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東工大など、中低温域で高いプロトン伝導度を示す新材料を開発

2023年01月04日 06時19分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東京工業大学とオーストラリア原子力科学技術機構の研究グループは、中低温域(300~600℃)で高いプロトン伝導度を示す新材料を開発した。現在実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は動作温度が高く、コスト削減と用途拡大のために中低温域で高いプロトン伝導度を示す材料が求められている。

東京工業大学とオーストラリア原子力科学技術機構の研究グループは、中低温域(300~600℃)で高いプロトン伝導度を示す新材料を開発した。現在実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は動作温度が高く、コスト削減と用途拡大のために中低温域で高いプロトン伝導度を示す材料が求められている。 従来は、ペロブスカイト型プロトン伝導体が有力候補と考えられていたが、プロトン伝導度を高めるには結晶構造内に酸素空孔を導入する化学置換が必要であり、安定性や高純度な材料合成の点で問題があった。近年、六方ペロブスカイト関連酸化物は、高いプロトン伝導度を示す上、化学置換の必要がないことから注目を集めているが、伝導メカニズムはよく分かっていなかった。 研究グループは2種類の六方ペロブスカイト関連酸化物(β-Ba2ScAlO5、α-Ba2Sc0.83Al1.17O5)に加えて、六方ペロブスカイト関連酸化物に類似する結晶構造を持つBaAl2O4を使って、酸化物のプロトン伝導性を調べた。3種類とも結晶構造に本質的な酸素欠損層を持っている。 3種類のうちβ-Ba2ScAlO5は最高クラスのプロトン伝導度を示すことが分かったが、ほかの2種類のプロトン伝導度ははるかに低かった。そこで、プロトン伝導メカニズムを明らかにするために、第一原理分子力学シミュレーションを実施した結果、β-Ba2ScAlO5ではプロトンが結晶構造全体を動き回っていたが、BaAl2O4ではプロトンが酸素欠損層に局在していることが分かった。β-Ba2ScAlO5は結晶構造内に酸素欠損層に加えて最密充填層を持っており、プロトンが最密充填層の中を大きく移動する。一方、最密充填層を持たないBaAl2O4では、プロトンが移動できない。プロトン伝導度を高めるには、結晶構造に最密充填道と本質的な酸素欠損層の両方が必要だと考えられる。 以上の結果から、本質的な酸素欠損層が水を取り込んで生成したプロトンが、最密充填層に移動した後、その内部を拡散するという新しいプロトン伝導メカニズムが明らかになった。 研究成果は12月19日、アドバンスト・ファンクショナル・マテリアルズ(Advanced Functional Materials)誌にオンライン掲載された。

(笹田)

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