Navi 31のGCDはNavi 21から
1割程度の原価アップで済んでいる
ところでTSMCのN6のコストが不明なのだが、仮にN6のコストがN7と同等だったと考えると、製造原価はNavi 21の4割増し程度で収まる計算になる。GCDは原価1.7倍ながら520mm2→300mm2になったことで、製造原価はNavi 21の0.98倍とほぼ同等。MCDは6つで222mm2なので、Navi 21の0.43倍程度だからだ。
ただ実際はこの差はもっと小さいと想像される。というのは、1.7倍という数字は250mm2のダイを試作した場合のコストだからだ。500mm2を超えるダイと300mm2のダイでは、当然歩留まりが異なるわけで、おそらくNavi 31のGCDのコストはNavi 21の90%未満に抑えられているだろう。
もっと歩留まりが高いのはMCDの方で、なにしろ37mm2なので1枚のウェハーから千数百個取れるわけで、歩留まりは当然相当高い。上の試算では1.4倍としたが、このあたりを換算すると実質的な原価はせいぜい1割アップ程度で収まっているだろうと想像される。
もう1つ驚異的なのは、このGCDとMCDの間はシリコン・インターポーザーではなく、オーガニック・パッケージが利用されていることだ。
GCDを複数のチップにするのに比べればマシだったらしいが、それでもMCDを接続するにあたってはGDCとの間に数千本以上の配線が必要になるとしている。
この結果として「シリコン・インターポーザーでは配線密度が足りなかった」(Naffziger氏)という仰天するような返答が返ってきた。下の画像は、通常の配線とNavi 31の配線を、ほぼ同等の縮尺で比較した場合のもので、10倍どころではない配線密度になっているのがわかる。
そもそもオーガニック・パッケージでは配線密度が足りないのでシリコン・インターポーザーが登場したのに、これでも足りないからオーガニック・パッケージに戻るというのは一見意味不明だが、シリコン・インターポーザーの場合は配線層を複数重ねられない(これも厳密には正確ではなく、可能だが難易度とコストがさらに上がるので、使われていないというのが正確か)。
したがって、数千本/mmの配線層を複数積層して、数万本/mmの配線を実現することは猛烈に難しい。そのくらいなら、オーガニック・パッケージ(こちらは配線層を積層するのは難しくない)を使った方がマシという判断だったらしいが、どちらにしても相当難易度の高い技術である。
このI/FをAMDはインフィニティ・リンクと呼んでいる。また新しいI/F用語が出てきたわけだが、これもNaffziger氏によれば「上位層はインフィニティ・ファブリックであるが、物理層は独自」とのことであった。
実際RyzenやEPYCに利用されているインフィニティ・ファブリックの場合、配線長は最大10mmを超える(Ryzenで20mmくらいだろうか? EPYCは明らかに20mmを超えている)長さで、信号速度は30Gbps前後という構成である。
ただし本数そのものは16対(片方向32本:双方向で64本)と少ない。対してNavi 21の本数そのものは明示されていないが、配線長はせいぜいが1~2mmのオーダーだ。そもそもMCDとGCDが隣接して配されている以上、中央の“Die-to-die Fan out routing”の長さは1mmないと考えられる。
信号速度は、仮に本数が数千本だとすればあまり上げる必要はない。上げなくてもバス幅が広ければ必然的に帯域は確保できるからだ。前述の画像のとおり信号速度は9.2Gbpsとされており、加えて言えば、バス幅を広げて速度を落とすことは、SerDes(Serialize:De-Serialize)が不要ということになり、これはレイテンシー削減に効果がある。
Navi 31のMCDアクセスは、Navi 21のインフィニティ・キャッシュアクセスよりレイテンシーが10%削減できたそうで、それでいてトータルの帯域は5.3TB/秒と猛烈な数字を確保している。これが、Navi 31で猛烈に増えた(ざっくり言えば2倍以上になった)演算能力を支えているわけだ。
※お詫びと訂正:Navi 31のMCDアクセスに関する記述に誤りがありました。記事を訂正してお詫びします。(2023年1月14日)
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