen 4の3次キャッシュの構造を示したスライドであるが、これを元にしたZen 4cの推定図がさらにその下の画像である。Zen 4のダイサイズが70mm2とされるのに対し、この推定図によればZen 4cのダイサイズは78.3mm2ほどになると計算される。
一方でAMDによるBergamoのCGから同じように寸法を割り出すと、おおよそ74.9mm2程で、筆者の推定はやや大きめであるが、なんにせよ75mm2前後ということで、GenoaのZen 4のダイからわずかなダイサイズの増加でコア数を倍増できたことになる。
この連載の記事
-
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ