まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第81回
【後編】西田宗千佳×まつもとあつし対談~物理からサブスク配信に直行した特異な国
Netflixが日本アニメに大金を出すフェーズは終わった
2023年01月15日 15時00分更新
<前編はこちら>
YouTubeの存在感が極めて大きい日本
まつもと 先ほどのお話にも出てきたように、YouTube単体で見たときの、日本と世界での展開のされ方、それに伴う利用のされ方がかなり異なっている、と。たとえばプレミアムの位置づけですよね。そこも整理しておいたほうが良さそうです。
西田 そうですね。いわゆるプレミア配信、たとえばアニメ会社でもいいし映画会社でもいいんですけど、公式のコンテンツをある一定期間公開する、みたいなかたちをたくさん使っているという意味では、アメリカよりも日本のほうが多い印象はあります。
さらには、YouTubeの中で成立するキャラクターとしてVTuberみたいなものを作って、それを大きな収益の柱にしていくビジネスという意味合いにおいて言えば日本のほうが進んでいます。
特にアメリカの場合、VTuberのようなキャラクターを作るよりも、自身をインフルエンサーとして立てる場合のほうが多いですね。さらに言うと、YouTubeのみではなく、コスメならInstagram、ゲームならDiscord、という具合にいろんな場所に分散している状況があります。対して日本はYouTubeに集約しているので、使われ方が偏っているかなという印象はありますね。
まつもと ユーチューバーというか、アメリカにおけるセレブリティというか……たとえば、化粧品や家庭雑貨を自分の名前で売り出すような人もいますよね。それは自分が顔出しでやっているから、YouTubeだけじゃなくてInstagramやTikTokでも活動できる。
逆に言うと、VTuberということはある意味、YouTubeをベースにせざるを得ないというか、特化していることの現われの1つですよね。
西田 はい。さらにVTuberってある意味、地上波におけるバラエティーの代替かなとも思っているんですね。アニメなら声優さんのラジオがあって、それがいわゆるバラエティーの代替として成立している部分があるわけですけれども、映像メディアとして見るならばVTuberが出てきて喋るものというのはある意味、バラエティー番組の代替になっているのでは。
若い世代にとって、ひな壇に出ている芸人さんを見るよりVTuberのお喋りを見ているほうが共感できるし楽しいという部分があったりするので、そういう傾向の強さという意味合いでは日本はかなり独自性が強いんじゃないかなと思っています。
VTuberのアニメは流行らなかったがバラエティーは続く理由
まつもと 海外におけるYouTubeのサービスラインナップと日本におけるサービスラインナップの違いがそれを生み出したという部分もあるし、あとはアニメというベースとなる文化の普及度合いというか、一般化の違いというところもあるでしょう。さまざまなものが掛け合わさってVTuberはまず日本で特異的に普及し、海外にも出ていこうとしている。
バラエティーの代替品であるという感覚も、学生の話を聞いていると非常によくわかります。あとは、最近だと声優さんがテレビで活躍するし、バラエティーに登場する芸人さんたちもユーチューバーになって番組を展開しています。でも内容は情報バラエティーをそのままYouTubeでやっているような状況になっているのかなと。
西田 そうですね。YouTubeで金が入る道筋と方法論がかなりハッキリと出来上がったので、結局テレビのほうで仕事がなくなる、もしくは「あんまり自由なことができない」と思った方が、「お金が同じように入ってくるんだから」ということで、同じ方法論でYouTubeの番組を作るようになったというのは、それはかなり日本独特かなとは思いますね。
海外の場合にはもうちょっとシネマチックだったりしますけれども。画質が上がってきて、プロの力が必要な内容になってきているんですけれども、それがテレビと同じ方向性かというと、ちょっと違うなという印象を持っています。
まつもと VTuberを指して「VTuberがアニメ的である」といったところも、実は学会の中では議論があったりもします。メディアコンテンツとしてのアニメと、番組のフォロワーとしてのバラエティーの、ちょうどあいだを取り持つようなかたちでVTuberは存在しているというのも、非常に興味深い関係かなと思います。
西田 そうですね。面白いのが、VTuberがスタートしてすぐに、VTuberを使ったアニメ番組的なものというのを地上波で流したことがあるんですけど、どれも成功していないんですよね。
まつもと そうですね。
西田 一方、クオリティーは落ちるものの、バラエティー番組として作ったゲーム実況はきちんとYouTubeで成立して大量の視聴者を獲得していることを考えると、やっぱりメディアの特質みたいなものが明確に存在していて、それに合わせた番組作りというものがあるんだろうなと。
そして、たとえキャラクターに人気があったとしても、特定のメディアで人気なれるかは別の話、というのが今のところの仮説ですね。
まつもと 西田さんが先ほどおっしゃったように、「チャンネルをフォローする」。つまり、チャンネルに登場するキャラクターに対してのファンなんですよね。そのファンが、マネタイズに対しても大きな貢献をしている、というところでVTuberが非常にYouTubeのチャンネル特性との相性が良かったと。
西田 そうですね。
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