受注以外の業務にもRPA導入を拡大
RPAによるこれらの自動化によって、同社の受注業務は年々改善が進んでいる。デジタル受注(手作業でないもの)の割合は、導入1年目の2020年に30%から61.3%に急上昇し、2021年71.3%、3年目である2022年は10月時点で74%まで来ている。目標である80%は射程に捉えたといってよさそうだ。
「Excelデータをプリントアウトして、それをFAXで送ってくる発注書もあった。その取引先には、Excelデータを直接送ってもらうようにお願いしている。また、営業が直接受注した情報は、各人の手製Excelでなく、基幹システムと連携できるフォーマットを使うよう周知している。そうした効率化を積み重ねて、RPAによる効果の最大化を目指している」(野々垣氏)
本社業務におけるRPAの活用は、2020年10月から2022年9月までの2年間で、約850件のスクリプト、156件のスケジュール登録、123件のファイル監視登録を開発した。その結果、約4800時間/年の削減を実現している。
デジタル受注80%を達成した先の自動化のテーマについて、野々垣氏は「受注のエントリーだけ自動化ができても、それに伴う他の業務が手作業のままでは、かえって社員の負担が増えていく。今後は納期回答や送り状の番号連絡、さらに返品や値引き処理の自動化も、RPAの活用によって進めていく計画だ」と語る。
野々垣氏は、これらの自動化を、同社内で基本的に単独で進めてきた。いわゆる「1人開発者」の課題と対策についても言及する。
まず、開発者が1人だとエラー発生時、他に対応できる人がいないという問題がある。それに対してはエラー対応マニュアルを作成して、野々垣氏以外に2名のメンバーを指名し、マニュアルどおりの復旧作業をしてもらえるようにした。
また、開発が進むほどスクリプトが動き続けるため、その運用に追われてしまい、野々垣氏は夜間や休日にしか開発ができなくなった。さらに、スクリプトの処理が集中して遅延も発生するようになったため、前記したように本社でのRPA導入から1年後に、もう1台ロボットを追加した。そのうえで、1台をファイル監視の実行用、もう1台をスケジュール実行とスクリプト作成用として役割を分け、遅延が起きにくいようにした。
熱量とゴリ押しで困難を突破
加えて課題となっているのが、RPAの処理の結果に対して完ぺきなものを求められる点だ。「送り状の宛名(納品書に記載する店舗名)に『様』を入れる処理など、細かい部分まで整っていないと、現場は納得してくれない。結局は手作業で直すことになって自動化の意味がなくなる。そのため、AccessのIIF関数や、スクリプトの分岐条件を20~30個設定するなど、徹底的に自動化で対応することにしている」(野々垣氏)。
開発が行き詰まった場合、ユーザックシステムのサポートに問い合わせれば、大抵のことは解決できたという。また、Autoジョブ名人に追加機能がほしいときは、アンケートなどでアピールしてきた。その結果、いくつかは実装されたそうだ。
「私は特に高いスキルを持っているわけではない。分岐を20個作ったりすることもスマートではないと承知しているが、熱量とある意味“ゴリ押し”でなんとか乗り切ってきた。恥ずかしいようなことでも、恥ずかしげもなく行なうことで、結果を出してきたのが現状だ」(野々垣氏)
野々垣氏は、RPAの適用部署を拡大するにあたり、社員が辞めたときや異動したときに担当者がいなくなった業務を狙ってきたと話す。「人が抜けたピンチは、業務プロセスを変えるチャンスと捉えている。いったん自分で引き取り、その業務をRPAで自動化してきた」(野々垣氏)。
また、仕事がたいへんそうな部署の人に声をかけて、自動化を進めることも有効だという。「一度自動化して手作業がなくなると、元にもどりたくないと思うもの。そのうえで成果を得られれば、次の依頼も来る」(野々垣氏)。そうした働きかけで、月報、週報の管理や請求明細の自動送信などを実現してきた。
孤軍奮闘だった野々垣氏だが、将来的に1人開発者の状態を続けていくのはリスクが大きい。今後さらに適用部署を拡大するためにも、開発者の育成が課題である。新しく部署に配属されたメンバーをRPA開発者に育成するため、まずアーカイブ動画を見ながら自己学習してもらい、その後はOJTで指導している。
「新しい開発者には、社内の他のメンバーが楽になるようなテーマを担当してもらい、その人が開発したスクリプトで業務が自動化して、感謝されるような建て付けにしている。それが本人のモチベーションにつながる」(野々垣氏)
また、業務改善をRPAありきにはしないようにしていると話す。「すべてをRPAで解決しようとせず、Excelのマクロや関数を使ってもいいことにしている」(野々垣氏)。手作業以外の選択肢を増やすことで、メンバーの意識やリテラシーが向上し、自動化がさらに進んできたと野々垣氏は手応えを感じている。
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